ロイヤルオペラ来日公演の「トゥーランドット」(最終日)にいきましたが、今日も満員御礼でした(実はパッバーノ音楽監督としての最終公演でもあるので、最後にサプライズがありました)。


前回は歌唱と音楽面を中心にコメントしましたが↓、今日は演出面を中心に書きたいと思います。


演出家のゼッフィレッリ先生は「演出の全てに理由がある」と仰っていましたが、これは映画やドラマなどの演出にも通用すると考えます。40年前に制作されたセルバンによる本作品は、スペクタクルで分かりやすい演出なのですが、いくつか「理由」が不明な点があります。例えば、開演前と終演時に赤い6本の幕が垂れていますが、何故、6本なのでしょうか?主要登場人物の数(4本または5本)であれば、なるほどと思うのですが、神経質な筆者はこの点が引っかかっていて、いまだに「謎」が解けていません↓。


今日も開演前から民衆がスタンバイし、ロイヤルオペラのConnacht Simms事務局長がトゥーランドット役が代役のプウォンカになったことをスピーチしていました。公演の1週間前に、こんな素晴らしいソプラノ歌手を代役で来日させるカンパニーとマエストロの力量は賞賛に値します(新国立劇場のスカラピアの代役と仕切りが大違いです)。この時にパッハーノはピットに入っていて、拍手無しで音楽がスタートするのは、プッチーニがワーグナーの楽劇を目指していたからでしょうか。この点は公演プログラムのp.58のパッパーノによるインタビューに書いてあります。今回の公演プログラムの素晴らしい点は日本のオペラ評論家による執筆が少なく、ロイヤルオペラ側から提供されたインタビューやコラムがとても勉強になりました。本公演の演出面での特徴は2つあり、1点目は第1幕で3人の大臣やイギリスから来日したダンサーによるアクロバットや太極拳のような動きの激しい振付です。特に3人の大臣は歌いながらの演技ですので、よくこなしていました。


2点目は大道具がサーカスのように次々と出てくるので、観ている方は飽きないようになってます。例えば、第1幕での処刑台の車台が通るシーンや↓、亡霊の巨大な面像(↑の写真に写ってます)、「月は死者たちの恋人だ」の歌唱の後に巨大な月が天井から降りてきます↓。



首切りになるペルシャ王子は子どものような背の低さで、これはこのオペラの「異常性」を暗示しているのでしょうか。トゥーランドットが登場する際は白い仮面をしており、3人の大臣や民衆らも仮面をしています。第1幕での歌唱は今日もリューが活躍していて、ティムールは安定感がありますが、カラフはオケの音に負けてしまう時があるくらい、弱かったです。これはこの幕の最後の三重唱でも確認できます。カラフが巨大な鐘を鳴らすと、挑戦の開始を告げますが、カラフはナイフを持ったダンサーに囲まれて幕が閉じます。

第2幕もパッパーノはピットに乗っていて、拍手無しで音楽がスタートし、ピン・ポン・パンの3人の大臣による歌唱では、故郷を回想するシーンがあり、中国の山や川などが描かれた絵幕が出てきます。皇帝が登場する間奏曲ではダンサーによる踊りがあり、飽きない工夫があります。皇帝を迎い入れるファンファーレが出て、皇帝が玉座に座りながら、天井から降りてきます↓。


皇帝は仮面を付けてませんが、カラフ・リュー・ティムールの3人も仮面を付けてません。これは何故なのでしょうか↓。


仮面をつけてない登場人物は素の姿の人間、仮面をつけてる人は圧政下で素を出せない人とも言えますし、善人と悪人の違いとも言えるかもしれないです。「3つの謎」かける時のトゥーランドットは赤い衣装で、このシーンでは仮面を自ら外していました。仮面はステージ上の演者が西洋人が多いので、西洋感を抑えるためのカモフラージュする効果もあったと思われます。カラフが全ての謎を解くと、民衆は歓喜に沸きますが、トゥーランドットは悲しみながら、皇帝にこの誓いを破棄するように懇願します。善人の皇帝はこれを拒否します。この時のトゥーランドットの絶叫は凄かったですし、音楽も生き生きとした音楽でした。ラストの「皇帝万歳」の合唱のシーンで、10人のダンサーが出て来て、幕が閉じます。今日のパッパーノの音楽はティンパニを中心にスフォルツァンドを存分に入れていて、3日前の音楽とは別物に仕上がってました。その理由は、カーテンコールで判明します。

第3幕の前では赤い緞帳が降りていて、パッパーノが拍手で登場しますが、この演出意図は分からないです。プッチーニの十戒に「緞帳は音楽的に開閉させること」とありますが、これに関連しているのでしょうか。幕が上がると、北京の街中で、民衆が白い提灯を持って歩き回っています。カラフが赤い衣装で登場しますが、第2幕までは青い衣装=挑戦者で、第3幕は赤い衣装=王者を意図していたのでしょうか。カラフの「誰も寝てはならぬ」は今日も安全運転的な迫力が弱い歌唱でしたが、最後の伸びは長かったです。その後、3人の大臣が美女を連れて、カラフを誘惑しますが、カラフは断固拒否します。苛立つ大臣たちがリューを捕まえて、脅されて痛めつけながら、カラフの名前を聞き出そうとしますが、これもうまくいきません↓。


そこに白い衣装のトゥーランドットが入ってきて、その様子を見ています。リューが耐えかねて、《氷のような姫君の心も》の感動的なアリアを歌い上げて、処刑人の大きな刀を奪って自害します。リューの遺体は白馬の車で静かに運ばれます。カラフがトゥーランドットの白いマスクを剥がして、カラフは彼女への愛を歌い、接吻しようとしますが、トゥーランドットは拒否して、倒れ込みます。カラフが自分の名前と身分を告白し、皇帝と民衆らが入って来ます。トゥーランドットがカラフの名前を言おうとした瞬間に、カラフは自害しようとナイフを腹に刺そうとしますが、「その名は愛」と叫んで、カラフはトゥーランドットに寄り添います↓。


華やかな合唱によるフィナーレは民衆が歓喜喝采の最中で、ティムールがリューの遺体が乗っている白馬の葬列がステージ前方に通ると言う悲劇のコントラストがありました。最後は6本の赤い帯が出てきて、幕が閉じます↓。


以上が演出面の分析を加えた感想になりますが、3つくらいの「謎」が残る演出でした。しかし、プッチーニの十戒にある「表現の色彩を守れ」「舞台のドラマティックな雰囲気を壊すな」は守られていました。今日の音楽は3日前とは格段にレベルアップしていて、最終公演でパッパーノは最後まで全力でエネルギッシュなタクト、オケから鋭い音や爆音が出ていました。赤の緞帳が降りてからのカーテンコールがあり、その後、パッパーノのロイヤルオペラ・音楽監督として最後の公演を祝うセレブレーションがありました↓。

この時の盛り上がりは観客と同様に、ステージ上のメンバーもかなり盛り上がってました。パッパーノがハッピーエンドのトゥーランドットを最後の公演に選んだ理由が納得いきますし、22年間務めた音楽監督として最後の公演に立ち会えたのは貴重な機会でした。パッパーノの次回の来日は今年9月ですが、これはロンドン交響楽団の首席指揮者となったばかりのツアーですので、こちらも楽しみです。


(評価)★★★★ パッパーノ音楽監督による最後の公演を鑑賞できました

*勝手ながら5段階評価でレビューしております

★★★★★: 一生の記憶に残るレベルの超名演 

★★★★:大満足、年間ベスト10ノミネート対象

★★★: 満足、行って良かった公演

★★: 不満足、行かなければ良かった公演 

★: 話にならない休憩中に帰りたくなる公演 


指揮:アントニオ・パッパーノ

演出:アンドレイ・セルバン

再演演出:ジャック・ファーネス

美術・衣裳:サリー・ジェイコブス

照明:F.ミッチェル・ダナ

振付:ケイト・フラット

コレオロジスト:タティアナ・ノヴァエス・コエ

ーリヨ


トゥーランドット姫:エヴァ・プウォンカ

カラフ:ブライアン・ジェイド

リュー:マサバネ・セシリア・ラングワナシャ

ティムール:ジョン・レリエ

ピン:ハンソン・ユ

パン:アレッド・ホール

ポン:マイケル・ギブソン

皇帝アルトゥム:アレクサンダー・クラヴェッツ

官吏:ブレイズ・マラバ