昨日に引き続き、ベルリン州立歌劇場の「ワルキューレ」に行きました。22年秋の新制作の「指環」の再演てすが、今日のキャストはヴォータンがコニエチュニーになった点とフンディングがルネ・パーペ(前回はミカ・カレス)になったのが大きな変更点で、昨日のコニエチュニーは独特の声質で素晴らしく、パーペのフンディングも楽しみです。前回のティーレマン指揮の2サイクルの「指環」は完売していましたが、今回のジョルダン指揮の指環は2サイクル共に少し空席があり、これはドイツのインフレ下で節約志向に入ってあるからなのか、再演だから席が余っているのでしょうか。イースター休暇時期ということもあり、ブラック・タイやスーツの観客は少なく、カジュアルな服装の観客が多いです。各幕間の35分間の休憩時間には節約のためか、赤ワインのボトルとパンを持ち込んで飲食している若いカップルがいました。やはり、ドイツの物価高は日本よりきついので、節約志向なのでしょうか。


第1幕はフンディングのモダン風の骨組構造の住居で幕が上がりますが、その前に、映像でジークムントが犯罪者として指名手配のニュースが出てきます。そのジークフリートが逃げ回って、フンディングの家に迷いこんで、ジークリンデと出会うシーンで始まります。ジークムント役のワトソンはかなり調子がわるいのか、あまり声が出ておらず、この歌手が今日の唯一の不満点でした。一方で、ジークリンデ役のミクネヴィチウテは小柄にも関わらず、オケと対等なくらい良く声が出ていて、ジークリンデの必死さが伝わります。フンディング役のパーペは警官として登場し、ここで犯罪者のジークムントと警官のフンディングの対立構造が把握できます。この設定はよく考えられた演出だと思いました。パーペはさすがのトップ・ワーグナー歌手らしい存在感のある美しいバスの響きの歌唱でした。パーペの出番が少ないのが勿体無いですし、贅沢過ぎます。フンディングが寝る前には、ジークムントが手錠にかけられますが、フンディングが眠り薬で寝込むと、ジークリンデが手錠の鍵を取り出して、ジークムントの手錠を外し、2人は逃走します。ノートゥングは家の壁に刺さってあるものを抜いてました。昨日と今日のコントラバス6人の演奏は、筆者の視界に入るのですが、スポーツマンのように激しく身体を動かしながら、パワフルな爆音を出していました(ここでも新国立劇場との差が歴然としています。大野さんのワーグナーは薄口です)。


第2幕の舞台上は前幕の住居のシーンで、ブリュンヒルデ役のカンペは鼓膜が破れそうなくらいの声を張り上げていていました。今日のコニエチュニーも良い声が出ており、前回のフォレより1.5倍くらいの音量が出ていました。その後は、舞台装置の無いシーンでの歌唱でレジー・シアター要素が強くなります。逃走中のジークムントとジークリンデは例のうさぎの実験フロアを通りながら、さらに下階の作業場に場所を移します。そこにブリュンヒルデが表れて、ジークリンデを助けますが、今回の演出ではジークムントが冤罪で指名手配になっていると解釈され、ブリュンヒルデの助けにつながると思われます。

(今回の演出のうさぎの実験室のシーン)


ジークムントとフンディングの直接対決のシーンはステージでは表現されず歌唱のみで、ラストシーンでジークムントとフンディングが登場し、ジークムントは警官らに取り押さえられて幕が閉じます。


第3幕で指揮者のジョルダンが登場すると、ブラボーとスタンディングオベーションで、喝采を受けて、なかなか演奏が始まりませんでした。前回のティーレマン指揮ではこんなシーンは無かったのですが、今回の観客はジョルダンを評価しています。ここまでティーレマンとジョルダンの音楽を比較すると、ティーレマンは重厚感たっぷりの壮大な音楽なのに対して、ジョルダンは舞台上のストーリーを重視した堅実な音楽づくりの印象があります。第3幕でブリュンヒルデとヴォータンの別れのシーンでのジョルダンの音楽は何とも切なく、カンペの演技も重なって、このシーンで感涙されている周りの観客が何人かいましたが、ティーレマンの時に泣いている観客はいませんでした。筆者からすると、どちらも秀逸な音楽なのですが、昨日と今日の公演後に楽団員たちと飲んでいると、みんなティーレマンの方が良いと言ってました。「ティーレマンの指揮は魔術のようだ、いつものオケでは出ない音が出てくる」「ティーレマンの音階の上げ方は最高」「音楽の伸ばし方やパウゼの取り方は絶妙」などのティーレマンの方がかなり評価していたので、復習のため、DVDを買おうと思いました。さて、「ワルキューレの騎行」は講堂のような舞台装置で8人の歌手は全員うまくて、こちらも新国立劇場のイゾルデより声が出ています(もちろん、ドイツ語の発音は抜群です)。この点も含めて、この劇場でのワーグナーは安心して聴いていられます。金管セクションも今日もキズはなく、本当に安定感のあるオケです。最後の炎の岩山のシーンは、ブリュンヒルデが講堂の椅子を円型に並べることで炎の中に模して、別れの歌で幕が閉じます。今日のヴォータン、ブリュンヒルデ、フンディング、ジークリンデの4人は抜群で世界最高峰のワルキューレを体験できました。コニエチュニーとカンペは大活躍で↓のように大喝采でした。

(コニエチュニーとカンペのカーテンコール)


(P.ジョルダンのカーテンコール)


今朝はたまたま昨日出演していたビリャゾンと同じホテルに滞在していたので、朝食レストランでビリャゾンとたまたま会いました。その時の話も今後のブログで書きたいと思います。

✳︎今日のブログでは新国立劇場の比較をしていますが、トリスタンとイゾルデがあまりにもレベルが低く、税金の無駄遣いと思っているからです。ご気分が害された方には申し訳ございません。

✳︎2022年のワルキューレの映像はこちらです。


✳︎評価は最終夜の「黄昏」の時に書きます。


指/P.ジョルダン、演出/D.チェルニアコフ、

出/R.ワトソン、V.ミクネヴィチウテ、R.パー

ペ、T.コニエチュニー、A.カンペ、C.マーンケ

SIEGMUND

Robert Watson

SIEGLINDE

Vida Mikneviciute

HUNDING

René Pape

WOTAN

Tomasz Konieczny

BRÜNNHILDE

Anja Kampe

FRICKA

Claudia Mahnke

GERHILDE

Clara Nadeshdin

HELMWIGE

Christiane Kohl

WALTRAUTE

Michal Doron

SCHWERTLEITE

Alexandra Ionis

ORTLINDE

Anna Samuil

SIEGRUNE

Ekaterina Chayka-Rubinstein