今まで(深夜3時半)、NHKのBS4K放送で、昨年12月のミラノスカラ座・開幕公演の「ドン・カルロ」を観ていました。さすがのスカラ座らしい豪華なキャスティングで、ヴェルディがスカラ座用に改訂した1884年ミラノ4幕版による点も見どころです。カーテンコールでは、超人的な歌唱だったガランチャやサルシには大きなブラボー喝采で、2人とも顔に涙を浮かべていましたが、当ブログではこの公演については以前、演出チームに対して、大ブーイングが出たことを取り上げました。しかし、今日のNHKの放送では、見事にブーイングの音声がほぼ全て削除されていて、ブラボー部分しか音が出ないように編集されていました。実際の観客による映像がこちらです↓

この公演映像はNHKが「共同制作」の3社の中に入っているので、編集する権利は契約内容によってあると思いますが、放送禁止用語の類いが削除されるのは当然ですが、ブーイングまで削除されているのは、どうなのでしょうか。何か、新たな放送ガイドラインができたのでしょうか。この点が、かなり疑問でした。なぜなら、野球中継などでのヤジや、米国大リーグだと大谷翔平選手への申告敬遠への「ブーイング」がそのまま中継やニュース報道されていますが、オペラの「ブーイング」はなぜダメなのでしょうか。ミラノの友人もこの演出は不満足と言ってましたが、それぞれの観客の表現の自由かと思います。加えて、今回の放映では、開幕シーズン公演の恒例の「イタリア国歌」演奏や各幕でシャイーがピットに登場するシーンもカットされています。仮に、イタリアから今回の編集版が送られてきたとしても、共同制作者のNHKがイタリア側に逆にきちんと突き返してもらいたいです。


ちなみに、先月の春祭の「アイーダ」でもブーイングが出たようですが、同公演の来月末の放送でもブーイングが削除される可能性がありますので、要注目したいです↓。

今日の放送のブーイング音声削除は見事な人為的な編集で、編集技術がかなり向上していることは分かりましたが、大ブーイングの瞬間に演出チームが戸惑っている顔と音声が一致しないので、バレると思います。


また、近年のNHKのN響コンサートなどの放映でも音編はよくありまして、奏者のミスが修正されていたり、実際の観客の拍手の盛り上がりも人為的に操作できて(バラエティ番組の脚色の観客の笑いと同じレベルです)、実際とは異なる現象がありました。演奏のミスの修正は許容範囲だと思われますが、ここで問われるのはNHKの編集方針とその範囲問題でしょう。都合の良いものはそのままイキとして、良くないものは削除できますが、この基準が曖昧です。例えば、今後は演奏中の観客の咳払いや最近出てくる奇妙なフライング・ブラボーを削除するのかどうかも焦点になります。私はできるだけ実際のリアルな模様を放映してもらいたい派です。このような人為的な脚色は結果つまらないので、ヨーロッパで販売しているDVDや配信映像などでなるべく楽しむことにします。もちろん、ヨーロッパ発の作品でも映像と拍手が一致していないものをよく見かけます。


スカラ座は政府の補助金が減らされているので、今回の演出制作の予算に限りがあったのかもしれません。舞台機構はシンプルで、照明の当て方が緩く、ドン・カルロらしい色彩感が無く、衣装の生地はかつてより安っぽい素材になっていることが映像でも確認できました。それらの不満に対するブーイングであれば、理解はできます。この演出では舞台転換があまり無く、冒頭から最後まで出てくる柵で構築されている舞台は、ドン・カルロの登場人物がそれぞれに苦悩に囚われていることを象徴している造作物であると解釈しております。


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演出:ルイス・パスクワル

<出演> 

 フィリッポニ世:ミケーレ・ペルトゥージ 

 ドン・カルロ:フランチェスコ・メーリ 

 ロドリーゴ:ルカ・サルシ   

大審問官/修道士:パク・ジョンミン 

 修道士(カルロ五世):イ・ファンホン 

 エリザベッタ:アンナ・ネトレプコ 

 エボリ公女:エリーナ・ガランチャ ほか 

 合唱:ミラノ・スカラ座合唱団 

 管弦楽:ミラノ・スカラ座管弦楽団 

 指揮:リッカルド・シャイー

 収録:2023年12月7日 ミラノ・スカラ座(イタリア)