本格的な秋のコンサート・シーズンが始まり、今週はあと4つの公演に行く予定ですが、まだまだ暑い日が続いてますね。今日のローレンス・レネス指揮の都響のコンサートは、珍しい曲目構成とヴィオラのタベア・ツィンマーマンが出演すると言うことで、都響の企画力が光る公演です。タベア・ツィンマーマンは、1966年生まれで、3歳の時からヴィオラを始めている珍しい方です。ヴィオラ奏者は若い時にヴァイオリンからの転向される方が殆どだと思います。タベアは完璧なテクニックと表現力で、筆者は世界最高のヴィオラ奏者だと思いますし、2020/21シーズンはベルリン・フィルのアーティスト・イン・レジデンスに任命され、ベルリンでの評判はすこぶる良いです。ベルリン・フィルのヴィオラ首席のアミハイ・グロスはタベアの弟子で、2人とも身体を大きく動かしながら演奏する点が特徴です。筆者は昨年のザルツブルク音楽祭のベルリン・フィル公演(指揮はペトレンコの代役のハーデング)でタベアのソロによるシュニトケのヴィオラ協奏曲を聴きましたが、ヴィオラ奏者の宿命か、タベアが演奏する曲は珍しい曲が多いです。

タベアが出演したザルツブルク音楽祭のベルリン・フィル公演(2022年8月)


前半のモーツァルトのクラリネット協賛曲のヴィオラ版は珍しい曲で、タベアの持ち込み企画でしょう。このクラリネット協奏曲はモーツァルト晩年の曲で作曲過程や初演などは不明な部分が多いですが、今日の演奏は指揮者のホグウッドによる改訂版です。各楽章の冒頭のソロの主旋律などは、原曲のクラリネット協奏曲によるものですが、それ以外はほとんどがヴィオラ版に編曲されていて、クラリネット協奏曲のソロパートとは異なります。この点がこの曲の面白いところで、もはや、「ヴィオラ協奏曲」と言っても良いと思われます。タベアは、オケのヴィオラパートを一緒に弾きながら、優雅にモーツァルトのソロパートを演奏します。ここまでクラリネット協奏曲の原曲が異なると、タベアによるカデンツァを聴きたくなりますが、この曲にカデンツァはありませんでした。アンコールもクルターグという作曲家の初めて聴く曲でした。アンコールでは、メガネを忘れてしまったタベアが可愛らしかったですが、演奏としては大胆なタベア節が見られました。


後半はプロコフィエフの「ロミオとジュリエット」ですが、今日の指揮者のレネスによるセレクション版です。レネスの抜粋は、組曲の第1番から4曲、第2番から4曲、第3番から2曲に加えて、バレエ全曲版の最後の3曲を繋ぎあわせて、物語のストーリー展開と合わせています。なお、一部の組曲はレネスにより省略されていたりしているので、少し構成が複雑で、公演プログラムの曲目解説を執筆された増田さんはこの点は苦労されたのではないでしょうか。レネスによる「編曲版」と言っても良いでしょう。そのため、レネスはこの曲の組曲とバレエ全曲版をかなり研究しているようで、彼の指揮には一切の無駄な無い、完璧にスコア分析されている指揮者による統率力を感じます。都響もそれに応える形で、「朝の踊り」、「モンタギュー家とキャピュレット家」、「タイボルトの死」では大オーケストラの演奏が際立つものでした。都響メンバーはコンマスの矢部さんをはじめ、10名以上がジョン・ウィリアムズ指揮のサイトウ・キネン・オーケストラに参加していましたが、そのメンバーたちも戻ってきているので、オケの心強いサポートが素晴らしいです。特に「タイボルトの死」のホルンによる演奏は秀逸でした。改めて、都響の企画センスの素晴らしさを感じます。

一方で、今週のN響のBプロは微妙ですし、横国大教授による曲目解説がデタラメだらけですので、お出かけの方はWikipediaなどの曲目解説をお読みになられた方が良いでしょう(^^)。


(評価)★★★  珍しい曲を聴けた希少な機会でした

*勝手ながら5段階評価でレビューしております

★★★★★: 一生の記憶に残るレベルの超名演 

★★★★:大満足、年間ベスト10ノミネート対象

★★★: 満足、行って良かった公演

★★: 不満足、行かなければ良かった公演 

★: 話にならない休憩中に帰りたくなる公演


指揮/ローレンス・レネス
ヴィオラ/タベア・ツィンマーマン

モーツァルト:クラリネット協奏曲 イ長調 K.622(ヴィオラ版)

《アンコール》クルターグ: イン・ノミネ


プロコフィエフ:バレエ《ロメオとジュリエット》より
~ローレンス・レネス・セレクション~
噴水の前のロメオ/情景/朝の踊り/少女ジュリエット/モンタギュー家とキャピュレット家/マスク/ロメオとジュリエット/僧ローレンス/タイボルトの死/別れの前のロメオとジュリエット/ジュリエットのベッドのそば~ジュリエットの葬式~ジュリエットの死