今回のベルリン滞在のハイライトは「フェストターゲ2024」の唯一のコンサートであるメータ指揮・シュターツカペレ・ベルリンのブルックナー第8番(以下、ブル8)です。この交響曲は筆者が好きな交響曲トップ3に入っており、大曲なので、やたらに聴かずに厳選して鑑賞することにしています。コロナ禍では大編成のオケは制限されていましたので、なかなか聴く機会がなく、前回は2019年11月の同じメータ指揮・ベルリンフィル来日公演(サントリーホール)まで遡ります。この時のメータは杖をついて歩いていて、歩行困難だったので、サントリーホールの指揮者の楽屋は通常、下手側にあり、下手のドアからステージに上がるのですが、2019年のサントリーではエレベーターの近い楽屋(上手側)から出てきました。メータは最初から↓の写真のように、座って指揮していましたが、最後のコーダで神がかったように急に立って指揮をして終えたのを今でも鮮明に覚えています。あれから5年ほど経ちましたが、今日のメータは杖無しで自力で歩いて登場し、5年前より回復したイメージがあります。

(2019年11月のメータ指揮・ベルリンフィル)


シュターツカペレ・ベルリンのブルックナー演奏は、2022年の12月の来日公演のブル7が記憶に新しいですが、この時もかなりの名演で、このコンサートは筆者の年間トップ2の公演でした↓。

この公演はバレンボイムがキャンセルし、曲目が急遽変更になったので、リハは1回通しで流しただけらしいのですが、それでもティーレマンの指揮に対応するこのオケは素晴らしいです。2016年にはバレンボイム指揮のブルックナー・チクルスのサントリー公演もありましたが、当時の楽団員は半分以上、今日は乗っています。このコンサートのリハはたっぷり3日取っていて、メータ節がはっきり出てくるものと思われます。


今日のメータはゆっくりと登場し、その際に会場からはブラボーで歓迎されます。スコア無しで、座りながらの指揮で始まります。第1主題のバスとワーグナー・チューバは爆弾のようなかなり大きな音が冒頭から出てきます。第2主題でもワーグナー・チューバが荘厳な音をうまく出していましたが、これはこの2週間でこのオケがワーグナーの指環をやっているからでしょうか。さらに強調していたのはティンパニで、この時点で規格外のブル8です!第3主題も爆音で、ベルリン・フィル以上に弦楽セクションが身体を揺らしながら、メータの要求する音を極限までに出していました。公演後、楽団員と話したら「メータは頭はしっかりしてコミニケーションはきちんと取れるけど、耳が少し悪いみたいで、今日の演奏は爆弾のように音を出過ぎていた」と言ってました。あっと言う間に第1楽章が終わり、会場が咳払いなどで騒ついていたのですが、メータは気にせず第2楽章を始めます。やはり耳が悪いから気にせず、進めてしまったのでしょうか。メータの指揮はメトロノームのような安定したタクトで、派手な動きはしませんが、特定のセクションの指示は適宜だしていました。この楽章では特にチェロとコントラバスのセクションに対して、もっと出せと指示を出し、主席コントラバスのアナッカーはスポーツマンのように身体を動かしていました。スケルツォ主部でのワーグナー・チューバがまた大活躍で、トリオの3台のハープによる美しい響きによって、神々しい音楽に仕上がっていました。ここまで神格化されたブル8はかなり久しぶりです!

第3楽章はゆったりと重く葬送曲のような趣きで始まります。自分の葬儀に流して欲しいくらい、しみじみとした歌いっぷりの第1主題でした。今日の白眉は239小節あたりからの頂点部分でした。第4楽章の冒頭も金管を中心とした爆音で始まり、ティンパニは全身を使って強烈な叩きでした。この楽章では金管とティンパニが前面に出しつつ、第2主題の弦楽中心部分ではオケの集中力が最大になって、素晴らしいアンサンブルでした。ここまで聴いていると今日のブル8は「英雄」が裏テーマのように思えてきました。この楽章は「英雄の復活」のようで、メータ自身の人生を重ねているのではと感じました。第2楽章は「天国の風景」や第3楽章の「葬送曲」的なアプローチは闘病中に死を意識したメータならではの解釈とも言えます。コーダはオケが全開の演奏による音の洪水で、大団円でした。また、ラスト部分でメータが指揮台で立つことはなく、座りながらの指揮で終わりました。今日の公演はマイクが何本も仕込んでありましたので、CD化されることを期待したいです。2019年のベルリン・フィル来日公演のブル8を超える感動で、今回のベルリン滞在のハイライト的なコンサートになり、一生の記憶に残る演奏会でした。今年はブルックナー生誕200年記念ですが、本公演は記念コンサートの最高峰だと思います。公演後の楽屋でメータ関係者とお会いし、驚くような来日情報を聞いたので、来週以降、総括してブログします。

(評価)★★★★★ カラヤン並みのブル8の名演でした!

*勝手ながら5段階評価でレビューしております

★★★★★: 一生の記憶に残るレベルの超名演 

★★★★:大満足、年間ベスト10ノミネート対象

★★★: 満足、行って良かった公演

★★: 不満足、行かなければ良かった公演 

★: 話にならない休憩中に帰りたくなる公演 

Z.メータ指揮シュターツカペレ・ベルリン

ブルックナー:交響曲第8番(ノヴァーク版1890稿)