川上弘美『ニシノユキヒコの恋と冒険』 | 文学どうでしょう

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ニシノユキヒコの恋と冒険 (新潮文庫)/川上 弘美

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川上弘美『ニシノユキヒコの恋と冒険』(新潮文庫)を読みました。

これもピグの茶屋ですすめられた本です。みなさんいつもどうもありがとうございます。

この作品は長編ではなく、様々な女の人が主人公の短編に、ニシノユキヒコという男が出てきて、恋というか肉体関係に至るんですが、結局別れてしまうという話です。

ニシノユキヒコというのは、心情が描かれることはないのですが、どうにも不思議な男です。

印象的には草食系男子っぽいんですが、強引にキスしたり、なんだかそういうことは非常に肉食系でありつつ、がつがつした感じというよりは、いつの間にか心に入り込んでいる感じらしいです。

それでいて、どうして恋愛が成就しないのか。ニシノユキヒコはどうも変な存在として描かれます。女の子にはモテて、ひっきりなしに電話がかかって来ます。

なのに、幽霊みたいにどこか存在感がないというか、なにか欠けている感じがするんですね。これは、ニシノユキヒコのお姉さんというのが一つのキーになると思います。

結局、わたしのこと愛してないんでしょ、みたいなことでフラれることが多いニシノユキヒコなわけですが、本質的に愛が分からない人のような気がします。

まあ・・・、ぼくに愛ってなに? っていわれても困っちゃいますが、ともかく、普通の人がもっと無造作に扱っているものを、うまく扱えないのがニシノユキヒコのような気がします。

印象的な場面が2つあって、まずは公園のニシノユキヒコとお姉さんのおちちのシーン。三島由紀夫『金閣寺』の寺の場面を彷彿とさせます。

金閣寺 (新潮文庫)/三島 由紀夫

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もう一つは最後の短編の居酒屋のトイレで、ニシノユキヒコがこどものように泣く場面。すごくぐっと来ます。どうしてこんなにとめどない的なな所です。

なんだか不思議な小説でした。興味のある方はぜひぜひ。