〈あらすじ〉

香奈と萃香、二人の蟒蛇が出会ってしまった














妖夢と琴音、二人との会話はそこまで長くは続かなかった。というのも、久しぶりに地上に降りたということもあって、琴音はもともと住んでいた家に寄るつもりだったらしい。日が暮れてはピアノも碌に弾けない為、日が昇りきる前に二人は行ってしまった。


そこから取り残された二人は、日が昇って沈みかけるまでの間、他愛無い世間話をしながら時間を潰していた。そして竹の葉の隙間から覗く陽光が朱くなった頃、二人はスッと腰を上げた。


修「んじゃ、そろそろ行くか……はぁ」


妹「ああ。でもなんだ?楽しみというより、不安な顔してるけど」


そりゃそうだ……噂に聞いた限りでも、今日香奈が会う人物……いや、鬼は、かなりの酒好きで、つねに酔っ払っているなど、禄でもない存在らしい。会ったこともないのにそんな事を考えるのは失礼だが、香奈と会ったら最後、酒を控えるどころの騒ぎじゃない。


修「だってさ、香奈だよ。萃香っていう鬼と既に会っていたらどうなると思う?」


妹「……そりゃあ、飲むだろうね」


修「つまり?」


妹「え……酔っ払う?」


修「そ。で、まーた変な言いがかりをつけられて俺に飛び火がくるんだよ」


妹「その話か……いや、あれは謝ったじゃないか」


修「妹紅は俺の知る限り常識人だし、もう何とも思ってないよ。問題なのは、香奈の性格が豹変するところだよ。あいつ酔ったらめんどくさいんだよ。だから飲む前に合流して、せめて側で酒にブレーキをかけておきたい訳」


妹「なるほど……とりあえず、行くか。妖夢と琴音ちゃんも行ってるだろうし」


異論は勿論なく、そのまま博麗神社へと直行した。














その頃、博麗神社


琴「……これが、お姉ちゃん……?」


香「そうだよ、これも私……アルコールに侵食されたことで露わになってしまった、だらしない私……本当のことは結構傷つくんだよー……」


琴「いや傷つくとかそんなんじゃないんですけど、一升瓶片手にとうもろこしを齧っていたら、誰でもびっくりしますよ……」


早「まあそうだよね……というかどこかで聞いたような台詞だな、さっきの……」


修一達の不安は悪いことに当たっていて、宴会の開始を待たず、香奈は既に出来上がっていた。


萃「いやぁ〜、私の酒をこんなに飲めるなんて、あんた大したもんだよ!」


香「はへへへ、確かにいつものお酒に比べたらキッッッツイですけど、まだまだ飲めますよ!呂律も回っていますし」


早「うん、異国語じゃないもんね。喋れてるから大丈夫か。にしても修一君遅いな……早く来て欲しいんだけど……」


早苗も過去に苦い思いをしている。修一と共に宴会で飲んでいた際、日頃の疲れが一気に押し寄せ、そのまま彼の膝で寝てしまったことがある。それ自体も恥ずかしい話なのだが、問題は酔っ払いの香奈と妹紅が彼に向けて弾幕を張り、その巻き添えを食ったことだ。

早苗としては、早めに修一に来てもらい、香奈を落ち着かせて欲しいところだった。


彼女がソワソワしていると、そこに二人がやってきた。


妖「あのー……」


早「わぁ……って、妖夢さんじゃないですか。お久しぶりです!」


妖「お久しぶりです。前にお会いしたのも、確か宴会でしたね」


早「確かそうですね。えっと、そちらの方、見たことはある気がするんですけど……」


琴「琴音、譜奏 琴音です。地霊殿の一件の時、修一お兄ちゃんと一緒にいましたから、その時だと思います」


早「地霊殿……ああ!わかった!時期はわかったけど、全然覚えてなかった……ごめんね……」


琴「無理もないですよ、前線を張っていたのは修一お兄ちゃんでしたし、私たちも見ることしか出来ませんでしたから」


妖「意外なところで接点があったんだね。知らなかったよ」


早「さて……そんな修一お兄ちゃんはまだ来ないし、とりあえず私たちだけでも呑みましょうか」


妖「ええ、そうしましょう」


琴「あ、私はお茶で」













紗「はぁ……」


夜籟を引っ張り出して、宴会に参加することは出来たけど、今度はパチュリーって人とずっっっっっっと話してる。あの人も息抜きで参加してるだろうに、余計なことばっかりしちゃってさ……


紗「なんでこうなるかな……」


?「やあ、久しぶり」


後ろから突然声をかけられ、驚いた彼女はサッと後ろを振り返った。


紗「あ、ああ!椛!」


椛「今日は非番でね、山からこっちを覗いたら紗恵の姿があったからさ。私もたまにはってね」


紗「そういうことなら都合がいいわ。椛、ちょっと私と付き合わない?」


椛「もとよりそのつもりだ。以前の約束も果たしたいし」


紗「覚えててくれたのね、なら今日はとことん呑むわよ!」


椛「はは、私もとことん付き合おう!」














修「はい終わった。出来上がってる」


博麗神社境内に降り立った修一の目に映ったのは、一升瓶を片手に、恐らくミスティアが仕上げたであろう串焼きを二、三本握りしめた香奈の姿だった。

そしてその横には見慣れない人物がいた。背は高いわけではないが、その異様に長い角が、只者でない事を物語っている。

それと、瓢箪のようなものを持っていて、それを香奈の口に押し込んだり、自分の口に押し込んだりとしているあたり、あれには酒が入っているのだろう。


妹「……香奈ちゃんさ、平気であの酒飲んでたな」


修「あ、やっぱあれって酒?」


妹「ああ。鬼が酔うような酒だ」


修「へぇ……ん?」


妹「もう一度言おう。『鬼が』酔うような酒だ」


修「はい。終わった。妹紅、万一の時は守ってくれない?」


妹「生憎、私はそれを肴にするつもりだから無理だ」


修「嗚呼」


妹「そう気を落とすな。せっかくの宴会なんだから、楽しまないと」


修「もう楽しくないよ?香奈は出来上がってるし、妹紅は助けてくれないらしいし」


妹「男が乙女に守ってくれーなんて台詞は、そもそもダメだと思うがな」


……その通りですね。


霊「二人とも、来てたなら声かけてよ」


若干疲れた顔をしながら二人の目の前に霊夢がやってきた。手に持っているのは八目鰻の串焼きだ。


霊「はい、二人の分」


修「おお、ありがとう」


妹「霊夢、助かるよ。にしても顔色が悪いと言うか……あんた疲れてないか?」


霊「ええ……宴会が始まる前からあの二人の相手をしてたら、なんか疲れちゃって。だってずっと呑んで喋って笑って……うるさいのなんの。宴会の準備が終わって、さあ夜に向けて仮眠をとろうとしたらこれよ。正直寝酒だけ飲んで寝たいもの」


なるほどねぇ……さっきからため息ばっかりつくあたり、あの二人と酒で付き合うのは相当な覚悟がいるだろうな……