今日はジョージア生まれのツォトネ・ゼジニゼ(2009年8月生まれの14歳)の日本デビュー・リサイタルに行きました。昨年のNHKのドキュメンタリーでツォトネが取り上げられてから、彼のことを知りました。ベルリンでもツォトネは注目されていて、音楽関係者から彼についての話を聞きましたが、バレンボイムは「21世紀のモーツァルトはジョージアから来た」と言ってますし、ラトルと24年1月にバイエルンで共演し、ラトルが今後もツォトネと共演したいと言っている「天才ピアニスト」です。告知チラシで「天才ピアニスト」と書いてありましたが、個人的な印象では、今日の自作の曲を聴くと、天才作曲家とも言えます。ツォトネは5歳の時に母親を亡くし、ピアノの教授で祖母のニノ・マムラツさんにピアノを5歳から教わります。9歳の時にトリビシでピアノリサイタルを行ってから、22年と23年はヴェルビエ音楽祭にも出演し、国際的に注目されることになります。本格的な作曲は6歳から誰からも教わらずに、自然発生的に始めたと聞いており、祖母の方針で、誰かの教えでその先生の色をつけることなく、自由に作曲をさせ、今ではオーケストラの譜面も書いているそうです(音楽の友や今日のプログラムには、5歳からピアノと作曲を始めたと書いてありますが、筆者は本格的な作曲は6歳からと聞いています)。彼は音楽学校には通っておらず、普通の学校で教育を受けていますが、この点が天才的と思われ、今はジョージアでの義務教育中なので、数年後にはベルリンあたりに拠点を移して、さらに国際的に活躍することでしょう。今日の浜離宮朝日ホールは満席で、ジョージア大使もいらしていました。


普通の少年が力の抜けた感じで登場し、前半の1曲目は、本人がお気に入りの作曲家・シューベルトの4つ即興曲(D899)を演奏しました。第1番は感傷的な演奏で、ツォトネはオーバーなアクションで弾かずに、淡々と弾いて行きますが、内に秘めた思いが伝わります。第2番は綺麗なタッチで入り、その後はしっかりとした骨格を作りながら、パワフルな演奏でした。第3番では奥行きのある音になり、第4番では軽快でリズミカルに演奏して終わりました。まだ14歳で腕も細く、まだまだ成長中なので、巨匠ピアニストのような音圧は出ていませんし、やや深みが不足していたイメージがありますが、これからの成長過程で彼のピアニズムが完成してくると思います。キーシンが1988年にカラヤン指揮・ベルリンフィルと共演したチャイコフスキーの名演の時は、彼が17歳の時ですから、この差は段々と埋まってくると思います。


前半最後のツォトネの自作「二つの前奏曲」は、ドビュッシーのようなアプローチで、故郷のジョージアの風景を描いたような作品でした↓。 


後半はツォトネの自作が3曲続きますが、全て最近作曲されたもので、プログラムには書いてありませんでしたが、日本初演だと思います。例えば1曲目の「チャイム」は1ヶ月前に作曲されたものです。2曲目の「即興曲」は聴きごたえのある作品で、クラシックとジャズの要素が混在していて、14歳とは思えない大人っぽい演奏で、ラストは突然、現代音楽風に終わりました。3曲目の「ドビュッシーとラヴェルへのオマージュ」は3分くらいの短い曲で、この2人の作曲家のモチーフはあまり出ていなかったと思います。最後のラヴェルの「夜のガスパール」は、アルゲリッチと比べるとやはり音量・音圧が弱いのは仕方ないですが、《水の精》の後半部は神秘的に描かれていて、《絞首台》では不気味な雰囲気と狂気さをきちんと表現していました。《スカルポ》はタッチが強くなり、繊細な部分と激しい部分をうまく切り替えながらの秀逸な演奏でした。


アンコールは自作の曲で約1週間前に作曲されたもので、もしかしたら、世界初演だったのかもしれません。今日はツォトネのピアニストと作曲家の側面の両方を楽しめました。今後、良い形で成長して、世界で活躍して欲しいです。今月4日には高崎でリサイタルがありますが、まだ残席があるみたいですし、来年以降も来日する予定はあるそうです。


本日の演奏会に来れなかった方は下記の映像をもしよろしければ、お楽しみください。どちらも素晴らしい演奏です↓。

演奏動画(YouTube)

▼ツォトネ・ゼジニゼ 演奏 ラヴェル「夜のガスパール」(ヴェルビエ音楽祭 2023)

https://youtu.be/_hamgbX7-Vw?si=YRQOBVutU2shEeVD

▼ショスタコーヴィチ ピアノ協奏曲第 2 番(ジョージアフィルハーモニー管弦楽団と)

https://youtu.be/66VNDJ3BdFM?si=K_yiXtPoFsCEd-P2


(評価)★★★ ツォトネの将来性を感じる公演でした

*勝手ながら5段階評価でレビューしております

★★★★★: 一生の記憶に残るレベルの超名演 

★★★★:大満足、年間ベスト10ノミネート対象

★★★: 満足、行って良かった公演

★★: 不満足、行かなければ良かった公演 

★: 話にならない休憩中に帰りたくなる公演 


《曲目》

シューベルト:4つの即興曲 Op.90 D899

ツォトネ : 2つの前奏曲

ツォトネ : チャイム

ツォトネ : 即興曲

ツォトネ : ドビュッシーとラヴェルへ     のオマージュ
ラヴェル:夜のガスパール