今日は「ベルリン・フェストターゲ」の一環で、P.ジョルダン指揮・チェルニアコフ演出「ニーベルングの指環」(再演)の「ラインの黄金」に行きました。前回は2022年10月(新制作)にバレンボイムの代役でティーレマンが指揮をして大成功を収めました。この時の「ラインの黄金」のみが、最近、ヨーロッパや日本でDVDが発売されたので、もしよろしければご覧ください。↓下記のリンクにダイジェスト映像が見れます。

この時の壮大なティーレマンの音楽と演出のチェルニアコフの読み替え演出は斬新で、音楽と演出とストーリーを追っていくのが大変でした。今回はワーグナーを得意とする中堅指揮者のジョルダンの指揮ですが、ジョルダンはバイロイト、ウィーン、METなどで指環を指揮しているので、既にお手のものだと思われます。この公演の企画時点では、まだバレンボイムがベルリン州立歌劇場の音楽監督でしたから、今回もバレンボイムのもとでのキャスティング(いわゆるバレンボイム組の歌手が多い)ですが、バレンボイムの体調問題で、ジョルダンが代役的にアサインされたものと思われます。演出のチェルニアコフはバレンボイムのお気に入りで、「トリスタンとイゾルデ」も演出しており、こちらも現代の読み替え演出でDVDがされてます。

筆者が「指環」を好きになったきっかけは、1980年代後半にカラヤン指揮・演出の「ラインの黄金」のレーザーディスクを見たからです。

この演出は映画版ならではの特殊な映像効果を使っていて、実際の舞台では表現しにくいラインの黄金の世界をリアルに表現しています。この映画版は「ラインの黄金」だけリリースされていたと思いますが、ラインの黄金を何度も観たおかげで、「指環」全体の音楽やストーリーが理解しやすくなりました。楽劇全体の主要なモチーフはラインの黄金に集約されているので、同作を何度も観ることは重要です。


今回の歌手の多くは2022年のキャストと同じですが、大きな変更点としては、ヴォータンはフォッレからコニエチュニー(彼はウィーン国立歌劇場の来日公演でもヴォータンを歌ってます)になり、ファゾルトがカレスからM.ローゼに変更になったくらいです。


会場に入ると、ハーブ6台がピットに入っていて、オケの調整している音を聴くだけでも、先日の新国立劇場とトリスタンとは別格に良い音が出てます。ハープ6台を4夜連続抑える日本のオケはあるのでしょうか。

開始時刻に近くなると、ジョルダンが指揮台に既にスタンバイしており、暗転してから、ラインの黄金が始まります。ワーグナー・チューバとホルンの音が荘厳で素晴らしいです。この金管セクションはほとんどキズがなく、これも都響のトリスタンとの違いです。演出についてはDVDのネタバレになるので、最小限に止めますが、演出上は化学研究所内で起こる設定となっており、例えば、第1場でアルベリッヒがラインの黄金を奪うシーンでは、アルベリッヒが「ストレス・ラボ」の一室でARゴーグルをつけられて座らされていて、研究員に扮するラインの乙女がからかいます。ラインの乙女役の3人の歌唱は素晴らしく、新国立劇場のイゾルデより良い声が出ています。アルベリッヒが興奮して黄金を奪うシーンは、ラボ内の機材を破壊し、重要な機材(=黄金)を持ち帰って逃げてしまいます。このような形で読み替えられた演出で進行します。


第2場では筆者のすぐ近くで6台のハーブがなっており、なんとも神聖なシーンです。巨人たちはマフィアとして、ヴォータンのいる会議室にやってきます。ヴォータン役のコニエチュニーの声の状態は良く、前回のフォッレよりはヴォータンらしい声質です。今日の歌手で次に良かったのがアルベリッヒでかなり存在感のある歌唱でした。さらに、素晴らしかったのがフライアで、この方は前回の22年よりも1.5倍の声が出ていました。アルベリッヒ役のビリャゾンは今日は喉の調子が悪かったのでしょうか、あまり声が出ておらず、演技でカバーしていた感じです。


第3場のニーベルハイムへは、ヴォータンとアルベリッヒへはエレベーターへ下の階に向かい、そこは研究所の作業場で多くの作業員が働いているシーンになってます。22年の演出では、この地下へ行くシーンに生きたうさぎが20匹ほど実験用のカゴに入れられて出てきましたが、動物愛護団体らの抗議で、今回は人形のうさぎは入れられていました。DVDでは生きたうさぎが↓のように出てきます。

このシーンでの隠れ兜は脳波測定ようの器具になっていて、指環は小さいですがリングになっていて、第4場の会議室でヴォータンに取り上げられてしまいます。ファゾルトはドスの効いた素晴らしい声なのですが、今日の公演しか出ないのが残念です。最後のワルハラでのシーンは研究所の関係スタッフらが集まり、みんなの前でドンナーとフローが花火などの手品をやって皆を喜ばせるシーンがあり、その後、気が落ち込んでいるヴォータンにフォーカスして幕が閉じます。今日の歌手は、ヴォータン、アルベリッヒ、ファゾルト、フライアが絶好調で、カーテンコールでも絶賛されていました。ジョルダンの指揮も秀逸で、こちらもかなり評価されていました。本物のワーグナーに接すると、やはり興奮がなかなか冷め終わらないですが、今回の滞在では毎日のように、アーティストや楽団員らと会食するので、その話の一部は明日以降にブログします。

✳︎2022年のラインの黄金の映像はこちらです。


✳︎評価は最終夜の「黄昏」の時に書きます。

ワーグナー:ラインの黄金

指/P.ジョルダン、演出/D.チェルニアコフ、出/T.コニエチュニー、R.トレーケル、S.マクンゴ、R.ヴィリャソン