今日は久しぶりにMETオーケストラを鑑賞しました。METのオケは変幻自在でパワフルなイメージがあります。毎週火曜日から日曜日までバロックから現代のオペラを演奏し、土曜はマチネとソワレの2回のオペラをこなしています。これはかつての芸術監督のレヴァインが鍛えて上げた影響があるでしょう。コロナ禍があけてから、初めての来日なので、どんなオケになっているのか、興味がありました。開場して早めに先に座っていると、団員の一部が調整していて、その中に、首がかなり曲がっている白髪の女性ヴィオラ奏者が入ってきました↓。

この方が本当に弾けるのか、不安な脚どりでしたが、その後、一度、楽屋にはけてしまいましたが、結局、Vaの2列目のプルトで演奏していました↓。


前半の1曲目のモンゴメリーは1981年生まれの現代作曲家によるものですが(日本初演)、教会の鐘のような音から始まり、田園風景を描いているような美しい旋律で始まります。調性も整っていて、聴きやすい曲です。様々な情景が回想されながら、中間部ではトゥーランドットのような東洋風の曲調になり、ブルックナーのような死の動機が出てきた後に、終結部に向かって、フルートとトランペットが消えるようにして、曲が終わります。


モーツァルトはMETを代表するソプラノ歌手のオロペサによる歌唱で、今日はオロペサをメインで聴きに来たわけです。モーツァルトの2曲ともに初聴ですが、「私は行きます、でもどこへ」では、オロペサの透き通った良く通る美しい歌声で、さすが、METの大劇場のスター級歌手の安定感がありますし、声量も十分ありました。変幻自在の小編成のMETも、このモーツァルトの曲をうまくサポートしていました。この曲は7分くらいでした。次の「ベレニーチェに」は、レスタティーヴォが3分くらい続いて、アリアに入ります。このアリアはモーツァルトが11歳くらいで作曲されたもので、完成度は低いですが、オロペサが魔笛の夜の女王のような高音域を何度もこなし、圧倒的な歌唱力を披露してくれました。このアリアも7分くらいで終わってしまい、あっという間にオロペサの歌が終わってしまうのは残念でした。できれば、明後日のロイヤルオペラの「リゴレット」で歌って欲しいくらいの素晴らしい歌手です。


後半のマーラー5番は名演と駄演のグラデーションの幅が大きいので、あまり実演を聴きに行きませんが、2019年8月のザルツブルク音楽祭でのバレンボイム指揮・ウィーンフィル以来です。この時のウィーンフィルのアンサンブルの美しさとバレンボイムの指揮の鋭さは鮮明に覚えています↓。

(2019年8月のバレンボイム指揮・ウィーンフィルのマーラー5番)


今日の第1楽章の冒頭のトランペット・ソロの入りが滑ってしまい、とても残念でしたが、その後のオケからはパワフルな音が出ていました。セガンのタクトはエネルギッシュかつ的確な動きで、立体的な響きになっていました。セガンは第1と第2楽章を連続し、第3楽章を中間楽章、第4と第5楽章を連続楽章とするシンメトリー構造としていました。第2楽章から、セガンがさらにリズミカルにオケを推進して、2ndVn奏者が弓を落としてしまうハプニングが起こったのはこのあたりだったと思います。このあたりまでは良かったのですが、隣のオッサンが昼間の暑さによる汗だらけの異臭男性で、隣は龍角散を舐めているオバサンで、両隣からきつい異臭に取り憑かれまして、筆者の集中力が鈍ってきます。そのため、この後のコメントは少な目になります。第3楽章でのホルン・ソロは立奏で冒頭はうまく決まっていましたが、トランペットはキズが目立ちます。弦楽のピッチカートあたりから、私がさらに疲れてきて、最後のホルン・ソロも滑ってしまい、今日のマラ5はこの段階で駄演感が漂ってきます。人間は正直なもので、この第3楽章が終わって、帰る方が何人かいらっしゃいました。天下のベルリン・フィルでしたら、この後の聴きどころの楽章の前に帰る人はいるのでしょうか。有名な第4楽章の弦楽セクションに演奏は官能さやエモーショナルさが削がれた感じに聴こえて、この楽章で深みと重みを感じないのは珍しいです。残念ながら、日本の中レベルのオケと同じ感じで、全く心に刺さりませんでした。最終楽章は筆者の大好物の楽章なんですが、この楽章では筆者が周りの環境含めて不快指数が高くなり、不感症になってしまい、あまりコメントできませんが、セガンが冒頭からずっとエネルギッシュに指揮をしていますが、音の整理がきちんとできておらず、構造的にも美学的に良ろしくない演奏で、コーダ手前では金管セクションの疲れが目立ちました。コーダもきちんと整理されていない演奏で(=解釈の詰めが甘い)、あまり心に響かないマラ5でした。アジアツアー中に毎回公演前のリハをやっていれば演奏は進化するのですが、アメリカのオケは当日リハをしないので、このような粗い演奏になりがちです。今日のような聴いて疲れるマラ5は久しぶりです。前半の評点は四つ星でしたが、後半は二つ星の残念なマーラーでした。アンコールは当然ですが、ありませんでした。普通、ここまでやり切ったら、アンコールは不要です。アメリカのオケの問題点は3月の当ブログで書きました↓。


また、今日もスポンサーの龍角散を配布していましたが、会場で販売しているプログラムに龍角散社長のメッセージがありますが、これが一風変わっており、27日の公演に行かれる方は是非、ご購入してみてください。



(評価)★★★ 前半は好演、後半は駄演でした

*勝手ながら5段階評価でレビューしております

★★★★★: 一生の記憶に残るレベルの超名演 

★★★★:大満足、年間ベスト10ノミネート対象

★★★: 満足、行って良かった公演

★★: 不満足、行かなければ良かった公演 

★: 話にならない休憩中に帰りたくなる公演 


出演
指揮:ヤニック・ネゼ゠セガン
ソプラノ:リセット・オロペサ
METオーケストラ
曲目
モンゴメリー:すべての人のための讃歌[日本初演]
モーツァルト:アリア『私は行きます、でもどこへ』『ベレニーチェに』
マーラー:交響曲第5番 嬰ハ短調