当ブログでは、国内外のクラシック・コンサート及びオペラ公演の鑑賞記がメインでありまして、バレエを取り上げるのは今回が初になります。バレエは「くるみ割り人形」でさえストーリーが理解できず、チャイコフスキーの音楽を楽しむことしかできない筆者なのですが、「白鳥の湖」だけは音楽だけでなく、ストーリーも明確に理解できるので、今日は新国立劇場の白鳥の湖の楽日に行くことに致しました。バレエに関して素人の鑑賞記ですので、バレエファンの方には物足りないものがあるかと存じますが、あらかじめご容赦頂けますと幸いです。


 このプロダクションを初めて観たのは2年前ですが、当初は吉田都監督の就任新制作第1弾として、20年の10月に華々しく初演する予定でしたが、コロナの影響で延期になりました。都さんは20年の2月に衣装の打合せのため、イギリスまで訪問し、ダンサーにとって動きやすく、なるべく軽い素材で衣装を制作する指示を出すなど、制作過程においてかなりのこだわりがあります。所属するダンサーのために、わざわざイギリスまで行って最適なものに仕上げようとする都さんの矜持を感じました。芸術監督としては、イギリスの衣装担当にそのままお任せするのが普通かと思います。その後、コロナになってしまい、この白鳥の湖の制作作業が一旦、頓挫してしまいます。

 このプロダクションの最大の特徴はピーター・ライト版であることですが、シェークスピア的な演劇要素の強い演出で、観ていても分かりやすく、物語としては悲しくもハッピー・エンドで終わる点(永遠の愛で終わる点)です。バレエに弱い筆者でもチャイコフスキーの音楽と共に、ストーリーが完全に理解できる素晴らしいプロダクションだと思います。このピーター・ライト版を採用した都さんは流石のセンスがあると感じます。他にも、都さんがバレエ部門の芸術監督になってから変わった点としては、新国立劇場のオペラや演劇公演ではプログラム冊子が有料ですが、バレエ公演は「全てのお客様に公演内容などについて理解してもらいたい」と言う都さんの指示で、来場者全員に無料でプログラム冊子が配布されることは素晴らしいです。加えて、都さんは所属ダンサーが安心して活動できるような報酬体系の見直しや稽古場を増設するなど、新国立劇場のバレエ部門を良い形で改革を推進されていて、今後もご活躍に期待したいです。

  前段が長くなりましたが、今回の白鳥の湖は木村優里さんの公演に行こうとしたのですが、怪我と言うことで、今日の公演に行くことにしました。2019年のくるみ割り人形で木村さんのファンになりまして、今回も木村さんの長身を活かした白鳥を観れることを期待していたのですが、早く怪我から回復されてもらいたいです。彼女はまだお若いですし、今後、必ずや世界の劇場で活躍できる人材だと思います。と言うことで、小野さんと奥村さんペアによる公演を鑑賞することになりました。小野さんは表情豊かな方で、第2幕では切ないオデットを演じ、第3幕では表向き幸せそうなオディールで、しなやかな踊りを披露されていました。ジークフリート役の奥村さんは、他のプリンシパルとの違いが分からないのでコメントしにくいですが、爽やかな王子でした。音楽面では指揮者のマーフィーが東京フィルを上手く制しており、通常はピットの下手端にあるハープを指揮台の近くに配置して、この音楽でのハープの音色の重要性を際立たせていました。これは大正解です。ピーター・ライトの演出の秀逸な点は、第1に演劇要素をふんだんに入れることで物語への没入感を醸し出すことです。冒頭のプロローグは国王の葬儀のシーンで王妃が悲しんでいるシーンがあります。黒い紗幕が降ろされているので、前方列の方しか分からない部分ではありますが、物語の始まりとしては重要です。第2に、舞台上の舞台美術とダンサーを基本的にシンメトリーで構成していて、観客が観ていて視覚的な分かりやすさがあります。このピーター・ライト版の白鳥の湖は、新国立劇場のアイーダとトスカと並ぶ、決定版的なプロダクションとなるでしょう。

 吉田都監督は今日も1階16列11番の席で、舞台チェックをしておりました。毎回のように舞台を観て、ダンサーに様々な指導をされてるのだと思いますが、このようなポジティブで献身的な監督のもとで、新国立劇場のバレエカンパニーの将来の成長性に期待できます。(いつもは新国立劇場のオペラ部門へは辛口・毒舌なのですが、今日はここらへんで終わりにしたいと思います。この3日間は、コンサート、オペラ、バレエとかなり充実していました。東京は本当に素晴らしい都市です) 


(評価)★★★ 満足度の高い白鳥の湖です

*勝手ながら5段階評価でレビューしております

★★★★★: 一生の記憶に残るレベルの超名演 

★★★★:大満足、年間ベスト10ノミネート対象

★★★: 満足、行って良かった公演

★★: 不満足、行かなければ良かった公演 

★: 話にならない休憩中に帰りたくなる公演


  • 【振付】マリウス・プティパ / レフ・イワーノフ / ピーター・ライト
  • 【演出】ピーター・ライト / ガリーナ・サムソワ
  • 【音楽】ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
  • 【美術・衣裳】フィリップ・プロウズ
  • 【照明】ピーター・タイガン

  • 【オデット/オディール】小野絢子
  • 【ジークフリード王子】奥村康祐
  • 【指揮】ポール・マーフィー
  • 【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団