〈あらすじ〉
香奈の解毒に成功。




















香奈の禁酒解禁から早いもので一週間が経った。あれから毎日飲んでいる。今でこそいつものペースに戻ってくれたが、初日と二日目は酷く、宴会か何かしてるのかと思えるほど飲んでいた。正直人の胃に収まる量じゃない。人じゃないけど。

妹「なぁ修一、本当にお金大丈夫か?」

修「……大丈夫だと思うか?」

妹「だよな……」

香奈は今、博麗神社にいる。今日は珍しく別行動だ。というのも、宴会の準備があるから手伝って欲しいとの事で呼ばれたのだ。

妹「にしても香奈ちゃんが一人で行くなんて、何か訳あり?」

修「うん、どうも今日は萃香って鬼が来るらしいんだ。前に妹紅と呑み勝負をした時にはいなかったらしいから、今日こそはって、張り切って準備してるよ。」

妹「……待ってよ。萃香に会うから、博麗神社で宴会の準備を手伝いに行ったのか?」

修「そういうこと。別に手伝わなくても会えるだろうに……香奈なりにテンションが上がって、動かないと気が済まなくなったんでしょ。」

妹「そういうもんか……」

はぁ……と、二人同時にため息を吐く。

妹「なぁ、近々蓬莱人だけの集会を開きたいと思ってるんだけど、来なよ。」

唐突な内容で一瞬頭が追いつかなかった。

修「蓬莱人だけっていうと、妹紅と輝夜と俺と……永琳さん、だっけ?」

妹「そうそう。私たちって何があっても死なないわけでしょ。数百年、数万年、数千万年ならともかく、数億年、十数億年となると、もうこの地に居られないどころか、地球が消えてるわけじゃない。慧音から聞いたから、詳しい事まではわからないけど。だから、その時までに、せめて楽しい時間を過ごそうって意味で、集まりたいんだ。」

修「へぇ……今まで殺し合いだなんだって言ってたけど、随分丸くなったもんだな。」

妹「え、何言ってんの。それは辞めないよ。」

辞めねえのかよ。

妹「私が言いたいのは、蓬莱人同士の繋がりを太くしたいって事。輝夜をどうこうするのは、もう今となっては無意味だし、お前もお前で、私にとっちゃ大切な存在だし。」

修「おおおお、お、俺が?大切?」

妹「念を押す。別に愛してるなんて言ってないぞ。」

修「いやいやわかる。この前も似たような会話しただろ……俺がびっくりしたのは、大切に思われてるってことだよ。」

妹「そりゃ私と同じ蓬莱人だから。この幻想郷の現役が全員入れ替わっていても、私たちだけは何も変わらず常に一緒だ。大切に思って何が悪い。」

修「うーん……とにかく、妹紅達ももちろんそうだけど、今出会った一人一人、その全員とのつながりは大切にしてる。でもまぁ……取り残されるっていう事実は、認めないとな……」

妹「そうそう。だから、今のうちからでも私達の繋がりを大切にしたいわけ。その会合も、永遠亭で開かせてもらいたいと思ってる。」

話し方やその言い回しから察するに、まだ行動には至っていないようだが、そうしたい気持ちがあるのは間違いないようだ。




















その頃、博麗神社では

霊「香奈ちゃん、一旦休憩しましょ。さっきから休んでないでしょ?」

香「いえいえ、これも今夜の宴会の為ですから!なんていったって、あの萃香さんに会えるんです、頑張らない理由なんてないですよ!」

香奈は、境内の掃除から舞台の設置、用意する食事や酒類の管理、およびその調達、あれこれある作業の全てを手伝うと言い、今に至るのだが、食料調達以外の全てを一人で捌ききる勢いであった。

霊「はぁ……してくれるのはありがたいけど、私が休憩しにくいのよ。目の前で動いてるのに、私だけ休むっていうのも居心地悪いっていうか……」

香「なるほど……それは確かに……」

霊「食事と酒は私に任せていいから、あんたはもう休みなさい。」

香「ええええ、それは私が居心地悪く──」

霊「本来私の仕事なんだから、遠慮しなくていいのよ。それに、あんた今の時点で体力消耗してたら、せっかくの萃香との飲み会もまともにできないんじゃなくって?」

香「ぐ……言われてみれば……」

ど正論でぶち抜かれた香奈は少し考え、霊夢の言う通り休む事にした。

香「お言葉に甘えます〜。」

霊「それでいいわ。でもお酒はまだ飲んじゃダメだから。お茶と煎餅は出してあげるから、外の景色でも眺めてなさい。」

言われるがまま縁側へと向かい、その場に腰を下ろす。出してもらったお茶と煎餅を嗜みつつ、そこから見える山の景色を眺めていた。

香「……綺麗だなぁ。」

そういえば、修一さんと別行動って、なかなか珍しい事だよね……なんだか、途端に寂しくなっちゃうな。私って意外と、一人が苦手なのかも。

香「ふぁ……いい天気……」

ぽかぽかと照り続けるお天道様に暖められ、次第次第に瞼が重くなっていく。宴会の時間まではまだある、仮眠でも取ろうと考えるのは、自然な流れだった。




















妹紅と話すこともなくなり、ただ刻々と時間が過ぎていた時、不意に誰かに呼ばれた気がした。

修「ん、誰か呼んだ?」

妹「この声……確か……」

場所……というか方向がわからない。そもそも呼ばれたとはいえ、分かったのは正直声色だけな程、その声は小さく、微かなものだった。

修「……気のせいだよな?あいつじゃないよな?」

妖「仮にそうだとしたら、無礼極まりないですよ、修一さん。」

修「すみません、無礼を働きました。」

どこから来たのかは見当もつかないが、どうやら先程の声の主は妖夢だったらしい。慣れない場所での声だったからか、まるでわからなかった。

妖「はぁ……琴音ちゃん、いたよ。」

琴「お忙しい中、付き合っていただいて本当にありがとうございます。お兄ちゃん、お久しぶり。」

修「あ、ああ!琴音ちゃんもいたの!!?」

妖夢の影に隠れていて気づかなかった……

妹「お兄ちゃんって、お前妹いたの?」

修「いや似ても似つかないって次元じゃないだろ。前にいろいろあってな。」

妹「ふーん、こんな幼い子をねぇ。色男め。」

お前は何を言っているんだ。という言葉はぐっと堪える。しかし一体なぜこんなところに来たのだろうか。

修「ところで二人は何しに?」

妖「琴音ちゃんがどうしても会いたいと以前から言っていたもので。あと、今夜は博麗神社で宴会が開かれるそうですからね。」

琴「私はまだ呑めませんけど、妖夢さんが宴会に参加されると聞いて、どうせ地上に降りるのなら、挨拶をしたいと思いまして。」

……なんか、琴音ちゃんの口調変わった?妖夢に感化されたのかね。

修「そっか。どう?元気にしてた?」

琴「おかげさまで、風邪ひとつなく今日まで過ごしてきました。」

修「健康が一番だな、てことは修行も順調なのかな?」

その声をかけた途端、琴音ちゃんから覇気が消え失せ、同時に妖夢の覇気も霧散したように感じられなくなった。何があったんだ、白玉楼……

琴「仕事の合間の修行、それは理解していました。いや、していたつもり……と言った方が正しいですね。ご主人の食欲ときたら、もう、修行の暇なんて全くないんですよ……」

妖「おかげで彼女に教えられた事も少なく……剣士としての心、精神……それらを叩き込むつもりでしたが、結局一番身についたであろうものは……」

琴「皿洗いと炊飯、あとは煮物の作り方です……」

妖「ごめんね、琴音ちゃん……」

琴「二人がかりでアレなので、もう、仕方ないですよ……」

修「……苦労してるんだな。」

二人のため息は、竹林の風が優しくかき消してくれた。


















霊「さて……そろそろ来るんじゃない?」

香「おお〜……楽しみです!萃香さん、いつ来てくれるかなぁ……」

空が燃えるように赤くなった頃、一つの影が境内に現れた。

霊「お、来たわよ。」

香「え、え!萃香さんですか!?」

萃「なんだ、騒がしいねぇ、宴はまだ始まってないんだぞ?」

その姿は、ここでは見慣れない、明らかに異様なものであった。

自分よりも遥かに小さな背丈、それに見合わない大きな二本の角、腰に下がっている三つの塊、そして片手には瓢箪……

香「……なんか想像よりかなり違うんですけど。」

霊「あんたの想像なんて知らないわよ。」

萃「さて……霊夢、この子が例の?」

霊「そ、前にも話したけど、暁修一の式神、蜜坂香奈。この子もよく呑むから、あんたと話は合うんじゃない?」

境内から、気がついたら縁側までやってきていた萃香は、ゆっくりとそこに腰を下ろした。

萃「へぇ、直に見るのは初めてだ。私は伊吹萃香。よろしくね。」

香「えへへ、蜜坂香奈です。よろしくお願いします!」













〈あとがき〉
お久しぶりです、葵です。
気がつけば最終の更新から1年が経過しておりました。申し訳ありません。やむを得ない事情という物なのですが、なかなか手をつけることが出来ませんでした。
下書きを保存しておき、話を思いついたら書いていく……その様なスタイルで今までしておりましたが、どうもこうも、思いつくどころか、考える暇すらありませんでした。
兎に角です。今回は、香奈ちゃんがとうとう萃香ちゃんに出会った回でした。今後どれだけお酒飲ませたら済むのでしょうかね、修一くん、がんばれ。
では、次回もお楽しみに。