黒い靴下で演奏する鬼才のニコラ・アルトシュテット
今日は昼は雪、午後はやや強めの雨で、後半は先月のソヒエフ・N響で聴いたばかりのベト4なので、行くのをやめようかと思ったのですが、紀尾井室内管（KCO）の定期に行って正解でした。先月のKCOのニューイヤーコンサートでは、学生エキストラが多く、酷いウィーナー・ワルツを聴きましたが、今日のKCOはレギュラーメンバーはやや少な目でしたが、チェロの上村文乃さんらが参加していて、素晴らしいメンバーでした。コンマスは千々岩英一さんで、N響2ndVnの大宮さんは1番後ろの席で弾いてました。学生奏者でも素晴らしい演奏家はいると思いますが、保有している楽器は、今日のソリストや国内オケの首席級の方々とは違うことが明確に分かります。指揮はマキシム・パスカルで、オペラかバレエのどこかで聴いたことはあるかもしれないのですが、あまり記憶にありません。パスカルは、1985年生まれの若手指揮者で、ザルツブルク音楽祭のヤング・コンダクターズ・アワード（YCA）を受賞してますが、ザルツブルク音楽祭のYCAのコンサートは地元のお客様中心にかなり盛り上がる記憶があります。素晴らしい演奏家だと、ウィーン・フィル以上の喝采を受けるコンサートで、音楽プロデューサーらも鑑賞してます。
1曲目のフォーレは、組曲「マスクとベルガマスク」と有名な「パヴァーヌ」を組み合わせた演奏で、フォーレらしい美しい音の旋律が8曲にわたって続きます。フォーレの本当に美しい音を紡ぐ代表的なフランスの作曲家ですが、同じフランス出身のパスカルは卒なくオーケストラを引っ張っていきます。「レクイエム」の中で、フォーレのレクイエムが1番好きだと言う方が多いのは、納得がいきます。今日の組曲に追加した「パヴァーヌ」はレクイエムと同時期に作曲されたもので、フォーレが絶好調だった時期だったと思われます。
今日の最大の収穫は、ショスタコのチェロ協奏曲です。この曲は初めて聴きますが、ホルンがソロ並みに大活躍するアイデア溢れた曲です。「チェロとホルンのための協奏曲」と言って良いほど、チェロのソロ部分をホルンが追っかけます（特に、第1楽章と第4楽章）。チェロはニコラ・アルトシュテットで、目立った受賞歴は無さそうなのですが、独創的な衣装に加えて、黒い靴下で歩きながら登場。自宅と同じ感覚で演奏したいのでしょうか。雰囲気としては、若き日のマイスキーのような弾き方でした。演奏中のアルトシュテットの眼球は鋭く、鬼気を感じる、まさに鬼才のチェリストでした。特に最終楽章な猛烈な勢いで演奏しており、アルトシュテットの凄みを感じました。アンコールは、バッハの無伴奏チェロ組曲で、はっきりと抑揚をつけた独創的なバッハでした。2/19に同じ紀尾井ホールで、彼のバッハの無伴奏チェロリサイタルがあるので、これは宣伝効果のあるものでした。来週日曜に時間があれば行きたいです。
後半のベト4は、フルートが１本の小編成の曲で、KCOにはピッタリの交響曲だと思います。指揮者の実力が試されるです。冒頭からこんもりしたオケの音が聴こえてきて、先月のNHKホールの散漫としたベト4に比べて、紀尾井ホールの音響の良さを感じます。ホールは楽器の一部ですね。ですが、今日のベト4は凡庸な表現で、キレが無く、何の工夫も無い演奏でした。パスカルには、もう少しデザイン性のあるベートーヴェンを聴かせて欲しいと思いました。今日の演奏自体は手堅いもので、KCOの個々のメンバーの実力で支えられたものだと感じられます。今回のKCOの定期演奏会は、2022年度のラスト公演ですが、今年度のKCO定期では1番良かったと思います。他の3公演の記憶があまり無いです。来年度のKCOに期待したいですが、ザルツブルクのモーツァルト・マチネみたいに、モーツァルト特化のコンサートでも良いと思います（KCOの小規模オケでは大曲は無理なので）
（評価）★★★ チェロのアルトシュテットとKCOのメンバーは素晴らしかったですが、指揮者の味付けが少なく、残念なところがありました
—-
＊勝手ながら5段階評価でレビューしております
★★★★★: 一生の記憶に残るレベルの超名演
★★★★:大満足、年間ベスト10ノミネート対象
★★★; 満足、行って良かった公演
★★: 不満足、行かなければ良かった公演
★: 話にならない休憩中に帰りたくなる公演
—-
今後もアルトシュテットには注目したいです
マクシム・パスカル（Cond），二コラ・アルトシュテット（Vc），紀尾井ホール室内管弦楽団
フォーレ：組曲《マスクとベルガマスク》op.112 ＋ パヴァーヌ op.50
ショスタコーヴィチ：チェロ協奏曲第1番変ホ長調 op.107
《アンコール》
J.S.バッハ: 無伴奏チェロ組曲第1番より第4曲サラバンド
ベートーヴェン：交響曲第4番変ロ長調 op.60