(2021年6月に店舗サービスを終了したチケットぴあ)
【問題背景】
ぴあに関しては、これまでいろんな人が苦言を呈していて、この会社に関しては数年前から注視していました。コロナ禍でコンサートが相次いで中止になった時に、コンビニに何度か払い戻しをしに行ったところ、近所のコンビニのオーナー店長が「チケットは手数料が低くて儲からないし、チケット代が合計で5万円以上だと領収書に印紙(200円)を貼らないといけない」とぼやいていたり、あるイベント興行主は「ぴあでチケットが売れた場合は10%の手数料が取られるが、中止で払い戻す場合もぴあに手数料が取られて、赤字が膨らむ」などの話を聞いてました。公演中止の場合の手数料の二重取りの話を聞いて、同級生の弁護士と信用調査会社の友人と共に、様々な関係者にヒアリングをして、チケットぴあの実態を事実ベースでまとめつつ、今後についての示唆を書きたいと思います。今回のブログでこの話をまとめてすることにしたのは、先週土曜のYahoo!ニュースで下記のチケットぴあの「高額手数料問題」が取り上げられていて、ネットのコメントではネガティブな意見が多数を占めているからです↓。
【ぴあのビジネス】
ぴあの創業はエンタメ情報誌「ぴあ」を創刊した時で、この雑誌には本当にお世話になりました。2011年に休刊した時は残念でしたが、ぴあのチケット販売ビジネスは1984年に始まり、当時は電話または店舗で予約し、店舗でチケットを発券していましたが、今のような各種手数料はなく、チケット額面だけを払うだけでした。インターネットでの販売は99年に開始していますが、ある段階でチケット購入者が手数料を払う必要になりました。
【ぴあの高額手数料問題】
1枚あたり100-200円くらいであれば大した話ではないですが、先程のネットニュースにあるように昨年より各種手数料が値上がりになり、問題になりました。ぴあの手数料は下記のリンクに書いてあります↓。
https://t.pia.jp/guide/charge.jsp
(このサイトはシステム・メインテナンス中とかで見れない時があります)
友人が最近、チケットぴあでS席10000円のチケットを2枚購入したところ、ネットの記事のタイトルにあるように、1枚あたり1500円以上の手数料が取られたそうです↓。
(友人がチケットぴあから受け取ったメールより抜粋)
友人はこの手数料金額に驚いたそうで、購入前にどこかに手数料のことについて注釈があったのかは覚えてないそうですが、1枚あたり1540円もかかるのであれば、他の方法にすべきだったと後悔してます。上記の事例は先行販売で「特別販売手数料」が取られているので特殊ケースかもしれないので、仮に、通常の場合として、1枚5500円のチケットをぴあで予約・購入すると、①決済手数料330円、②システム利用料330円、③発券手数料165円が発生し、合計で825円の手数料になり、チケット額面の15%がかかることになります。これは格安チケットで楽しむLFJや学生席のチケットの半額に近い手数料になります。さらにチケットぴあは興行主から10%の手数料を取るので、チケット額面5500円の25%の手数料を得ていることになります。この手数料率は通常のビジネスでは異常値だと思います(企業のM&A取引などの例外は除く)。この手数料の値上げに関して、ぴあの広報は以下のように回答しています↓。
(ぴあ広報の回答: 上記ネット記事より引用)
◆決済手数料
内容:チケット代の支払いに際する収納代行サービスの手数料
課金理由:取引先(提携コンビニエンスストア、イーコンテクスト等)に支払う手数料、通信コスト、及びチケット代金決済に関わるシステムやサービスの運用費として
値上げの理由:取引先に支払う手数料や各種流通コストの値上げ、セキュリティ対策の強化、システムコストの高騰
◆発券(発行)手数料
内容:チケットの発券、及び電子チケット発行の利用時に生じる手数料
課金理由:取引先(提携コンビニエンスストア、電子チケット運営会社等)に支払う手数料、特殊用紙代や流通コスト、及びチケットの発券・発行に関わるシステムやサービスの運用費として
値上げの理由:取引先に支払う手数料や各種流通コストの値上げ、印刷費や用紙代、通信費の値上がり、セキュリティ対策の強化、システムコストの高騰
◆システム利用料
内容:チケットぴあのシステムを使用する際に頂く利用料
課金理由:チケット販売全体に関わるシステムや設備、運用やサービス維持のための費用として
値上げの理由:増大するセキュリティ脅威への一層の対策強化、人件費の増加、運営費や通信費の値上がり、システム開発コストの高騰
—
以上、優等生的な回答に見えますが、ツッコミどころ満載で、詭弁かつ矛盾を感じます。まず、国内オーケストラやコンサート主催者のチケットサイトから購入しても、人件費などが高騰する中で、上記のような手数料がないところがたくさんあります。例えば、都響チケットは手数料は無いですし、チケット郵送料も無料です。セブンイレブンで発券しても手数料が取られません。第2にシステム利用料は1枚毎に発生するので、多くの枚数を買うと手数料が高額になりますが、課金内容を鑑みると「1件あたり」に発生するなら、まだ納得がいきますが、なぜ1枚毎にシステム利用料が発生するのが理解できません。第3に「システム開発コスト」とありますが、これは本来、企業の投資費用で賄うべきです。チケット発売日はぴあのシステムがシステム・エラー(サーバー・ダウン)が最も多く、希望の席が取りにくいのが、ぴあのシステムです(N響がチケットぴあのシステムを導入したのはとても残念です)。こんな手数料が認められると、今後は「データ・セキュリティ料」などのような新たな手数料が出てくるかもしれません。第4に手数料の値上げ理由に「通信料の値上げ」とありますが、それぞれ何の通信料のことなのでしょうか。このご時世、多くの通信料は安くなっていると言う統計データがあるのですが、不思議な理由です。第5にイベントが中止の際には、チケット購入者に3つの全ての手数料含めて返金されますが、いくら中止でも発生した費用である決済手数料・発券手数料は返金する必要はないのではないでしょうか(これらの費用は対価として発生しているので、会計上も計上すべきでしょう)。例えば、国際線の航空券を払い戻しする際に利用していない空港利用料、空港税、燃油サーチャージなどは返金されますが、発券手数料は戻ってこないです。したがって、上記のぴあの広報の主張には違和感を覚えますし、これに続いて、「キョードー東京」も手数料を上げるようですが、業界全体でぴあに追随するのは困ります。
【手数料ビジネスについて】
ぴあのような手数料ビジネスは様々ありますが、例えば、不動産を売買する場合は専門的な知識や手続きが必要なので、中古マンションを売る際に不動産屋に売買金額の3%の手数料は妥当だと思います。一方で、レストラン予約サイトでの予約は世界共通で無料で、加盟店が手数料を予約サイトに払ってます。最近ではデジタル化によって人手を介さないことで、ネット証券の株式売買の手数料などは安くなる傾向になっていて、ぴあの手数料値上げは世の中のトレンドから逆行しています。今年から銀行の「窓口」での振込手数料は880円から990円になってますが、これは人件費および賃料などの高騰もありますし、銀行としては支店業務を減らしネット振込をしてくれと言うメッセージもあるでしょう。大学生から教わったのは、飲み会代金を割り勘で銀行振込にしようとしたら、振込手数料のかからない「PayPay」にして欲しいと言われました。PayPayを銀行振込の代替として利用するのは素晴らしいアイデアですが、ビジネスの世界ではこのようなディスラプター(=テクノロジーを利用して既存の業界秩序を破壊する企業)が出てきます。チケット販売事業を例えば、PayPayがやって、QRコードでコンサート会場に入場する時代が来るかもしれません。
海外の事例を見てると、ベルリンやウィーンなどのオーケストラやザルツブルクやバイロイト音楽祭などでのチケットサイトでは販売手数料は取られません(Eventiumのような海外のチケット販売サイトでも、ぴあのような高額手数料は見たことはありません)。チケットの郵送料は発生しますが、多くの人はQRコードの電子チケットを選択し、手数料は無料です。
【今後のチケットビジネス】
ヨーロッパではコロナ以降、70歳以上のシニアの方でもQRコードのコピーやスマホを見せて、コンサート会場に入場するのが当たり前になっていて、チケットの実券を見せる人は少なくなりました。日本のコンサート会場では、いまだにチケットのもぎりがあり、これは本当に無駄だと思います。半券を切る習慣は映画館や演奏会が自由席であった頃の昭和の名残だと思いますが、デジタルで管理すれば会場の入口でのもぎりは不要です。この正月にTOHOシネマに映画を観に行きましたが、スマホで予約・購入して、スマホに送られてくるQRコードで入場します。映画館ではチケットレスが進んで、便利になったと思いますし、表向きには発券手数料・システム利用料などの訳の分からない手数料は取られません。これが世界基準なのですから、音楽の公演でも既存のチケット販売業に頼らないように進化してもらいたいと思います。
【まとめと補足】
友人の例で示したチケット1枚の手数料が1500円超の話を聞いた時は、歌舞伎町のぼったくり居酒屋のニュース(お通し代が1500円のような話)に似てると思ってしまいました。年間100回以上のコンサートに筆者としては、1枚ごとに1500円の手数料が当たり前の時代になると、年間15万円の手数料の出費となってしまいます(2人分買うと約30万円に膨れ上がります)。これはとんでもない話ですが、上場企業が株主のために利益を拡大し、配当を増やしていくのは使命であるので仕方ないです。これからは、利益を求めない公益財団法人のオーケストラとホール、良心的な主催者のチケットサイトからなるべく購入したいと思いますし、自治体はこのような団体に対してデジタル化に支援してもらいたいと思います。さらにチケット手数料問題を解決する民間企業(=ディスラプター)が出てくることも期待しています。例えば、NTTドコモ系列の「Teket」は電子チケットサービス会社で、この会社を利用したことはないですが、チケット購入手数料無しで、通信・システム系に強い会社ですので、可能性があると思います。結果、訳の分からない高額手数料を取るビジネスは淘汰されるのが、ビジネスの摂理であると思います。
大前研一氏は「ぴあはチケット販売事業から脱却すべき」と仰ってました。ぴあがクラシックのコンサートを主催していて、その一例が昨年のフランクフルト放送響の来日公演ですが、主催にはジャパン・アーツ/ぴあと書いてあります。協賛しているスポンサーは、ぴあが上場した時の主幹事証券会社です。これはネットなどに書いてあるオープン情報ですが、証券会社からするとぴあがお得意様の立場なので、ぴあに対してスポンサーの話を断りにくい構造のようで、ぴあはその証券会社から協賛金を得た上で、さらにチケット購入者及び主催者から手数料を得ているわけです。このぴあの三重取りの構造自体は、商習慣として問題はないのですが、フランクフルトの楽団の事務局に聞くと、ぴあとのやり取りは来日公演の実務的なやり取りはなく、基本はジャパン・アーツが招聘に関わることをやっていたそうです。繰り返しになりますが、上場している営利企業がどのように儲けようが自由ですが、この来日公演に関して実務的にあまり動いておらず、大した付加価値を生んでいないのに、3者からお金を取る構造は疑問に思います。つまるところ、手数料の高いチケット販売会社が使わなければ良いのですが、そうできない場合もあります。例えば、ぴあは新国立劇場に年間3000万円程度の協賛することで、開館以来、チケットを独占的に販売してます。このようにチケット販売会社がコンサートなどに協賛してチケットを独占販売するスキームは他のチケット販売会社でもやっていることですが、この利権ビジネスは世界的にはあり得ないことで、音楽文化資産を食い物にしていると思います。ぴあに関してはまだまだ語れることはあるのですが、今回はここで終えておきます。本日もお読み頂きありがとうございました。