昨日、郵便物の整理していたら、N響からのお知らせがあり、「円安等による物価上昇や国際情勢の変化による招聘費用の高騰により」、来シーズンから定期演奏会のチケット価格が上がるそうです。2021年秋のBプロ(サントリー)のS席が8900円、2024年秋になると12000円となり、3年間で35%の上昇です。株価はこの3年で60%上がっていて、日本人の給与も徐々に上がってきましたが、物価上昇の方がきついので、実質賃金は下がっています。その為、一般的なビジネスパーソンからすると、今回の35%の値上げは大きく、今までより行く回数が35%以上減ることになります。N響はかなり思い切った判断をしたと思いますが、ユーロやドル高が続いていて優れた海外アーティストを呼ぶには必要ですし、優秀な日本の奏者を確保するには団員の収入も上げることも大事です。N響には国際コンクール受賞者が多く、外国語を話せれば、海外のオケで3-4倍の収入(為替要因含む)を得られると思われます。ですが、値上げの判断が正しいかどうかを経済・経営視点で考察していきたいと思います。

まず、チケット金額の価格決定要因は、大きく以下の3つを挙げることができます。

1. コスト(費用)積み上げ方式
2. 需要と供給の関係
3. 他のライバルとの価格差

先程のN響のお知らせでの理由は1.のコストの上昇による値上げでしたが、2.の需要と供給の関係で考えると、N響のBプロは現状のS席9800円でも満席ですので、12000円くらいに上げても、内容によっては満席になると思います。例えば、昨年のサントリーホールでの第九のS席は17500円で完売、NHKホールは公演回数も多いのでS席15000円でも空席がありました。このような事例を見ると、サントリー公演はNHKホールより需要(人気)があり、供給(座席数)が少ないので、S席12000円でも満席になりそうですが、問題はNHKホール公演でしょう。NHKホールのS席は11000から12000円ですが、これはナンセンスでしょう。NHK公演は昨年のルイージの「一千人の交響曲」が満席になったくらいで、6月の反田恭平出演公演はS席9100円でもまだ完売しておりません。需要と供給の関係でNHK公演は値上げはしてはならず、今回の値上げによってNHK公演は空席がさらに目立つことになります。N響はかえって収入が減り、赤字体質に陥る可能性があります。

他方で、3.他のオーケストラの価格比較で言うと、N響のNHKホールS席11000円は割高なのでしょうか。筆者からすると、レベルの低い東京フィルのS席10000円の方が高いと感じます。東京フィルは文化庁からの補助金を大幅に減らされました。加えて、大スポンサーの楽天の三木谷さんが楽団長ですが、楽天の財務状況は深刻なほど悪化していますので、スポンサー料が減り、東京フィルは何でも屋さん的に様々なタイプのコンサートを引き受けて事業継続していくしかないでしょう。東京都の大支援を受けている都響は、S席が7500-8500円ですが、クオリティを考えると都内では1番リーズナブルな価格設定です。東響のメインスポンサーのHISがコロナ禍で大赤字でしたが復活し、東響のS席は8500-9500円となっていますが、こちらは妥当なラインだと思います。その他のオーケストラに関してはあまり興味がないのですが、新日本フィルはS席8000円程度ですが、オリックスの宮内さん人脈によるスポンサー獲得力が弱くなり、佐渡音楽監督自らが、証券会社などにスポンサーをお願いしたりして、ご苦労されているようです。読響もS席8000円程度ですが、親母体の新聞社の売上が悪い影響で、日本人有名ソリスト頼みになっている公演が多く、公演チラシをモノクロコピーを配布してシャビーな苦労されてますが、山田和樹が外れてから、厳しい経営になりそうです。このオケは、いずれ値上げするしかないでしょう。日本フィルもサントリー定期のS席は8000円程度ですが、左系な面があり、そのため財界からの強力なバックが弱く、このオケはどこかと統合する可能性があると予想します。こうして見ると、N響と東フィル以外はS席・8000円程度と横並びですが、値上げ余地とその価値があるのは、都響と東響でしょう。

冒頭のN響の話に戻すと、新しい価格設定ですと、NHK公演は相当やばいと思います。筆者の提案としては、いっそのこと、N響のCプロの2公演を廃止して、AプロのNHKを2公演に加えて郊外・地方公演で1公演を追加、Bプロのサントリーを3公演(木・金曜夜、土曜昼)にして、1ヶ月で合計6公演の定期演奏会は維持することで、売れ残りのリスクが減ります。空いた時間で楽団員も副収入があれば何とかなりますし、N響がオペラ公演をやっても良いと思います。ちなみに1時間制だったCプロは2時間制に戻しましたが、1時間のコンサートを定期的にやっている世界的なオケがロンドン交響楽団です。18時半からの1時間コンサートでラトルらも指揮しますが、プログラムは定期演奏会の後半のみの傾向が多いです。こちらは、ロンドン人に聞くと、コンサートが早く終わることで、ラストオーダーの時間を気にせず、美味しいレストランに行けて良いのだと言ってました。