クラシック音楽界だけでなく、人間社会ではスキャンダルが絶えないものです。今日はスキャンダルの範囲、程度、禊問題について事例と共に書きたいと思います。優秀な指揮者の数が多くない中で、セクハラ疑惑で指揮者のロトがケルン・ゲルキュツェニヒの音楽監督を解任され↓、来年2月の来日公演も指揮者交代になり、SWR響のシーズン・ファイナルも降板されました。


しかし、クルレンツィスの後任で25/26シーズンからロトがSWR響の首席指揮者の予定でしたが、こちらはオケ側の調査結果で問題無しとされ、契約は変更せず、今のところ、ロトがSWR響のシェフの予定になっています。ここにハラスメント問題の曖昧さが出ていると思います。


アーティストのスキャンダルに関して、多くの出演に関する契約書を見ると、刑事罰含めた法令違反(薬物、飲酒運転、暴行など)は契約破棄ができますし、日本の契約書では反社勢力との関わりが発覚した時点で契約解除ができるようになってます。これは契約書に明記されている事案なので、クリアに白黒がつきます。しかし、不倫や刑事罰にならないセクハラ・パワハラなどは解釈や程度問題もあり、契約解除はしにくいです。ハリウッドでも活躍していた日本の大俳優が週刊誌に不倫と報道されても、CMの出演契約は解除しにくいと聞きます。結果、スポンサーが自主的にその俳優のCMを止めて、スポンサー側に負担が生じますが、俳優側は以後の出演する番組などが減るくらいの影響で、その俳優は今はテレビに出ています。2019年に#me too運動の流れで、ドミンゴがアメリカなどでの公演は降板させられましたが、夏のザルツブルク音楽祭は寛容で、コンサートではセクハラ疑惑を知っている観客から大喝采で迎えられました。

その後、ドミンゴは日本には数度来日し、歓迎されてますが、結局、ドミンゴのセクハラ疑惑は解決したと言う理解で良いのでしょうか。


もう一つの興味深い事例は、2018年のガッティがセクハラ疑惑でコンヘボを解任されて、一時期は自粛期間がありました。

その後、ガッティはローマ歌劇場音楽監督、フィレンツェ歌劇場音楽監督を経て、来シーズンからはドレスデンの首席指揮者に就任します。これも、問題自体が和解して解決したのか、あるいは、禊期間が終わったのか、曖昧な話です。日本で言うとデュトワの復活も同じような展開ですが、日本で活躍しているアーティストで「何で復活してるの?」と思う代表例がプレトニョフのタイでの14歳男性への性的暴行で逮捕されてますが、これはレヴァインと同じように永久追放されて良いレベルなので、彼の演奏会には行かないことにしています。


反対意見の方もいるかと思いますが、結局、多くの過去の事例を見ると、契約書に記載していない不倫やセクハラの類いはすぐに許される場合もあれば、禊的な時間を経て復活する場合もあると言うことになります。唯一無二の才能をそのままにするのは勿体無いので、殺人などの凶悪犯罪でない限りは、許されることが多いのでしょう。逆に、深刻なセクハラを受けた方は、スマホなどを活用すればいくらでも直接証拠を警察・裁判所に出せますので、刑事罰に持ち込むくらいの気概で相手と闘って欲しいです。日本の事例としては、約1ヶ月前に人気ピアニストの清塚信也さんの「不倫デート疑惑」が週刊誌に出ました↓。

これを受けて、清塚さんが毎週出演しているNHKのEテレ「Classic TV」がどのような対応をするか注目していたのですが、番組はOA継続されました。この記事をよく読むと不倫までの状況証拠としては弱く(例えば、2人で友人のホームパーティーに参加したなどの様々な理由が成立します)、NHKの対応は正しいと思います。こう言うツメの甘い報道は慎んでもらいたいですし、稀有な才能を潰す悪意のある報道も避けて欲しいです。筆者からすると、浮世話のような小さな問題は虚ろ話のように思えてなりません。基本的には社会通念よりも、法令違反の方が重大であると言う認識です。


最近、日本の多くのニュースでパワハラ、カスハラ、マタハラなどの問題が取り上げられますが、その被害に合われた方は大変かとは思われます。しかし、世界基準で言うと、日本社会にはハラスメントの種類が多過ぎて、センシティブになり過ぎだと個人的には思います。例えば、セクハラと言う言葉と概念は海外でもありますが、パワハラは和製英語で、海外にはあまり無い概念です。パワハラはあえて英語で言うとAbuse(権力の乱用)になりますが、米国や東南アジアなどの労働流動性が高い国(=転職社会)では、上司からのパワハラと感じた場合はすぐに辞めてしまい、転職することが多いです。例えば、米国前大統領はどう考えても、スタッフにパワハラしていると思いますが、だれもパワハラで訴えていません。権力の乱用を裁判で認められるのが困難だからですし、転職の際にリファレンス(かつての職場などへのヒアリング)が取られますので、物事を荒立てると転職に不利になるのです。日本ではまだ終身雇用が根付いているので、パワハラなどの言葉が使われるのだと思いますし、「お客様は神様だ」と言う商売意識のある日本だからこそ、カスハラの問題が話題になっています。これは日本固有のハラスメント問題で、これらの種類が多いことをやや憂慮しております。本日もお読みいただきまして、ありがとうございました。