この秋の海外オーケストラ来日公演では予習不要の名曲ばかりの公演が続いてますが、今日は8割以上は聴いたことがないバロック音楽を鑑賞するため、紀尾井室内管(KCO)の定期演奏会へ行きました。バロック音楽を聴くには紀尾井ホールが1番適合していると思います。

今日の指揮(ハイドン以外はチェンバロとピアノを弾いてました)のダントーネはバロック音楽を得意とし、インスブルック古学音楽祭の音楽監督に就任している方で、今回、初めて実演を聴く指揮者です。コントラストのガルーも初めてなので、初めてだらけのコンサートです。バロック音楽は、聴き馴染みの良い曲か、聴いていて飽きる曲の差がはっきりしているので、今日は初めての曲ばかりですが、気楽な気持ちで聴くことにしました。そのため、今日のブログの感想はやや緩いです。


今日の曲目はヘンデル、ポルポラ、ヴィヴァルディ、グルック、ハイドンと5人の作曲家で構成されてますが、プログラム・ノートを執筆している安田和信さんによると、1番知られていないポルポラを軸にしたものと解釈できるようです。ポルポラはナポリ出身のナポリ派の作曲家で、ヴィヴァルディのオペラにはポルポラのアリアがアレンジして入っているそうです。ポルポラがロンドンに拠点を移すと、ロンドンにいるハイドンがポルポラのアリアをオペラで活用していました。そして、ポルポラがウィーンに移ると、若い時のハイドンがいて、ハイドンを弟子とします。グルックも1759年にウィーンに定住して、ポルポラとの被りがあるようで、クラシック音楽のジャーニーは奥深いものがあります。

ニコラ・ポルポラ(1686-1768)


前半はヘンデルのオペラ3作品から始まりますが、冒頭の《アルチーナ》の序曲は爽快な演奏で始まり、サラバンドでは2人のフルート奏者がリコーダーを吹いたりして、バロック音楽らしさを感じます。復讐をテーマにしたアリアは、頑張って歌ってはいますが、あまり声が通らない歌唱でした。今日のアリアは怒りや恐れなどネガティブなテーマのものが多く、明るいバロックのアリアは聴けませんでした。《ジューリオ・チェーザレ》は良く上演されるオペラですが、ストーリーや音楽が捉えずらく、かなり苦手なオペラです。このオペラのアリアでも、音がこもっていて、もう少し透明感が欲しかったような気がします。《リナルデ》のアリアは技巧的で難しい歌唱で、ガルーは一生懸命歌っていましたが、この曲もイマイチ感動できませんでした。前半の最後は、ポルポラのチェロ協奏曲を指揮者のダントーネがピアノ協奏曲に編曲したものです。ピアノのソロはブルクミュラー練習者でも弾けるような容易な曲に聴こえます。この曲をどうしてピアノ協奏曲にしたのかは謎ですが、4楽章からなる協奏曲は18分くらいであっという間に終わりました。


後半はまずヴィヴァルディのオペラから3作品がチョイスされていて、いずれも初めて聴くオペラですが、《テンペのドリッラ》のシンフォニアの第3楽章は《四季》の《春》の冒頭とそっくりで1分間くらいで終わります。2曲目の《救われたアンドロメダ》のアリアは自然の情景を歌っていますが、高音部分がうまく出ていないように思えました。3曲目の《狂えるオルランド》のアリアは怒りをテーマにしたものですが、ヴィヴァルディのオペラの曲で心に響くものはあまりありませんでした。グルックのオペラ《パーリデとエーレナ》は今日のアリアで1番旋律としては美しかったと思いました。最後のハイドンの交響曲第81番は、バロックから古典派をブリッジするような時代に作曲されたもので、全体として尖った旋律は少ないですが、最終楽章は聴きやすい音楽でした。今日は勉強になるくらい未知のバロック音楽を体験できました。


また、残念なニュースですが、N響コントラバス主席の吉田秀さんが今日でKCOを卒団すると言うことで、花束贈呈がありました。その後、定期演奏会では珍しいですが、2曲のアリアのアンコールがありました。


(評価)★★★ バロック三昧のコンサートを久しぶりに体験できました

*勝手ながら5段階評価でレビューしております

★★★★★: 一生の記憶に残るレベルの超名演 

★★★★:大満足、年間ベスト10ノミネート対象

★★★: 満足、行って良かった公演

★★: 不満足、行かなければ良かった公演 

★: 話にならない休憩中に帰りたくなる公演


《指揮・ピアノ》オッターヴィオ・ダントーネ

《コントラルト》デルフィーヌ・ガルー

《曲目》

ヘンデル: 歌劇《アルチーナ》HWV34
 ~序曲、ガヴォット、サラバンド、ガヴォット、アリア〈復讐してやりたい〉
ヘンデル: 歌劇《ジューリオ・チェーザレ》HWV17~アリア〈花咲く心地よい草原で〉ヘンデル:歌劇《リナルド》HWV7~アリア〈風よ、暴風よ、貸したまえ〉
ポルポラ/ダントーネ編:ピアノ協奏曲ト長調 (原曲:チェロ協奏曲)[アジア初演]

ヴィヴァルディ:歌劇《テンペのドリッラ》RV709~シンフォニア
ヴィヴァルディ:歌劇《救われたアンドロメダ》~アリア〈太陽はしばしば〉
ヴィヴァルディ:歌劇《狂えるオルランド》RV728~アリア〈真っ暗な深淵の世界に〉、
グルック:歌劇《パリーデとエレーナ》Wq.39~アリア〈甘い恋の美しい面影が〉
ハイドン:交響曲第81番ト長調 Hob.I:81
《アンコール》
ヘンデル:歌劇《リナルド》HWV7よりアリア〈風よ、暴風よ、貸したまえ〉
ヘンデル: 歌劇《アルチーナ》HWV34より アリア〈復讐してやりたい〉