今日はピノック指揮の紀尾井ホール室内管(KCO)を聴きに行きました。ピノックは元々、チェンバロ奏者で、イングリッシュ・コンサートを創設してから、ピノック指揮によるバロック音楽やモーツァルトなどの録音が素晴らしく、昔から録音に親しんでいました。今日の曲目はロマン派で、しかも室内楽的な曲でない点が特徴です。今日のKCOは日本オケの首席クラスを中心に構成されていて、N響は今週水曜と木曜日に定期演奏会がありましたが、N響からは大宮(Vn首席)、吉村(Ob首席)、水谷(Bn首席)、勝俣(Hrn)の4人が乗っていて、定期演奏会に影響が出るのではと思うくらいです。


前半1曲目のKCOの名手による格調高いウェーバーで、ピノックらしいエネルギッシュな指揮でオケがきちんと対応していて(特にホルン)、コーダはウェーバーらしい高貴な音楽に仕上がっていました。

2曲目は初来日公演となるバラナス(Vn)のソロによるドヴォルジャークのコンチェルトですが、冒頭のVnセクションの乱れやソロの序奏にも粗いところがあり、不安になりますが、その後は整った演奏になりました。しかし、この曲のメランコリックな曲想をバラナスが表現していたかは疑問で、ソリストとしての主張も弱かったです。この方は本当にソリストが合っているのかも疑問に感じました。むしろ、例えば、オーボエ吉村さんのソロの方が美しかったです。第2楽章でも、バラナスのソロは低調なままで、ソリストもいるKCOの伴奏の方が迫力がありました。第3楽章からコンチェルトとしてやっとソロの主張が感じられましたが、ヴィルトゥオーゾ感は無く、オケの演奏が上手いのに、勿体ないと思いました。アンコールのバッハもやや粗い演奏でした。


後半のシューマンの交響曲第1番は、1stVnが8人、ホルンが4人とアンバランスな構成でしたが、ピノックのコントロールによってバランスが取れた演奏でした。第1楽章からトランペットとホルンのファンファーレがうまく決まり、早いテンポで演奏されました。展開部でのトライアングルが強調されていたのも印象的でした。第2楽章の緩徐楽章は、美しい弦楽セクション中心で展開され、特にチェロパートの旋律は素晴らしかったです。第3楽章では、ピノックの切れ味の良い指揮で、この楽章以降もかなりスピーディーな演奏であっさりしているため、この曲の荘厳さが少し弱く感じられました。第4楽章も全体的に早いテンポで緊張感のある演奏で、第2主題ではアコーギクを毎回効かせていました。これ以外では快速に進めて、あっという間に終わってしまった感じがありました。シューマンの交響曲ですと、バーンスタイン盤が頭にこびりついているくらい聴いてますが、これとは全く異なるアプローチでした。また、ティーレマンのようなドイツ風の重厚さもありませんでした。ロマン派のシューマンというよりは、ベートーヴェンの初期の交響曲のように聴こえましたが、ピノックによる力強い指揮でこう言う演奏もありだと納得させられました。KCOの安定した演奏もうまくサポートしていたと思います。終演後のピノックは満足そうで、ブラボーが何度も出ていました。KCOの公演で駄演が少ないところも素晴らしい点です(ウィンナー・ワルツは除く)。


今日の公演でコントラバスの池松さんがKCOを引退されるのでとても残念です。池松さんは初期のKCOから演奏していたと思いますが、昨年11月にN響の吉田さんもKCOを卒団されたばかりですので、コントラバスの名手がKCOに登場することを願います。


(評価)★★★ KCOによる安定感のある演奏を楽しめました

*勝手ながら5段階評価でレビューしております

★★★★★: 一生の記憶に残るレベルの超名演 

★★★★:大満足、年間ベスト10ノミネート対象

★★★: 満足、行って良かった公演

★★: 不満足、行かなければ良かった公演 

★: 話にならない休憩中に帰りたくなる公演 



出演者
トレヴァー・ピノック(指揮) 
 クリスティーネ・バラナス(ヴァイオリン)
紀尾井ホール室内管弦楽団
曲目
ヴェーバー:歌劇《オイリアンテ》序曲、ドヴォルジャーク:ヴァイオリン協奏曲イ短調 op.53[ドヴォルジャーク没後120年記念]、シューマン:交響曲第1番変ロ長調《春》op.38

《ソリスト・アンコール》

J.S.バッハ: 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第3番より第3楽章