昨日はサントリーホールでマラ9を聴いた後、自宅で休憩し、NHKホールへ向かいましたが、代々木公園の「タイ・フェスティバル」は物凄い盛り上がりで、NHKホールにアクセスできないほどの混雑ぶりです。そのため、代々木公園側からはNHKホールへの専用ルートが設けられているので、こちらを利用した方が良いでしょう↓。


(↑代々木公園側からのアクセス)


渋谷駅側からのアクセスはどうなっているのか分かりませんが、今日の午後のコンサートもかなりの混雑が予想されます。このイベントは新聞で見開きの告知広告などをやっていて、かなり多くの方を動員しています。


今月のN響定期はルイージが3つのプログラムを指揮して、4月からの新コンサートマスター体制の3人のコンマスがそれぞれのプログラムを担当します。Aプロはマロさんですが、この方は「特別コンマス」と言う肩書でいつまでコンマスをやるのでしょうか。個人的に好きではないので、一言申し上げると、ヨーロッパのオケではコンマスが定年退職した場合は潔くポストを譲り、エキストラでそのオケに乗ることは殆どないです。退任後は、ソロ活動、他のオケのゲストコンマス、教育活動などをされる方が多いですが、N響で言えば徳永さんはこの典型で、退任後はN響に乗ってないです。ベルリンの安永さんも同じです。ウィーンのキュッヒルさんは定年後1年間だけ特別に延長しましたが、その後はウィーン・フィルにコンマスとしても奏者としても乗ってません。他のヴィオラなどの奏者は定年後もエキストラとして乗ることはありますが、何故コンマスは引退後に乗らないのかを元ウィーン・フィルのコンマスに聞いたら、「コンマスはそういう伝統なんだよ」と言われました。マロさんのステージの登場シーンは自分が主役的に出てくるのがあまり好みではなく、特に、後半までソリストのように後から出てきて拍手を浴びるコンマスは、世界でもマロさんくらいだと思います。これはFactとして申し上げます。


今日の曲目は2人のイタリア人作曲家によるものです。レスピーギのローマの曲順が変更になった意図として、「両端に派手な松と祭を置く」と4月のプログラムノートに書いてありましたが、前半の2曲は軍隊が出てくるので戦争をテーマにしたもの、後半の2曲は平和的なテーマなので、このような曲順にしたとも考えられると思います。1曲目はパンフィリによる作曲ですが、1979年生まれの若い現代作曲家で、本番中はNHKホール1階の真ん中に座っていて、演奏後はスポット・ライトを浴びながら、会場から拍手を受けていました。この曲の2017年の世界初演(フィレンツェ)、2022年の改訂版初演(トリノ)ともルイージが指揮をしており、ルイージは作曲家の意図を十分汲み取った上での指揮なのでしょう。不気味な不協和音で始まり、戦いのイメージが出てきます。Tuttiの演奏になると、戦争だけではなく、現代社会の混乱など様々なモチーフが交錯して出てきます。情景を映し出すような映画音楽のテイストで、今日のレスピーギの曲とこの点でも共通していますが、この曲で何が言いたいのかは初聴ですので、よく分かりませんでした。前半2曲目の「ローマの松」の前に、サスペンダーおっさんと野球帽男が一緒に遅れて入ってきて、いつもの1列目で隣同士で座りました。《ボルゲーゼ荘の松》からルイージらしい軽快なスタートで進めていきます。《カタコンバの松》での信者たちの悲壮と祈りの歌は美しく描かれていて、《ジャニコロの松》ではナイチンゲールの鳥笛は2階のRサイドとLサイドから綺麗に響いていました。今日の白眉は明らかに《アッピア街道の松》で、この曲のローマ軍の行進部分は、誰が指揮しても盛り上がりますが、ルイージのこだわりが見られます。R側のオルガン奏者の横にはトランペット2、トロンボーン2、L側のいつもはTVカメラのバルコニーにはトランペット2がスタンバイしていて、ライブ会場でしか味わえない/聴けない、立体的なフィナーレで会場を圧倒します。鳥笛を含めると360度から音が出てきて、没入感に浸ることができました。この時点で今回のコンサートは十分に満足でした。ホルンは指定の4本ではなく8本でした。ルイージは息をきらせながから、指揮台から舞台袖に向かっていましたが、これほどの熱狂的な「ローマの松」を聴いたのは久しぶりで、今日のN響にも再度行きたいくらいです。ちなみに「ローマの松」は松がテーマではなく、松を通じて、古代ローマの世界を表現する曲想になっています。松は日本の松とは異なり、イタリアでよく見かけるイタリアカサマツのことです↓。

(↑イタリアカサマツ)


後半の「ローマの噴水」は、前半の戦争や軍隊のシーンは一転して、噴水の美しい情景が表現されています。《夜明けの噴水》と《朝の噴水》はファンタジー感の溢れる演奏で、《昼間の噴水》はネプチューンの凱旋のシーンですが、ワーグナーの指環のような壮大さを少し感じられます。《黄昏の噴水》は夕焼けが沈んでいく情景がうまく表現されていましたが、マロさんのソロの時に、マロさんの黒の靴下に白いロゴが入っているのが気になってしまい、本公演では視覚的に1列目からステージにかけての妙な光景が見えてしまいました。最後の「ローマの祭」は何と言っても《主顕祭》が圧巻で、主顕節前夜の広場でのお祭り騒ぎをルイージの強い推進力で、見事なフィナーレとなりました。この曲でもバンダのトランペット3が活躍し、ホルンも倍の8人を配置しており、ルイージのイタリア人としての矜持を感じます。この曲でもルイージは息を苦しそうにして、カーテンコールに応じていました。今回は情動的なルイージの燃えるような熱い指揮に圧倒されて、カラヤン先生並みの構成力と推進力のある素晴らしいレスピーギでした。先月のムーティのアイーダがあらゆる観点で酷かったので、ルイージのアイーダを聴いて見たくなります。ルイージは毎年12月と5月にN響を指揮するスケジュールを組んでいますが、今シーズンのルイージ公演ではNo.1の出来だったと思います(昨年の千人の交響曲より感動度合いが高いです)。今回の定期を鑑賞された方はかなり貴重な公演で得をしたと思います。


イタリア音楽に浸ったのですが、公演後のNHKホール周辺は「タイ・フェスティバル」で盛り上がっていて、ナンプラーの香りでタイ・ワールドにワープしました。TVニュースによると、このタイ・フェスティバルにはこの土日で30万人の来場が見込まれていて、NHKホール収容人数の100倍の数字ですから、やんごとないイベントです↓。


(評価)★★★★ ルイージによる素晴らしいレスピーギを堪能できました

*勝手ながら5段階評価でレビューしております

★★★★★: 一生の記憶に残るレベルの超名演 

★★★★:大満足、年間ベスト10ノミネート対象

★★★: 満足、行って良かった公演

★★: 不満足、行かなければ良かった公演 

★: 話にならない休憩中に帰りたくなる公演 

指揮 : ファビオ・ルイージ


曲目
パンフィリ/戦いに生きて[日本初演]
レスピーギ/交響詩「ローマの松」
レスピーギ/交響詩「ローマの噴水」 
レスピーギ/交響詩「ローマの祭り」