トーベ・ヤンソン『ムーミン谷の彗星』 | 文学どうでしょう

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ムーミン谷の彗星 (ムーミン童話全集 1)/トーベ・ヤンソン

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トーベ・ヤンソン『ムーミン谷の彗星』(講談社)を読みました。「ムーミン童話全集」は全部で9巻あります。

昔、英語の勉強をしていた時に、英語に訳されていたのを読んでいたのですが、翻訳で読むのは初めてです。

アニメファンの人だと、原作とのギャップがあって、イメージとちがう~みたいなことがあるそうですが、ぼくはアニメをちゃんと見たことがない分、とても楽しめました。

どうせほんわかストーリーでしょ、とムーミンなめてましたが、すみませんでした。多分これは、大人が読んで面白い物語なのではないかと思います。すごくおすすめです。

『ムーミン谷の彗星』は、ほとんど地球最後の日を描いた物語だと言えます。彗星が衝突して、地球が滅んじゃうかもしれないわけです。

主人公のムーミントロール(ムーミン)はスニフ(カンガルーみたいなやつ)と一緒に、冒険に出かけます。星の大きさと宇宙が本当に黒いのかを調べに、天文台に行くんです。そんなこと調べてる場合かよという感じですが(笑)。

その旅の途中で、スナフキン(帽子かぶってハーモニカ吹いてるやつ)と出会ったり、スノークのおじょうさん(ムーミンのガールフレンドみたいなやつ)と出会ったりします。

そうして、彗星が衝突する時間が分かり、みんなで洞窟に避難することにします。果たしてムーミン谷の運命はいかに!? というお話です。

まず、ムーミントロールがなにかとか、よく分かりませんね(笑)。なんなんでしょう、ムーミントロールって。スノークとはまた微妙に違う生き物らしいです。ムーミンとスニフがどういう関係なのかも全然分かりません。

主に2点、触れときたいことがあって、まず初めに、シュールなコメディさが、とっても面白いってことです。

会話とかもそうなんですが、特に、みんながお店でものを買うところがあるんですよ。ムーミントロールはスノークのおじょうさんに鏡を、スノークのおじょうさんは、ムーミントロールに星の形のアクセサリーかなにかをあげたい。それぞれみんな手に取ります。

でもみんなお金を持っていないわけです。ふつう買えないでしょう? でも買えちゃうんです。スナフキンが、自分はもっと古いズボンがいいから、といってズボンを買うのをやめるんですが、その辺りで奇妙な論理が働いて、買えちゃうんです(笑)。

どうやって買ったか気になる方は、ぜひぜひ本編を~。こういったシュールな笑いが、ぼくはとても好きでしたね。

もう1点は、それぞれのキャラクターが、おそらく人間の性質を象徴しているということです。考えすぎる、じゃこうねずみとか、悩むスニフとか、論理的なスノークとか、それぞれに性格があるんですが、それが人間の性質の一つを表している。

人間はもうちょっと複雑ですから、たとえばぼくの場合はスノーク+スニフという風に、いくつか合わさった性格といえます。つまり、そういった誰もが持っている性質の一部分、一部分が個別にキャラクター化されているのでは、ということです。

みなさんも、自分がどのキャラクターに共感できるか、探してみるとよいのでは?

スニフの性質がすごくいいんです。ぼくがより共感できるということです。くよくよしてるというか、洞窟を発見したのはスニフなんですが、みんなが「わたしたちの洞窟」と言うたびに、「ぼくの洞窟だよ!」と訂正します。

ねこが好きで、仲良くなりたいんですが、なかなかうまくできない(この辺り、恋愛と似ています)。ムーミンママがケーキに、ムーミントロールの名前しか書いていないことで、すねたり。

憧れる性質は、やっぱりスナフキンですね。みんなぼくのものだよとスナフキンは言います。きらきら光る石を、スニフはリュックに入れて持っていこうとするのですが、スナフキンは、きれいなものは、頭の中にしまっておけばいいと言います。それがすなわち自分のもの、ということだと。

所有せず、固執しないスナフキンの考え方は、なんだか荘子とか、道教的な思想と共通点があるような気がしますね。ああなれたら、どんなに人生が楽になることか。

とりあえず、そんな印象でした。つづきの巻も読んでみます。

おすすめの関連作品


恒例のリンクですが、シュールな笑いの本をいくつか。

まずはアーノルド・ローベル『ふたりはともだち』です。これすごくおすすめですよ。

ふたりはともだち (ミセスこどもの本)/アーノルド・ローベル

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絵本なんですが、傑作です。大人の方が楽しめるはずです。シュールで、哲学的で、友情あふれる話に心が温かくなります。ぜひぜひ。4冊くらいシリーズがあったと思います。

それから、A.A.ミルン『クマのプーさん』です。こちらもまたいいんですよねえ。

クマのプーさん (岩波少年文庫 (008))/A.A.ミルン

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いわゆる「クラシック・プー」で、アニメとはまた違った、独特の世界観が楽しめます。なんだかこれがまた読みたくなったので、近い内に読み返してみます。