今日は「秋の海外オーケストラ来日公演シリーズ」の11日目で、ネルソンス指揮・ゲヴァントハウス管(GHO)のワーグナーとブルックナープログラムに行きました。音楽評論家の越懸澤さんによるプログラムノートによるとp.12には、ライプツィヒの観衆は保守的なため、ライプツィヒ生まれのワーグナーの初期の作品は評価されたものの、作曲の進化の過程で受け入れられず、ブルックナーについてもGHOが交響曲7番を初演して大成功を収まるまでは、ライプツィヒの観客には馴染まなかったと書いてあります。この点で、今日のコンサートの裏テーマは「苦悩」と言えるでしょう。またネルソンスによると今回の来日公演の曲目は過去の25回の日本ツアーで取り上げてない曲をセレクトしたと言うこだわりがあります。

ライプツィヒにはこれまで3回ほどGHOを聴きに行きました。フランクフルトからライプツィヒの飛行機に乗って、到着すると、荷物が出てくるコーナーが2つしかなく、典型的な田舎の空港感が漂いますし、空港から市内へのタクシーでの陸路も長く、かつての作曲家たちが見た田園地帯と同じような風景が見れます。1743年に設立された世界最古の民間のオーケストラであるGHOのゲヴァントハウスは日本語に訳すと、「衣服の館」と言う意味ですが、繊維商人の館で演奏されており、1781年には500席のホールでしたが、1884年には1500席のホールになり、クラシック音楽の作曲過程における音楽演奏の拡大化と比例した歴史を体現しているのがゲヴァントハウスの素晴らしい部分です。このオケが初演した曲は枚挙にいとまがないですが、昨日のメンデルスゾーンの曲の他に、ベートーヴェンの皇帝、シューベルトのグレート、メンデルスゾーンのVn協奏曲、ブルックナーの7番などあります。今の3代目ゲヴァントハウスは1900席ほどのホールになり↓、ベルリンのように現代化しており、素敵なホールです。ネルソンスのカペルマイスターのお部屋に訪問したことがありますが、まるで、日本の大企業の社長室のように広く、デスク・ソファ・本棚などフル装備の歴史を感じる部屋でした。この写真の指揮台も日本のツアーに持ってきていることが分かると思います。


2019年に訪問した時のゲヴァントハウス(ネルソンス指揮)


さて、コンサートの内容ですが、今日のコンマスは筆者が1番注目しているブロイニンガーさんで、この方は、楽譜をほとんど見ずに、身体を自由自在に動かしながら演奏する秀逸な演奏者です。オケが登場してからのチューニングから重厚感が感じられますが、ワーグナーの前奏曲はゆったりしたテンポで重い演奏でした。昨年12月のティーレマン指揮のシュターツカペレ・ベルリンと比較すると、今日の演奏はかなりシンフォニックな演奏に感じます。オペラ指揮者のティーレマンと歌劇場のオケの演奏では、ワーグナーのオペラの情景が広がるような演奏でしたが、今日はどちらもコンサート指揮者とオケによるものですのでしたので、ワーグナーのトリスタンらしい官能的で劇的な演奏は乏しかったです。やはり、歌劇場叩き上げの指揮者とオケは、オペラの歌とストーリーをイメージしながら演奏するのが長けているのでしょうか。この点が、今日の残念なところでしたが、木管やチェロセクションの演奏は素晴らしかったです。


後半のブルックナー9番は、ブルックナー開始のホルンは美しく綺麗な形で入りました。第1主題ではGHOから音の洪水のように爆音が存分に出てきます。これぞ、旧ザクセンの肉食系のオーケストラの真髄と感じます。その後の木管セクション全体で全員が身体を動かしながら、音を合わせていくところを観るとテンションが上がります。第2楽章のTuttiも日本のオケでは聴けないようなパワフルな演奏で、何度聴いても凄みを感じます。この楽章では田園地帯の雰囲気もそれとなく入っており、味わい深い演奏でした。第3楽章の冒頭は引き締まった弦楽セクションの演奏から始まります。その後、ワーグナーチューバによる荘厳なコラール風の演奏が秀逸で、ブルックナーが作曲時における生と死を彷徨っていた頃の旋律が次々と出てきます。トランペットとティンパニの強調をうまく活用しながら、神聖な雰囲気が漂う演奏が続きます。ネルソンスは2回の長いゲネラルバウゼを出しながら、この楽章の死への序奏感を出したり、天国への情景を出したりと、秀逸な表現を描いていました。最後はミサ曲としか感じざるを得ませんでした。ブルックナーがこの曲の譜面に「愛する神に」と書いていたことと通じました。昨日含めて、ネルソンスは奇をてらわない指揮でしたが、それでも心に刺さるのはGHOの歴史と伝統のなせる技なのでしょうか。ネルソンスが来日会見で語っていた「作曲家の頭脳がそのまま表現された音」が出るオーケストラと言う表現には腹落ちしました。

昨日のメンデルスゾーンの方が名演だったのか、今日の終演後の歓声は昨日の方が盛り上がってました。また、ライプツィヒに行きたくなりましたが、老体に鞭打って行ける元気はもうあまりないです(^^)。ドイツに住んでいた筆者からすると、ドイツで食事が美味しいのは、ミュンヘン・ベルリン・ライプツィヒくらいだと思いです。ライプツィヒでは意外と美味しいものが出てきましたので、是非、皆様も機会があれば訪問されてください(デュッセルドルフ、ケルン、ハンブルク、フランクフルト、ドレスデンなどは酷い料理しか記憶にないです)。



(評価)★★★★ ブル9は近年では優れた名演でした

*勝手ながら5段階評価でレビューしております

★★★★★: 一生の記憶に残るレベルの超名演 

★★★★:大満足、年間ベスト10ノミネート対象

★★★: 満足、行って良かった公演

★★: 不満足、行かなければ良かった公演 

★: 話にならない休憩中に帰りたくなる公演

指揮:アンドリス・ネルソンス
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
曲目
ワーグナー:楽劇『トリスタンとイゾルデ』より前奏曲と愛の死
ブルックナー:交響曲第9番 ニ短調(ノーヴァク版)