今日は指揮者・インバルさんの誕生日ですが、88歳誕生日記念の都響のコンサートに行きました。先週は交響曲が「8番」「8番」でしたが、今日はショスタコの9番、来週はマーラー10番と、8→9→10と連続しているのは考えすぎでしょうか。ユダヤの研究をしていると、昔から色んなところに意味が隠されていたりします。今日の後半のバーンスタインの交響曲第3番「カディッシュ」はユダヤ教の祈りをテーマにしていますが、この曲を都響はインバル指揮で2016年に演奏しており、この時の語り手はユダヤ人虐殺の生き残りのピサール家の母と娘が担当し、今回も出演予定でしたが、この点でインバルと都響のこの曲へのこだわりが感じられます。バーンスタインとインバルの出会いは、インバルが若い時に兵役としてイスラエル軍のオーケストラのコンマスをやっていた時にバーンスタインの目に留まったと言われています。昔から都響とユダヤの関係は深いと言う噂がありましたが、今回のインバルの選曲もその影響が出ています。過去の都響の音楽監督・首席指揮者の中で、アツモン、ベルディーニ、インバルはユダヤ系で、そのため、都響とユダヤ系の謎の関係性が生まれ、ユダヤ人だったマーラーを得意とする都響になったのも、上記の背景があると考えられます。来週からインバルがマーラー・チクルスの3回目を始めるのも凄い話です。


今日のサントリーホールでは、開演前に木管とコントラバス陣が入念に調整しています。前半のショスタコ9番は、ショスタコらしくない、全体としてコミカルで明るい交響曲です。奇数楽章が明るくて、偶然楽章はやや暗いイメージがします。各楽章が2分から8分と短いのもこの曲の特徴でしょう。今日も28分間くらいであっという間に終わってしまいました。第1楽章では88歳のインバルが踊るように指揮していたのは印象的でしたし、第5楽章のラストはタンブリンやトライアングルも入り、お祭り感のある音楽で、ある意味、お誕生日にふさわしい曲だと思いました。この曲を改めて聴くと、古典派やロマン派的なアプローチで書かれていると感じます。この曲が終わると、妙な奇声のブラボーがありましたが、前回も同じようなのがあり、少し気になりました。


後半のバーンスタインの交響曲は、事前予習でApple Music Classicalを活用しました。このアプリは、膨大なアルバムが入っていて、このマイナーな交響曲は10枚以上のアルバムから選ぶことができ、だんだん使い慣れると、素晴らしいアプリだと感じます。今後は初めての曲を予習する際にタワレコや山野楽器にCDを買いに行く必要がありません。この曲の語り手はピサール親子から、米国の女優・レディモアに変更になりましたが、彼女はミュージカル歌手のようなオーラと声質でした。一部の録音では男性による語りがありますが、博物館の音声ガイドのような語り口のようなものが多く、この曲の語りは女性版の方がフィットすると今回は感じました。語りは英語で日本語字幕付きでしたが、合唱部分のヘブライ語は字幕はありませんでしたので、手元のプログラム・ノートが必要になります。第1楽章は、West Side Storyを想起させるような語りで始まり、オケは不気味な動機の演奏でした。〈カディッシュ1〉では合唱団が手を叩きながら歌い、オケがかなりエネルギッシュに伴奏していました。第2楽章の〈ディン・トラー(裁きの場所)〉の冒頭は打楽器が先導しますが、この部分でもWest Side Storyで聴いたことのあるような雰囲気があります。途中の合唱はカデンツァとなっていて、プログラム・ノートに訳語がないので何を言っているのかは分からないです。今日のインバルの指揮を観ていると、彼が誕生日にこの曲を選んだ理由がだんだん分かるような気がしました。インバルはバーンスタインのリハーサルに立ち会っていますし、何度も指揮をしていますが、この曲の指揮はあまり複雑な音楽ではなく、主旋律を中心にタクトを振ればよいので、今日の指揮には自信と余裕が感じられます。インバルが過去のインタビューで「カディッシュはベートーヴェンの第九のような存在」と語っていましたが、彼の指揮姿を見ていると頷けます。最終楽章は語り手のパートが多いですが、かなりハイスピードで展開されます。〈カディッシュ3〉で美しい響きの少年少女合唱が入ると、フィナーレの予兆を感じさせます。〈フィナーレ〉では不協和音の音楽から始まりますが、自然と美しいメロディに展開して、バーンスタインの作曲の巧さを感じると共に、この部分のオケ演奏が今日の聴きどころだと感じました。最後はソプラノ・ソロ、少年少女合唱、合唱が一緒になって壮大な大団円となりました。今日はインバルの誕生日なので、カーテンコール中にコンマスの山本さんからのマエストロへの花束贈呈があり、観客含めてお誕生日を祝いました。ソロ・カーテンコールも当然あり、インバルは幸せそうでした。

東京少年少女合唱団の歌唱とユニフォームが綺麗でした

マエストロ・インバルへのバースデープレゼント


(評価)★★★★ マエストロのバースデーにふさわしい公演でした

*勝手ながら5段階評価でレビューしております

★★★★★: 一生の記憶に残るレベルの超名演 

★★★★:大満足、年間ベスト10ノミネート対象

★★★: 満足、行って良かった公演

★★: 不満足、行かなければ良かった公演 

★: 話にならない休憩中に帰りたくなる公演 

出演
指揮:エリアフ・インバル
語り:ジェイ・レディモア
ソプラノ:冨平安希子
合唱:新国立劇場合唱団、東京少年少女合唱隊
東京都交響楽団
曲目
ショスタコーヴィチ:交響曲第9番 変ホ長調 Op. 70
バーンスタイン:交響曲第3番 「カディッシュ」