ベルリン・フィルのベルリン・フィルハーモニック・ストラディヴァリ・ソロイスツのメンバーが昨日のマチネの福島公演を終えて、そのまま羽田空港から今日の朝(現地時間)、ドイツに無事帰国したようです。また、ベルリン・フィルの首席指揮者をテーマにした映画「TAR」を鑑賞しましたが、ただのサイコ・サスペンス映画で、実際に出てくるオケはベルリン・フィルではなくドレスデン・フィルで、音楽面ではあまり魅力のある映画ではありません。主演のケイト・ブランシェットの演技は素晴らしいですが、映画としてはイマイチで、先週や今週で映画上映が終わるのは順当でしょう。今日は、ベルリン・フィル(Bph)の最近聞いた話題について書いてみます。


(1)K.ペトレンコはベルリン・フィルとうまくいっているのか

 2015年6月にベルリン・フィルの楽団員による投票によって、K.ペトレンコが首席指揮者に決まりました。この時は一度の投票では決まりませんでした。アバドが選出された時も、1回目はバーンスタイン(本人辞退)、2回目はクライバー(本人辞退)、3回目はジュリーニ(本人辞退)で、4回目の投票でアバドになりました。毎回の投票で2位につけていたマゼールが怒って、それ以降の投票結果は非公開になりました。ペトレンコに決まった時は、わずかな数票の僅差でティーレマンが2位だったらしいです。この僅差で時代が変わったことは、当時、英国でBrexitの国民投票が僅差で決まったことと重なるみたいです。ある楽団員によると、政治的にはティーレマンは右、ペトレンコは中道から左で、ベルリン市やベルリン市民は左の人々が多いため、政治的な面で、無難なペトレンコに票が流れたと分析します。ドイツ国内で極右の多いドレスデンを拠点としているティーレマンがベルリンで右寄りの政治的な発言をすると、ベルリンの新聞や市民になにかと叩かれます。そのため、音楽面や過去の共演歴などの関係性ではティーレマンの方が優れていても、ティーレマンの右翼的な部分がベルリンにはマッチしないと判断した楽団員達が、Bphとの共演は僅か2回しかなかったペトレンコにリスクを負って投じたようです。ティーレマンに対しては政治的ポジションだけでなく、過去のベルリン・ドイツ・オペラの辞任のような問題を抱えることも多く、この点もマイナスに働いて、僅差で負けてしまいました。ティーレマンに投じた楽団員によると、今でも、音楽面ではティーレマンの方が優れているので、必ずオケに乗ることにしているし、彼はレパートリーが少ないと言われているが、イタリア語もペラペラで、イタリア音楽も良かったそうです。彼が言うには、ペトレンコは情熱的なアプローチでスポーツのような音楽を演奏をさせるが、ティーレマンは哲学的なアプローチで、独特のパウぜの取り方など神秘的な音楽だとして、本当はティーレマンに監督になって欲しかったみたいです。

別のティーレマン派だった楽団員は、最近のペトレンコについて、こう語ります。ペトレンコが首席に決まった翌々年の2017年からBphを指揮する回数が増えましたが、この6-7年を振り返ると、Bphの十八番であるブラームスのチクルスはやってないし、マーラーは6番と7番のみ、ブルックナーの交響曲は皆無で、BPhの楽団員とファンが好みそうなプログラムは少なく、ペトレンコが指揮する演奏会はスーク、シェーンベルク、コルンゴルドなどマニアックな選曲が多くて、そこに嫌気がさしているようです。楽団員としてあまりやりたくない曲を演奏する機会が多くなっているのが不満のようで、その典型的な最近のコンサートはこれです↓。

これは確かに、わざわざ行きたくない公演です。今年の来日公演のプログラムは、アバドやラトル時代と異なり、少しマイナーな曲も入っていて、公演数が多い割には2プロと物足りないです。アバドとの初来日はブラームス・チクルスに加えて、ブレンデルとのピアノ・コンチェルトを含めたブラームス特集でした。ラトルの初来日の時は、ブラ2, マラ5, フィデリオと全プログラムをかなり楽しめたものでした。今年の来日公演の曲目については少し残念です。

ちなみにコンマスの大進さんはペトレンコと相思相愛的な感じで良い関係性みたいです。


(2)ホルン首席のシュテファン・ドールは辞めてしまったのか

 楽団長でホルン首席のシュテファン・ドールが昨年の秋からBphで演奏していないので、いくつかのネット上で、辞任説が出ましたが、それは誤情報らしいです。楽団員によると、ドールは30年以上、Bphで演奏し続けていて(初めて見たのは1994年のアバド来日の時のチャイ5演奏で印象的でした)、しかも、ドールは責任感が強く、他の楽団員のようにあまり長期の休みを取らなかったので(ドールが出てる確率が8割以上でした)、今シーズンはサバティカル的に休みで、海外でのソロ活動など自由な活動をしているらしいです。シュテファン・ドールは今年の11月の来日公演には参加すると聞いてますので、素晴らしい公演になるでしょう。

 Bphは他のオケに比べて、休みが多く許容されていて、例えば、2か月ベルリンで演奏し、1か月休んで他の国などで演奏することが簡単に許されています。これは、カラヤン先生時代から始まったシステムで、そのため、世界的なソリストでもスケジュールを合わせて、Bphに参加しやすくなっているらしいです。

ウィーン・フィルの楽団員は国立オペラの楽団員であるため、休みはBphに比べると圧倒的に取りにくいのかもしれないです。


(3)4月のマケラ指揮はどうだったのか

 当ブログで取り上げた問題の4月のマケラ指揮のチャイ6について、このコンサートで演奏していた楽団員に感想を聞いてみました。「あのコンサートは酷かったよ。マケラはスコアの研究をしていないし、解釈が甘く、オケのメンバーへの説得力がないリハで、オケが一体化してなかったよ。本番はタクトを振るだけで一生懸命だったと思う」とあまり評判は良くないみたいです。また、いまだにデジタル・コンサートホールにアーカイブ映像が無いことを深夜2時の東京のバーで訊ねると、「嘘だろ。普通はもう載ってるはずだけど、載ってない理由はベルリンに帰って、メディアチームに聞いてみるよ」と言うことでした。↓のゴシップサイトにはこの件についての記事もあり、いろんな人がコメントしてます。


ここのところ忙しくて、やっと書き終わりました。ありがとうございます。