今日は春祭のプッチーニ・シリーズの「ラ・ボエーム」を聴きに文化会館へ行きました。上野の文化会館は良くない立地、雰囲気、小さい椅子、公演後の良いレストランが無いなどの点で嫌いですし、今は国内外からの花見客が多いので、あまり行きたくはないのですが、ウィーンのホーレンダー元監督が出演するという事で来ました。上野の桜は葉桜レベルでしたので、先週ほどの大混雑はありませんでしたが、ラーメン「一蘭」の行列は昼間から夕方まで日本人と外国人で大行列でした。こんなに並ぶほど、ここのラーメンは美味しいのでしょうか(^^)。私はあまりインバウンド客がいないラーメン二郎の三田本店とひばりヶ丘店なら並びますが(^^)。

オペラの演奏会形式はあまり好きではないのですが、今日の「ラ・ボエーム」はウィーンのクラシック音楽界のドンであるホーレンダー元総監督がアルチンドロ(パトロン役)を歌うということで鑑賞しました。彼のウィーンでの功績の凄さは、例えば、↓下記の退任記念ガラの歌手と指揮者のラインナップで把握できます。

ウィーン国立歌劇場監督時代から東京の春祭のアドバイザー的な関与されていますが、89歳の彼のウィーンでのクラシック音楽界のドン度合いは半端ないです。今回は来日して、アレチンドロ役を歌うくらい足腰がしっかりしていますが、彼を怒らせるとやんごとないことが起こります。筆者が知ってる範囲で詳細は言えないですが、例えば、歳下の指揮者・ヤノフスキでさえ、6年前位にホーレンダー監督に怒られて、面倒なことになったことを聞いています。そんな「ドン」の姿と歌声を聴くのがメインの目的で今日は上野に来ました。会場内の掲示板ではドンの扱いは別格です。


あまり好きではない春祭の上野の会場に行きますと、第1幕用のテーブルと4人の椅子が指揮台の下手側に置いてあります↓。


オペラの演奏会形式は、場面が少ない及び演者の動きが少ない場合はあり得ますが(例: トリスタンとイゾルデ、オテロなど)、役者の動きが多く、クリスマスの情景が重要な「ラ・ボエーム」の演奏会形式はかなり厳しいと思っております。今日のお客様の入りは招待者が多くて、それでも1階席は7割ほど、4/11(木)18:30開演の回は4割ほどしか埋まっていなかったようです。この原因がキャスティングなのか、春祭の公演回数の多さなのか、演奏会形式なのかの理由は分からないですが、今年の東響の「ばらの騎士」の演奏会形式のS席が16000円、今日のS席は25500円ですので、価格要因かもしれません。春祭のプッチーニ・シリーズには初めて来ますが、「ラ・ボエーム」演奏会形式は2021年4月に予定されてましたが、コロナ禍で中止となり、今回はリベンジ公演となります。その時と今回の歌手で同じなのは、マルチェッロ役のカリアとシュナール役のリヴュー・ホーレンダー(監督の息子)です。


第1幕はロドルフォとマルチェッロが寒さを主張するような演技をしながら、ステージに入ってきますが、舞台装置が無いとリアリティが乏しく、感情移入がしにくいです。さらにロドルフォ以外の3人は燕尾服で登場するので、貧乏なボヘミアン感がないのです。ロドルフォ役のポップのみ知っている歌手で、独特の声質で存在感はありますが、マルチェッロ役のカリアは線が細いです。続いて登場するショナール役のホーレンダー息子は長身でスタイルは良いのですが声量が足りない一方で、コッリーネ役のタロシュは声量が充分なバス歌手で存在感はあります。第1幕の見せ場のロドルフォの「冷たい手」のアリアは高音が綺麗に決まってましたが、さらに良かったのは、ミミ役のザネッティの「私の名はミミ」です。オケの音が制御されていたからか、声量のある美声でかなり良かったです。彼女は2017年あたりはバイエルン州立歌劇場の研修生、その後はバイエルンの専属歌手なので将来的にかなり期待できます。第1幕の終わりではオペラのフルステージではあまり聴こえてこないハープの音が際立っています。休憩無しで第2幕に入りますが、ホーレンダー監督用に譜面と椅子がスタンバイされています。ムゼッタ役のエチオピア生まれのイタリア人歌手・バッティステッリは細身でありながら、ムゼッタのワルツは高音まで良く響いており、この歌手も要注目です。肝心のパトロンのアレチンドロ役のホーレンダー監督は貫禄のある演技で、今では不適切なムゼッタへの身体にやたりに触わるシーンは自然にこなしていましたが、歌唱はお年のせいで厳しいものでした。東京オペラシンガーズの合唱をオケの音を超えるほどよく出ていました。「パルビニョール、万歳!」の部分では少年少女合唱団がステージの前に出てきて演技しながら歌い、ラストは鼓笛隊が出て来て幕が閉じます↓。

(第2幕のカーテンコール)


第3幕以降はこれと言って見どころは少なくなりますが、ミミのアリアは絶好調でしたが、ロドルフォのポップは途中で声がひっくりかえっていました。彼は来週のサントリーホールでのコンサートのチラシには「パヴァロッティの再来」と書いてありましが、パヴァロッティの容姿とカーテンコールでの立ち振舞いが似ているだけで、歌唱面では異なります。


第4幕は、第1幕同様にテーブルと4人分の椅子が設置されていますが、今日のセミ・ステージ的な演出は下手側に偏っており、このオペラのシンメトリー構造(主要6人の役者と配置、各幕の構成)から完全に崩れていて、上手側のお客様には不利になっていました。この演出をした方は基本が分かってないのではないでしょうか。例えば、第4幕でテーブルを上手側にすることなとができたと思います。第1幕でイマイチだったショナールは夕方になって、声が温まってきたのか、やっと声がきちんと出てきました。ミミの最後の絶叫もうまく決まり、ロドルフォ役のポップはミミを抱えて嗚咽しながら幕切れになりますが、オケの音が終わっても、泣いていたのが印象的です。今日の収穫としては、ミミ役のザネッティとムゼッタ役のバッティステッリでした。カーテンコールではホーレンダー親子が仲良く出てきました。指揮のモランディはオペラに慣れた指揮者で歌唱立たせることに徹しており、東響の演奏も卒が無かったです。コンマスのニキティンのソロは相変わらず、音が外れる時がありました。

(ホーレンダー親子のカーテンコール)


(評価)★★★ 歌手陣は期待以上、ホーレンダー監督の歌唱が聴けて良かったですが、オペラの演奏会形式は反対派です(^^)

*勝手ながら5段階評価でレビューしております

★★★★★: 一生の記憶に残るレベルの超名演 

★★★★:大満足、年間ベスト10ノミネート対象

★★★: 満足、行って良かった公演

★★: 不満足、行かなければ良かった公演 

★: 話にならない休憩中に帰りたくなる公演 

出演

指揮:ピエール・ジョルジョ・モランディ
ロドルフォ(テノール):ステファン・ポップ
ミミ(ソプラノ):セレーネ・ザネッティ
マルチェッロ(バリトン):マルコ・カリア
ムゼッタ(ソプラノ):マリアム・バッティステッリ
ショナール(バリトン):リヴュー・ホレンダー
コッリーネ(バス): ボグダン・タロシュ
べノア(バス・バリトン):畠山 茂
アルチンドロ(バリトン):イオアン・ホレンダー
パルピニョール(テノール):安保克則
管弦楽:東京交響楽団
合唱:東京オペラシンガーズ
児童合唱:東京少年少女合唱隊
合唱指揮:仲田淳也
児童合唱指揮:長谷川久恵