ちょうど2週間前にベルリンでルネ・パーペが「ワルキューレ」でフンディング役で出演していましたが、この時は警官に扮したフンディングがジークリンデとジークムントと20分間くらいの歌った後、ずっとベッド寝てしまうシーンで終わってしまい物足りなかったので、パーペのリサイタルを聴きに文化会館小ホールに行きました。NHKの収録がありましたので、後日見れると思います。今日の曲はかなりマニアックな選曲で、ドヴォルザークの「聖書の歌」はオーケストラ付きで聴いたことがある記憶がありますが、あとは初めての曲で、事前にApple Musicで予習しました。今回のプログラムはあえて言うと「神と死」で、前半が「神」、後半が「死」をテーマにしているようです。


1曲目のモーツァルトの短曲は、歌詞がふんだんに入っているので、語るように歌っていました。2曲目のドヴォルザークの「聖書の曲」は、オーケストラ伴奏付きの方がよく演奏されるようですが、ソプラノ歌手による録音もあれば、フィッシャー=ディースカウはドイツ語版で歌っていて、バラエティに富む録音がありました(おすすめは、チェコ出身のコジュナーとラトル指揮・ベルリンフィルによるものです)。パーペは難しいチェコ語で歌っていましたが、この曲の伴奏は美しいので、オーケストラの方がより感動的になると思いました。パーペの歌唱は優しい語り口の歌唱で、彼のヴォータンやマルケ王のようにその場の雰囲気を変えてしまう劇的なオペラ歌唱とは異なります。全体で10曲で構成されていますが、特に印象に残ったのは第4曲は子守唄のようなふんわりした歌唱、第5曲では一転して明るくなり、とても美しい曲で今日の白眉でした。あまり知られていない曲のためか、拍手はそこそこの盛り上がりで、カーテンコールは1回だけで、休憩になります。パーペは今年で60歳になりますが、歳のせいか、最近は低カロリーな動きを感じます。2週間前のベルリンでのワルキューレでは、劇場の赤い幕が降りた時のソロ・カーテンコールでは、パーペだけ1人で4秒くらいで出てきて去ってしまい、隣のお客様と笑ってました。最近は疲れやすいのでしょうか。



後半のクィルターは初めて聴く曲ですが、さすがのApple Musicでも録音が少ないです。英語の現代曲なので、ミュージカル風なテイストの歌唱で、6分くらいで終わるので、拍手がなかなか出ませんでした。後半のメインはムソルグスキーの「死の歌と踊り」ですが、かなり重いロシア曲です。水を入れたコップを持ってきたパーペが、この曲でやっとスイッチが入った感じがしました。特に、第1曲の「子守歌」の後半からパーペの表情や歌声のボルテージが上がっていきます。第2曲の「セレナード」もタイトルとは異なり、迫力のある歌唱で、全く寝れる雰囲気ではありません。圧巻はラストの第4曲の「司令官」で、この標題どおりのパーペらしい圧倒的なオペラチックで表情豊かに歌い上げます。暗黙感漂う歌詞に合わせたパーペの深刻な表情はまさにオペラを観ているようであり、この曲をラストに持ってくる理由が理解できました。アンコールは、R.シュトラウス、シベリウス、シューマンの3曲も用意されていましたが、その中でシベリウスの「フィンランディア」が本日の1番の有名曲でしたが、シベリウスは100曲ほどの歌曲を書いており、交響曲や交響詩だけでないシベリウスの歌曲作曲家としての側面も感じ取ることができました。パーペによるドイツ・リートを堪能したかったのですが、今日な多言語を駆使したパーペの知られざる世界を体感できました。彼は旧東ドイツのドレスデン出身なので、当時は第1外国語がロシア語、ドレスデンからチェコ国境までは車で20分、プラハまでは1時間半くらいなので、チェコ語も馴染みがあったのでしょう。カーテンコールは最後までおとなしめでした。