年明け最初のコンサートは新年恒例のウィーン・リング・アンサンブル(以下、WRE)です。事前に、WREメンバーからは、今日のコンサートでは能登半島地震に配慮して、着用するのは燕尾服ではなくモーニング服、演奏中は様々な演出の工夫が凝らされていると聞いておりました。昨年までのクラリネットのオッテンザマーの代わりに、オッテンザマーの師匠だったJ.ヒントラーが参加していました。ウィーン・フィル(Wph)が国籍と性別の多様化を進めていて、ニューイヤーコンサートでは初登場の曲を多く取り入れてながら進化している中で、WREは全員男性かつオーストリア出身で、プログラムもニューイヤーコンサートで何度も取り上げられている曲を中心に構成されており、かなり保守的で伝統を重視しています。オーストリアではリベラル系政党がWphにニューイヤーコンサートでの女性指揮者登用などの多様性を要求されているようで、それに配慮してか、元旦のORFのニューイヤーコンサートの放送では女性奏者やオーストリア以外の出身奏者が多くフィーチャーされていたような気がします。今年のWphのニューイヤーコンサートについては、明日、WREメンバーがオフの日で会う予定なので感想を聞いてみます。


コンサート開演前は、主催のKAJIMOTOお馴染みのアーティストからの影アナウンスがありましたが、昨年同様に、ミヒャエル事務局長の日本語での挨拶から始まり、「このホールは耐震構造となっており、、」の注意事項もミヒャエルさんが日本語で話していました。以下、印象に残った曲のみメモします。


前半の1曲目は、ニコライの「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲は、92年のクライバー指揮のニューイヤーコンサートで取り上げられたことが印象的ですが、今日の演奏はクライバーとほぼ同じテンポで、素晴らしいスタートでした。2曲目の「南国のばら」は筆者が最も好きなJ.シュトラウス2世のワルツです。この曲は恋愛事が多かったJ.シュトラウスが恋に破れた時に作曲されたと聞いたことがありますが、切なくも明るいワルツです。晩年期の作曲なので、ワルツとしてはかなり出来の良い曲で、ウィーンのカフェでヴァイオリン2とコントラバス1の3名での演奏を聴いたことがありますが、今日のWREの演奏もサロン風で秀逸でした。レハールの「金と銀」では、フルートのシュルツさんがトライアングルとシンバルを叩きながら演奏し、エンディングでもフルートとトライアングルを両方を巧みに演奏しながら終わります。シュルツさんはWphでNo.1のフルート奏者だと思いますし、彼が出ている時は演奏が引き締まります。前半ラストの曲のポルカ・シュネル「狩り」では、シュルツさんが狩りの音を立てたり、ラストではオレンジ色のパーティー用のクラッカーを出して会場を盛り上げてました。

フルートのシュルツさんが持っているのが「狩り」で使用した巨大なクラッカー


後半の1曲目はメモリアルイヤーの作曲家メドレーで(これがWREの恒例になってきています)、昨年はプロコフィエフでしたが、今年は没後100年のプッチーニのオペラから構成されています。冒頭は、ラ・ボエーム第2幕のパリのカフェのシーンですが、歌劇場で何度も演奏しているWREメンバーによる説得力のあるオペラ曲の室内楽でした。その後、蝶々夫人と続き、トゥーランドットが瞬間的に挿入され、トスカの第1幕からラ・ボエームの第4幕、蝶々夫人の「ある晴れた日に」、ラストはラ・ボエームで締めくくりました。このメドレーはWREのために編曲されたものと思いますが、WREの良さを引き立てる優れた編曲でした。次の曲は、昨年のWphのニューイヤーコンサートで聴いてから好きになったヨーゼフ・シュトラウスの「水彩画」ですが、ヨーゼフはヨハンより天才的なメロディ・メーカーではと思えるほど優雅なワルツで、聴いていると元気が出てきます。「シャンパン・ポルカ」では、クラリネットのヒントラーさんがシャンパンの開ける音を出しながら、ラストではシャンパンのコルクをキュッヒルさんにパスして終わります。ランナーの「マリアのワルツ」はボスコフスキーが好んだワルツらしいですが、この曲のみ、ヴァイオリン2、ヴィオラ1、コントラバス1の4人で演奏されました。本編最後の「騎士バスマン」のチャールダッシュはクライバーのニューイヤーコンサートでも取り上げられた曲ですが、WREの演奏はクライバーより遅いテンポでした。クライバーの偉大さを改めて感じます。今日のWREメンバー9名のうち、クライバー時代の奏者は3名だけで、かなり若返っている印象があります。アンコールは「浮気心」「美しく青きドナウ」「ラデッキー行進曲」でした。


ラデッキー行進曲の冒頭の小太鼓はフルートのシュルツさんが叩いてました


(評価)★★★ 年始にふさわしいコンサートでした

*勝手ながら5段階評価でレビューしております

★★★★★: 一生の記憶に残るレベルの超名演 

★★★★:大満足、年間ベスト10ノミネート対象

★★★: 満足、行って良かった公演

★★: 不満足、行かなければ良かった公演 

★: 話にならない休憩中に帰りたくなる公演

《曲目》
ニコライ:オペレッタ『ウィンザーの陽気な女房たち』序曲
J. シュトラウスⅡ:ワルツ『南国のばら』
J. シュトラウスⅡ:オペレッタ『こうもり』よりカドリーユ
ヨーゼフ・シュトラウス:ポルカ・マズルカ『とんぼ』
レハール:ワルツ『金と銀』
J. シュトラウスⅡ:ポルカ・シュネル『狩り』
プッチーニ・メドレー
ヨーゼフ・シュトラウス:ワルツ『水彩画』
J. シュトラウスⅡ:シャンパン・ポルカ(音楽の冗談)
ヨーゼフ・シュトラウス:ポルカ・シュネル『大急ぎで』
ランナー:マリアのワルツ
J. シュトラウスⅡ:オペレッタ『騎士パズマン』よりチャールダーシュ
《アンコール》
J.シュトラウス2世:ポルカ・シュネル「浮気心」
J.シュトラウス2世:ワルツ「美しく青きドナウ」
J.シュトラウス1世:ラデツキー行進曲