今日は雨の中、N響サントリー定期に行きました。チケットは完売のはずなのですが、空席が目立つのは、雨×シューマン×エッシェンバッハだからでしょうか。シューマンは扱いに難しい作曲家で、かつてティーレマン指揮のシューマン・チクルスの来日公演も残席が多かったです。やはり、オール・シューマンはオケのコンサートでは厳しく、ショーマンは前半レベルで良いのかもしれません。エッシェンバッハの指揮は数えきれないくらい聴いてますが、深い印象に残る公演がほとんどありません。レヴァインの代役でMET来日公演「ワルキューレ」(2006年)を指揮した記憶がありますが、この時はドミンゴ、ヴォイト、パーペ、モリス、ポラスキと最高の歌手が揃っていたので記憶にありますが、エッシェンバッハの演奏による共感はあまりありません。また、エッシェンバッハがN響第九(2017年)を指揮したことは記憶にありますが、近年で印象に残ってるのは、パーヴォ、ブロムシュテットとエラス・カサドの第九です。エッシェンバッハは親日家で、ウィーンの楽友協会でのコンサート(ウィーン響の記憶です)の後に、ウィーンのグランド・ホテル(旧:全日空ホテル)の日本料理屋「雲海」でお会いして会話したことがあります。和食がお好きで、健康に気遣っているそうです。そのエッシェンバッハも84歳で、脚元がやや不安定に歩いてますが、今日は直立で立ちながら、時にはジャンプして元気に指揮をしていました。


前半1曲目の「ゲノヴェーヴァ」序曲は初めて聴く曲ですが、不穏な音楽で、主旋律が掴みにくい曲ですが、今日は弦16型で弦楽セクション(特にVn, Va, Vc)の演奏が秀逸で、この曲の終結部にかけての演奏は、後半の交響曲への期待がかかります。2曲目のチェロ協奏曲は3楽章ではありますが、切れ目なく1楽章のように演奏されてました。この曲は多少のユーモアや民俗的な曲調で明るいのですが、インパクトのある旋律少なく、チェロのソルターニのテクニックは素晴らしいのですが、タワシを引っ掻くような演奏で優れた旋律を見出しにくい協奏曲です。シューマンの精神が「爽」の時に書かれたようなスラスラと進む感じはあるのですが、感傷的なシーンはあまりないのが残念な曲です。アンコールのソルターニ自作のダンス曲の方が聴きごたえがありました。


メインの交響曲第2番も弦16型で、コンマスが前半は郷古さんで、後半からは川崎さんになり、この曲での川崎さんのリードが目立ちます。第1楽章のトランペットが滑ったのは残念ですが、その後は、川崎・郷古のVn陣、Va首席の村上、Vc首席の辻本をはじめとするエネルギッシュな演奏で、この曲が「弦楽のための交響曲」のように感じました。第2楽章はさらに弦楽要素が強まりますが、特にVnセクションの暴れ方は近年のN響コンサートでは見たことがないほどの圧巻で、その仕掛け人はコンマスの川崎さんが終始、腰を上げながら激しく身体を動かしながら、アンサンブルをまとめており、それに呼応して、VaやVcセクションも化学反応を起こしていました。第3楽章の冒頭のホルンは残念でしたが、ここでも弦楽セクションが主体になります。第3楽章が終わった瞬間に、強固なサントリーホールが地震で揺れて、エッシェンバッハは少し戸惑ってましたが、コンマスと意思疎通して、そのまま第4楽章に突入しました。ここで、やっと本来のオーケストラによる交響曲のような演奏になり、金管や木管も主張してきますが、やはり、この楽章でも弦楽セクションが絶好調でした。こんなシューマンの2番を聴いたのは初めてで、明日も後半の交響曲のみ聴きたいくらいです。N響のVnセクションは本当に若返り、(失礼な言い方かもしれませんが)今日はオッサン的な方がおらず、若くて元気なスタートアップ企業のように、新しく生まれ変わったN響の弦が楽しめました。N響の新しいコンマス体制の素晴らしさを予感させるようなコンサートでした。


(評価)★★★ 前半は微妙でしたが、全体的にN響の弦の素晴らしさが全面に出ていました

*勝手ながら5段階評価でレビューしております

★★★★★: 一生の記憶に残るレベルの超名演 

★★★★:大満足、年間ベスト10ノミネート対象

★★★: 満足、行って良かった公演

★★: 不満足、行かなければ良かった公演 

★: 話にならない休憩中に帰りたくなる公演 

出演
指揮:クリストフ・エッシェンバッハ
チェロ:キアン・ソルターニ
NHK交響楽団
曲目
シューマン:
  オペラ『ゲノヴェーヴァ』序曲
  チェロ協奏曲 イ短調 Op. 129
  交響曲第2番 ハ長調 Op. 61
《アンコール》
キアン・ソルターニ:ペルシアの火の踊り(チェロ・アンコール)