〈あらすじ〉
不死身の身体に無茶なんてない









修一はスペルカードを宣言した後、ゆっくりとヤツの方に歩き出す。一方久木は飛んでくる七属性の魔法弾を軽々しく避けていく。

久「なんだ、その程度ーー」

久木の言葉を遮り、修一はすかさずポケットから札を取り出して宣言する。

修「春宵『桜吹雪 -暁-』」

修一は一歩、また一歩と近づきながら手を振る。そこから風が吹き出し、その風に乗りながら桜吹雪が舞い散り、七属性の弾幕と共にヤツに襲いかかる。

久「なるほど……数で勝負って訳ーー」

修「夏至『昼下がりの夕立』」

久「……聞く耳もないか」

修一は立て続けに夏至を宣言。さらにその後、「秋季『弾幕の秋』」、「冬至『シャープアイスストーム』」を宣言。合計五枚のスペルカードを同時に展開した。さすがの久木も焦っているのか、さっきまでの余裕は少し消えている。しかし、完全に無い訳ではない。

久「まだまだだ、たとえ不老不死だとしても、お前は俺に勝てない。寿命で先に死んじまう」

修「風符『ムービングファスト』」

さらに修一は六枚目のスペルカードを宣言。能力によるカバーで制御できているが、これ以上能力を使用すると、頭痛の他にも症状が現れるだろう。

久「っ……さっきより速く……?」

さすがに焦ったのか、すかさず退く。しかし弾幕はそう簡単に逃してはくれなかった。移動した方向に向かって弾が飛んでいく。

久「チッ……こざかしい!」

修「お前の行動パターンは全て見切っている……指一本一本の動きもだ」

修一はヤツの動きを全て見切った上で弾幕を展開している。それでも当たらない……いや、ギリギリ掠めるように通過する軌道はあるが、直撃する軌道が今のところ存在しない。つまり、絶対に当たらない。

そろそろ修一の能力も限界がきている。しかし、修一は能力の自動解除……安全装置のようなものを無視、能力の継続を無理やり行う。ついに体にも異常が現れ始める。頭痛はもちろん、心拍数の上昇、全身の筋肉の痙攣、発熱……今まで味わったことのない苦しみに悶えるが、一向に能力は解除しない。その異常は周りの人間にも理解できた。

霊「修一!バカ!無茶しすぎよ!!」

修「今!!!こいつは今!!!ここで!!!倒さなきゃならねぇんだ!!!無茶しねぇでどうする!!!!!」

体から蒸気を発し、熱気の塊のような息を吐きながら、霊夢に向かって吐くように叫ぶ。

妹「死なない体の使い方、よくわかってきたじゃないか……」

霊「だ、だからって……!」

妹「……止めるぐらいなら、応戦したほうがいいんじゃないか」

妹紅は静かに言いながら背中に翼を広げ、二人に近づいていく。

霊「香奈……あんたの酒はちゃんと置いておくからね……!」

苛立ちと哀悼の混同した感情を、今はいない香奈にぶつけると、札を取り出して、二人のところへ走って向かう。

妹「1000年以上生きてきたが、目の前で人を殺されて平然としていられるほど、私は非情じゃないんでね……意趣は晴らさせてもらうよ」









刀「うっ……?」

ふと、地響きのようなもので目を覚ます。全身が鉄のように重く、思うように動かない。響くような痛みを感じながら空を見上げると、陽はとっくに沈んでいた。それにしても、こんな綺麗な星空を見るのはいつぶりだろうか……

刀「……蓮」

霊「あんた!起きたなら手伝いなさい!!」

刀「え……」

突然巫女に怒鳴られ、困惑する。なぜ怒鳴られるのだろう。ふと視線を下ろすと、そこには、修一と妹紅という不老不死の人間が、久木と戦っている姿があった。弾幕の経験が薄い自分でも、あれほどの弾幕が異常なことは見ただけで理解できる。

さらに視線を下ろすと、その近くに何者かの死体が転がっていた。それを見た刀夜は深く絶望した。同時に誰が殺したのかを理解した。この中であの人を殺せる人間はただ一人……アイツしかいない。そう悟った刀夜の目は、500年前と同じ目で、久木を睨んでいた。

刀「……久木……貴様あああッッ!!!」

久「やっと起きたか」

その場で鉄のような体を無理やり起こし、久木のもとへ走って行く。

刀「どこまでも……どこまでも非情な奴だ……!!!!!!!」

久「そっちのほうが気楽でいい。人間臭いよりかはな」

久木の言葉の一つ一つが、刀夜を苛立たせる。

刀「この屑野郎が……!!!」

久「懐かしいねぇその台詞……たしかあいつらを殺した時も同じことを……」

修「あいつら……?」

その時、修一の六枚のスペルカードが同時に効力を失う。

久「終わりだ……!」

弾幕でチラチラと姿を見せていた修一が、弾幕が消えたことではっきりとその像を見せる。久木はそれを狙い、一気に間合いを詰め、懐に潜り込む。

修「そうくると思った……足元はよく見ようぜ」

久「何……?」

バックステップで久木との距離をとると同時に、久木の足元にある魔法陣に手をかざす。刀夜の動きを一瞬だけ封じたあの魔法陣だ。キリキリと、確実に久木の足元を凍らせ、動きを封じる。

久「小癪な真似を……!」

刀「油断大敵ッ!!!」

久「しつけぇんだよ!!!」

久木が持っている刀で刀夜の右腕を斬りつける。

刀「バカが、右腕はさっき斬り落としたことを忘れたか!」

久「囮か!?」

刀夜は左手に握った右腕を捨て、そのままヤツの顔をめがけて飛び膝蹴りを食らわす。久木にまともに攻撃が入ったのは、これが初めてだ。

久「クソ生意気な……」

顔面にある膝を、片手でガッチリと捕まえ、上に放り投げる。

刀「しまっ……」

久「小僧がッ!!!」

下半身が動かないにも関わらず、凄まじい速さで斬りつける。

妹「まずは腕からだ」

その瞬間に久木の腕が燃え盛る。握っていた刀は熱で溶け、地に流れ、草を燃やす。

久「ガァァアアッ!?」

さすがの久木も、腕が燃え盛る痛みには耐えられないようで、悶えている。斬撃を免れた刀夜は、鼻を突くような肉の焼ける臭いと、近づくだけで引火しそうな程の熱気に、思わず退く。

妹「骨の髄から焼かれる気分はどうだ。刀夜がいたから全力とはいかなかったが、痛みを感じる前に消すんじゃ意味がないからな」

あまりの熱気に、地面の水分が完全に吹き飛び、地面が割れる。その時に魔法陣も割れてしまい、形成されていた氷も消えてしまうが、久木は動かずただ焼ける腕を抱えて地面にうずくまる。

妹「立て……修一と刀夜の番もあるんだからな、へたばるんじゃねえ」








〈あとがき〉
長くなりました、というより終わりどころが見つかりませんでした。その割に内容が薄いので、こういう点も含めまだまだ未熟だなと痛感いたします。
さて、今回は修一達の反撃でした。越えてはならない線を越えてしまったのですから、さすがに黙ってはいられません。
次回もお楽しみに。

追記
5/7、スペルカード「春宵『桜吹雪 -暁-』」の内容が「春符『散りゆく桜』」となっていたミスを訂正。