来年3月にベルリン・フィルデビューが決まったHIMARIさんを聴きに、錦糸町まで来ました。オックスフォード・フィルは初めて聴きますが、最初はオックスフォード大学生の楽団かと思っていましたが、そうではないようです。大学の楽団ではなく、キプロス出身のパパドロプーロスと言う知らない指揮者が当初はオックスフォードを拠点としたプロジェクト・オーケストラとして設立し、その後、オックスフォード大のオーケストラ・イン・レジデンスになりますが、あまりオックスフォード大とは深い関係性がないオケのようです。オックスフォード大卒の友人によると、このオーケストラの存在すら知らない人もいました。例えば、京都大学と京響にあまり関係性がないのと同様と捉えることができます。


前半のチャイコフスキーの「ロミオとジュリエット」は弦10型で低カロリーな音量で、特に金管が滑っていて、あまり聴くに値しませんが、チェロやヴィオラセクションに名手がいて、時に良い音が出ていました。クライスラーの「ジプシー女」と「中国の太鼓」からHIMARIが登場しますが、ステージに入ってから、HIMARIが演奏する今回の3曲ともにオケとチューニングしているところが注目です(かなり神経質かつ完璧主義なのでしょう)。彼女は、ずば抜けたテクニックだけでなく、顔を見れば分かりますが、圧倒的な記憶力と分析力を感じます。このクライスラーの2曲を通じて、例えば、若い時のMIDORIやコパチンスカヤ、最近で言うと日本人若手の前田妃奈のような激しい動きによるパフォーマンス的な演奏ではなく、かつての若きハイフェッツやムターのような、派手な動きをせずに、軸をしっかり取りながら、重みのある渋い音楽を聴かせてくれるところが最大の特徴だと思いました。HIMARIが年齢の若さを感じない巨匠的な音色を稀有な才能を持って出せることで、これまで様々なコンクールで優勝したことが納得がいきます。関係者の話ですと、HIMARIは耳と記憶力が優れていて、ハイフェッツやムターのような録音を再現できているところが最大の特徴であると考察しております。続く、ビゼーの「カルメン幻想曲」は12歳にはカルメンのストーリーの本質が理解できていないのではと思いましたが、響きは奥深くて、オペラのストーリー関係無しに、素晴らしい演奏でした。HIMARIは日系のMIDORIに例えられることがありますが、筆者からすると、若きムターのような芸風ですので、ムターと同じような成長曲線を辿って、成功して欲しいと思いました。まだ12歳ですと、これから手も腕も成長するので、レパートリーが増え、超絶技巧を聴ける機会を楽しみにしています。来年7月のスイス・ロマンド管来日公演(ノット監督)でHIMARIが共演予定ですが、こちらも期待できそうです。


後半のスコットランド交響曲は私の好きなベスト3交響曲で、昨年11月に実演で聴いた実演最高峰のゲヴァントハウス管来日公演にはかないません。前半から金管セクションが滑りまくりで、指揮者のパパドプーロスのタクトも曖昧かつ遅れた指示で、アンサンブルが合っていないところが多かったです。イギリスのオケによる壮大なスコットランドを期待していましたが、特に第4楽章のコーダのホルンがキズだらけで、スコットランドの情景がズタズタになりました。アンコールは2曲あったそうですが、興味なく、退場しました。

(評価)★★★ HIMARIさんの将来性を期待できる公演でした

*勝手ながら5段階評価でレビューしております

★★★★★: 一生の記憶に残るレベルの超名演 

★★★★:大満足、年間ベスト10ノミネート対象

★★★: 満足、行って良かった公演

★★: 不満足、行かなければ良かった公演 

★: 話にならない休憩中に帰りたくなる公演 


出演

マリオス・パパドプーロス[指揮・音楽監督]

HIMARI [ヴァイオリン]*

オックスフォード・フィルハーモニー管弦楽団

曲目

チャイコフスキー/幻想序曲「ロミオとジュリエット」

ビゼー(ワックスマン編)/カルメン幻想曲(ヴァイオリン独奏:HIMARI)

クライスラー/ジプシーの女(ヴァイオリン独奏:

HIMARI)

クライスラー:中国の太鼓 Op.3(ヴァイオリン独奏:

HIMARI)

メンデルスゾーン/交響曲第3番「スコットランド」