前回の定期演奏会(特にVn)が酷かったので、今日の東フィルのサントリー定期は999回目で1000回記念に向けてのカウントダウンのようなコンサートなので、バッティによって汚名を挽回して貰いたかったのですが、結果、今日は合唱、ソロ、金管が良くて、弦は14-12-10-8-7でしたが、Vnが良い音をきちんと出せておらず、バランスの崩れた点が残念でした(バッティが敢えてVnの音を落としていたのであれば、センスが問われます)。


今日の前半のレスピーギの第2組曲と後半の「カルミナ・ブラーナ」は過去の音楽や文献を振り返り、20世紀の作曲技法で創作した点や祝祭的な曲想が主な共通点です。バッティの好きそうな曲で、彼は前半・後半共にスコア無しで指揮をエネルギッシュにしていました。


今回のサントリー定期はこのプログラムの3日目でしたので、前回のサントリー定期(1日目)よりは、オケが安定していました。特に、前半・後半共に金管セクションが活躍していました。レスピーギの組曲では、2番の「田園舞曲」と3番の「パリの鐘」はとりわけ明るい曲にうまく仕上がってました。最終曲の「バルガマスカ」ではチェンバロが際立って、16世紀から17世紀のヨーロッパにタイムスリップした感覚があり、祝祭的なコーダで終わります。実演で初めて聴く曲ですが、バッティのリードが優れていたので、聴きやすい曲でした。


後半の「カルミナ・ブラーナ」は、人生最高の演奏は小澤さんのベルリン・フィルが決定盤で、近年ではルイージ指揮のN響(2014年1月)が好演で、この時は2日連続通った記憶があります。今日はこれを超える水準を期待していましたが、Vnセクションのパワー不足で、感動度合いが少し落ちました。冒頭から新国の合唱団が大活躍で、特に第2部まで出っぱなしの男性合唱は本当によく頑張っていたと思います。14.「酒場に俺たちがいる時は」の「一杯目は・・・」からは、かなり高速回転で男性合唱とオケが良くついていってました。バッティの指揮はリズムカルかつエネルギッシュでこの曲にフィットしていて、特に金管や低弦が良い音が出ていましたが、Vnセクションは28人もいるのに、新国立の合唱団に音をかき消されてる部分もありました。また、オケだけの演奏による6.「踊り」の部分もVnセクションの主旋律がうまく聴こえてこないので、この点は不満が残りました。8.「小間物屋さん」では、男性合唱団がハミングしながら、身体を揺らしていたのが印象的でした。バリトン独唱の11.「胸のうちは、抑えようもない」は、バリトンのパッティが語りかけるような歌唱で、時にオペラのように演技を入れていました。さらにパッティは13.「わしが修道院長様だ」の場面では酔っ払いながらの演技でした。演技で言うと12.「昔は湖に住んでいた」で、カウンターテノールの彌勒さんが白鳥の人形を持ちながら、狂気に満ちた歌を表情豊かに歌っていました。第2部の男性合唱のラストはガッツポーズで決めていました。ここまで新国の合唱団が今日の主役でした。第3部に入り15.「愛神は飛び廻る」でソプラノのデ・アミーチスが、第2部の淀んだ感じを打ち消すかのように、透明感のある声で魅了します。この後の17.「天秤に心をかける」でも切なく美しいソプラノ歌唱で、今日の1番美しいパートでした。ラストパートの24.「アヴェ、この上なく美しい姿」と25.「おお、運命の女神よ」ではオケと合唱がTuttiで華やかなフィナーレを飾りたいところでしたが、やはり、ここでもVnセクションの音の塊が出てこなくて、バランスの取れていない演奏に感じました。敢えて、合唱にフィーチャーする解釈であれば、納得感はあるのですが、先月のミョンフンよりブラボーやスタンディングオベーションが多かったと思います。その観客の反応に応えて、定期公演では珍しくアンコールがありました。東フィルはVnセクションの強化が課題で、この点が改善されるまで、東フィルのコンサートには当面行かないことにしました。


また、今日のプログラム・ノートとカルミナ・ブラーナの対訳は、当ブログで過去2回酷評されている横浜国立大学教授によるもので、相変わらず、的を得てません。冒頭のレスピーギとオルフの共通性の話や、曲目解説でムッソリーニやヒトラーとの関係性などあまり本筋と関係ないことに多くの文章が割かれている一方で、レスピーギの4つの曲目についてはそれぞれ1行か数行でバランスの悪い解説です。Google Scholarでオルフとナチスの関係を調べると、かなり曖昧な関係で、オルフが反ナチスであれば他の作曲家同様に国外に出たでしょうし、親ナチスであれば戦後に活動が制限されていたでしょう。ナチスからの大きな影響としてはオルフの音楽学校が閉鎖されたことくらいでしょう。また、「レスピーギとオルフの代表作」と言う記述がありましたが、オルフは文句無しに代表作ですが、今日のレスピーギは代表作なのかは演奏回数ベースで検証すると、かなり疑問です。この教授が曲目解説を担当する時は、Wikipediaまたは英語の解説を読むようにしておりましてて、その方が楽曲を構造的に把握することができますし、勝手な推測のような文章は少ないです。カルミナ・ブラーナの歌詞対訳もこの横国大教授によるものですが、この方はラテン語が基本的に分かっているのでしょうか。例えば、冒頭の”Fortuna”はコンテキスト・ベースで「おお、運命の女神よ」と訳されることが多いですが(次の行の女性名詞の月を受けているからです)、「おお、運命よ」となっていて、このワード・センスですと、没入できないような対訳になってます。そのため、上述の各曲のタイトルは一般的に訳されている対訳で書いております。毎回、申し上げてますが、この教授は史実(エビデンス)やフィールドワークに基づいてない執筆が散見され、横国大のゼミ生や受講生が可哀想になってきます。このような筋の悪い思考の師と共にしていると、将来の人生に影響すると思います。また、この方の解説は日フィルのプログラム・ノートではよく見ますが、N響・都響・東響では書いて欲しくないです。


(評価)★★⭐︎(2.5)バッティの指揮さばきと合唱のみ秀逸でしたが、Vnセクションが酷いです

*勝手ながら5段階評価でレビューしております

★★★★★: 一生の記憶に残るレベルの超名演 

★★★★:大満足、年間ベスト10ノミネート対象

★★★: 満足、行って良かった公演

★★: 不満足、行かなければ良かった公演 

★: 話にならない休憩中に帰りたくなる公演

 


出演
指揮:アンドレア・バッティストーニ
ソプラノ:ヴィットリアーナ・デ・アミーチス
カウンターテナー:忠史
バリトン:ミケーレ・パッティ
合唱:新国立劇場合唱団、世田谷ジュニア合唱団
東京フィルハーモニー交響楽団
曲目
レスピーギ:リュートのための古風な舞曲とアリア第2組曲
オルフ:世俗カンタータ『カルミナ・ブラーナ』