今日はピノック指揮・紀尾井室内管弦楽団(KCO)の定期演奏会で紀尾井ホールへ向かいました。一昨日のN響定期と比べて、かなり豪華なプログラムで、特別演奏会でやるレベルのメンデルスゾーンの大曲を楽しめました。今日の3曲のうち、オラトリオと交響曲は初演時はオケと合宿で500人以上で演奏された作品で、本来なら室内楽団ではなく、N響サントリー定期やゲヴァントハウスの来日公演でやって欲しい曲目です。いずれも演奏機会の少ない曲で、全て初めて実演で聴く曲です。3曲ともに宗教音楽で、オルガンは欠かせないですが、紀尾井ホールにはオルガンがないので電子オルガンによる演奏でした。終始、オルガンの神聖な音は聴こえず、この点が残念なところで、オケ・合宿・ソロ歌唱による圧倒的な音量のコンサートでした。KCOのメンバーも豪華で、コンマスはバイエルンのバラホフスキー、東響の小林さん、パリ菅の千々岩さん、今井睦子さんとVnセクションだけでも素晴らしいメンバーです。合唱は新国立劇場で、35名のメンバーが所狭しと座っています。歌唱ソロは、テノールのペーターはザルツブルク音楽祭の常連の素晴らしい歌手で、ソプラノの2人は存じ上げません。ピノックは76歳と思えない元気溌剌で、足早に登場し、髪の毛はパキパキにセットされて、靴底がルブタンのように赤くなっていて、60歳くらいに見えるオシャレ男であります(勘違いでしたらすみません)。ピノックはブロムシュテットのように90歳以上まで活躍すると思います。今日は脚も含めて全身を動かしながら、瞬発力のある鋭い指揮をしていました。


前半の1曲目はオラトリオ「聖パウロ」で、合宿無しの序曲です。メンデルスゾーンらしい美しい旋律で、教会的な雰囲気がしました。今年の4月にムーティ指揮のウィーン・フィルによる交響曲第5番「宗教改革」を聴いた時と同じような神聖な感じがしました。オルガンの響きが少ないのがとても残念でした。

2曲目は詩篇第42番「鹿が谷の水を慕うがごとく」ですが、歌詞に鹿(ドイツ語でHitsch)のワードは冒頭に1箇所出てくるだけで、基本的には祈りがテーマにした歌詞になっています。第1目の美しい合唱曲は新国立劇場の合唱でとても上手に歌っていましたが、第2曲のソプラノのアリアはリトアニア出身のベンジューナイテはドイツ語の発音がイマイチに感じました。ドイツ語圏でのオペラのキャリアが少ないからでしょう。第6曲からテノールのペーターが余裕のある歌唱を男性カルテットの1人として歌い始めました。最後の第7曲はメンデルスゾーンらしい荘厳なオーケストレーションで締めくくりました。


後半は交響曲第2番「讃歌」は交響的カンタータとタイトルに書かれていて、いわゆる交響曲のジャンルではない壮大なスペクタクルの宗教曲です。この曲もなかなか実演で聴く機会がありませんが、かなりこだわりのある構造になっています。まず、第1曲のシンファニアは20分間超の楽曲ですが、3楽章構成になっていて、ここで終わっても十分な聴きごたえのあるものでした。冒頭のトロンボーンのモチーフはこの交響曲の随所に挿入されています。ここから残り9曲全てをコメントすると、長くなってしまいますので、ハイライトとしては、第6曲のテノールの歌唱、第6と第7曲のホルンの優雅な旋律、そして第8曲の有名なコラールでした。ピノックは第10曲までエネルギッシュに指揮して、最終曲は壮大な合唱曲で大円団でした。ここでも、冒頭のトロンボーンのモチーフが出てきます。終演時間は21:10で、定期演奏会とは思えないくらいの充実したコンサートでした。リハーサルも通常より多く4日間かけたようで、この演奏会への並々ならぬ力の入れぶりを感じました。本日の貴重な演奏会を提供してくれた関係者の皆様には感謝申し上げます。今日の評価は久しぶりの国内オーケストラでの星4つ評価です。


今回の公演とProgram Notes(星野宏美さん執筆)は勉強になりました。特に「メンデルスゾーンが1835年にライプチヒ・ゲヴァントハウスの指揮者に就任した時のゲヴァントハウスの客席は300名で、1842年に200席のギャラリー席を追加した」の部分は当時の音楽の規模の成長過程を把握できるデータだと思いました。


(評価)★★★★ かなり満足度の高いメンデルスゾーンでした

*勝手ながら5段階評価でレビューしております

★★★★★: 一生の記憶に残るレベルの超名演 

★★★★:大満足、年間ベスト10ノミネート対象

★★★: 満足、行って良かった公演

★★: 不満足、行かなければ良かった公演 

★: 話にならない休憩中に帰りたくなる公演


出演者
トレヴァー・ピノック Trevor Pinnock(指揮) ラゥリーナ・ベンジューナイテ Lauryna Bendžiūnaitė(ソプラノ Ⅰ 独唱)
マウロ・ペーター Mauro Peter(テノール独唱)
 澤江衣里 Eri Sawae(ソプラノ Ⅱ 独唱) 
 新国立劇場合唱団 New National Theatre Chorus(合唱)
 紀尾井ホール室内管弦楽団
曲目
メンデルスゾーン:オラトリオ《 聖パウロ》op. 36 MWV A 14~序曲、
メンデルスゾーン:詩篇第42番《鹿が谷の水を慕うがごとく》op.42, MWV A 15、
メンデルスゾーン:交響的カンタータ(交響曲第2番)《讃歌》変ロ長調 op.52, MWV A 18、