テレビを付け、天気予報を見ると、一部の地域は35度を超えるという猛暑。外をちょっと出歩いただけで汗が噴き出す。追い討ちをかけるように、アスファルトから発生した熱で、より暑さを増す。しかし、一度コンビニやスーパー、家やオフィスなどに入った途端世界が一変、熱を帯びた体が一気に冷やされる。この瞬間がたまらなく快感である。

家に帰ると、そば、そうめん、アイスやスイカ……暑い日に食べると、より美味しさを増すこの食べ物は、この時期の為にあるのだと、この時改めて実感する。今となっては年中食べられるこの食べ物だが、昔の人々からすると、アイスはもちろん、スイカまでもが夏にしか食べることができない。そんな風習が今でも残っているから、人々は夏にスイカを食べるのだろう。旬というのもあるだろうが……

そう、夏がやってきた。蝉は日が昇っている間、休まず鳴き続け、太陽は沈むまで、その熱を浴びせてくる。雲は高く登って入道雲となり、雨や雷……夕立を起こす。

そんな夏が、幻想郷にもやってきた……









修「んー、朝か……」

香「む……朝ですか……」

蝉の声によって目を覚ます修一は、目をこすりながら布団を脱出、寝ぼけている香奈の横を通り、そのまま庭に出る。そのまま修一は、魔法で水を作り出し、球体に形状を維持する。そしてそこから手で水をすくい、顔を洗う。洗った水は消え、球体にまた新しい水が加えられる。この一連は彼にとって毎朝の日課だ。

香「んー……修一さん、私にもまたお願いします」

修「わかった」

寝ぼけながら立ち上がる香奈は、そのまま庭に向かい、修一の作り出した球体から水をすくい、顔を洗い始める。

修「それにしても、幻想郷の夏の朝ってのは……涼しいもんだな」

そう、幻想郷に来てから思っていたんだが……ここの夏は異様に涼しい……空気が美味しいのもあるが、夏って本来、こんなに涼しいものなのか?

香「ぷはぁっ……アスファルトがない……というのが、一番大きい要因だと思いますね、他にはクーラーの室外機から発生する熱とか……あと何かあるかな……」

修「排気ガス……とかかな、車の」

考えてみれば、ここが涼しいというより、『外の世界』が暑すぎるだけかもしれない。となると、同じような環境の田舎とかだと、こんな感じなのかもしれないな……都会、恐るべし。

香「とはいえ夏は夏です。修一さん、またかき氷、お願いしますッ」

修「そんなキラキラした目で見なくても……」









修「すいません、砂糖ください」

店「はいよ!」

こういうところじゃ、砂糖は高価な代物だ。無理もない、ここは外の世界と違って、大量生産の技術がない。自分の能力を使えば、蜜を生み出すことは容易い。しかしそれでは面白みがなくなる。氷に関しては作らなきゃどうしようもないが……

魔「ん?修一じゃねえか、何してんだ?」

修「お、魔理沙か。今はアレだ、かき氷にかける蜜の材料を買いにきてる」

といっても、砂糖水しか作るつもりはないんだが……それだけで十分味わえるだろう。うん、きっとそうだ。

魔「おっ!かき氷か!」

かき氷というワードに目を輝かせる魔理沙は、乙女だった。こういう時は乙女なんだよな……

と思っていると、目の輝きが変わる

魔「修一、お前今……こういう時は女子だな……とか考えただろ」

修「いえ全く」

やるだけ無駄かもしれないが、とりあえず拒否をしてみる。

魔「ぜってぇ嘘だ!!!罰として俺にかき氷食わせろ!!!」

無駄でした。

修「食べたいだけだろ!?」

魔「当たり前だこの野郎!!!」

と言った魔理沙は、そのまま箒を修一の腹に直撃させる

修「ぐほぉっ!!」

店「兄ちゃん……お大事な」

香「あ、砂糖もらいます!」









香・魔・夜・紗「かき氷ッ!かき氷ッ!」

修「香奈と魔理沙はわかる。夜籟と紗恵はなぜいるんだ……」

買ってきた砂糖で蜜を作りながらそう問いかける。

夜「かき氷をするって、魔理沙から聞いてね」

紗「朝は涼しくても、昼からは暑くなってくるからね。どうせ何もしないし、ご馳走になりに来たって訳さ」

なるほど……まぁ、かき氷ってワードにはそれだけの魔力があるということだろう。
いくら食べてもらってもいいが、砂糖水が最後までもってくれるかどうか……最悪代用があるだろうから、なんとかなると信じるしかないか。

夜「ところで修一よ、かき氷をするにあたって、かき氷機が見当たらないんだが……」

修「いらないよそんなの」

そう言った修一は、四人の目の前に置かれていた器の中に、空気中の水分を凍らせて作った、いわば『雪』と同じような氷の結晶を作り出し、器に盛る。

魔「あ、なるほど……」

香「ふわふわ……」

夜「なるほど……どおりでいらないわけだ……削らずにフワッフワの氷を作れちまうんだからな……」

修「氷を削るのは、まぁ無理なこともないんだけど……効率的にはこっちの方が圧倒的に楽だからさ」

氷の魔法をこのように使うようになった流れとしては、魔法の研究の時にこの使い方を閃いた。本当にそれだけ。単純すぎるが、本当にそれだけだ。

修「よし、蜜もできたし……食べようか」

お椀に移した蜜を四人の元に運び、それぞれの氷に蜜をかけていく。

香「美味しそう……」

魔「おぉ美味そう」

夜「やっぱかき氷はこうでないとな」

紗「早く食べたいわ……」

蜜のかかったかき氷は、より美味しそうに見える。外の世界なら、青とか赤、黄色と色がつけられるのだが、今は透明の、砂糖水でできた蜜しか作れない。それでもこれだけ美味しそうに見えるのだから不思議だ。

香「おおお美味しい!!」

魔「うっ……頭がキーンと……」

夜「ああああ歯にしみる……!!!」

紗「砂糖水でも結構美味しいのね……あと雪ってだけあって、普通のかき氷と食感が全然違うわ」

まともに食えたのは2人だけか……あとの二人はがっつきすぎて悲鳴を上げている。かき氷の落とし穴だな。

香・紗「修一(さん)、お代わり!!!」

修「はいはいっと」

二人の差し出す器に、氷を入れる。入れるという言い方も違う気がするが……

修「蜜はセルフサービスで頼む。俺も食べよっと」









修「予想以上に美味かったな……」

自分の想像以上にこのかき氷は美味しかった。宇治金時食べたいなぁ……

魔「いやぁ修一、ご馳走になったぜ。ありがとな!」

夜「同じく、ごちそうさまでした」

紗「ごちそうさまでした」

修「はーい」

律儀にごちそうさまとか、礼とかしてくれるあたり、なんだかんだで根はいい人達なんだよな。

魔「んと……じゃあ、そろそろ帰るぜ!」

もうそんな時間なのか?と思い外を見ると、橙色に染まった美しい空が、広がっていた。今日は夕日がとても綺麗だ。

魔「邪魔したぜ!」

修「おう!」

そういうと魔理沙は庭に置いてあった箒にまたがって飛び立ち、そのままどこか遠くへと飛んで行った。

夜「じゃあ俺も。お邪魔しました」

紗「私も帰るわね、お邪魔しました」

すると夜籟と紗恵が、それに続くように庭へと足を運び、そのまま飛び立った。玄関ってなんの為にあるんだっけ……

などと思っていると、蝉の声が聴こえてくる。さっきまで全く聴こえなかったのに……あ、そうか。あの3人がいたから、賑やかすぎたから聴こえなかったのだろうか。

修「さて、晩御飯の支度でもするか!」

香「はい!」









修「よっ、今日の晩御飯は、唐揚げに味噌汁、そして夏野菜の寄せ集めサラダだ」

すっかり日も落ちた頃、修一達の晩御飯が完成する。

唐揚げは、砂糖を買ったついでに買った鳥の胸肉を使い、味噌汁は味噌と出汁とワカメだけで作った簡単レシピ、夏野菜のサラダもついでに買った野菜達、トマト・キュウリ・トウモロコシを水で洗い、適当に切って皿に入れただけ。男らしいといえば男らしい料理になっている。

香「この暑い時期に味噌汁ですか……」

修「暑い時期だからこそだ。体冷やしすぎてお腹壊されたら困るからな。しかも今日はあんなにかき氷を食べたんだ。なんだかんだ言って一番食べてたの香奈だし」

香「うっ……正論ぶち込んできましたね……」

修一の言葉に怯む香奈。かき氷のがっつき様はすごかった……歯にしみないのか、頭もキーンとならないのか……かき込むように食べていた姿は、今でも印象に残っている。

修「あんまり体は冷やしすぎない様にな、じゃ、いただきます」

香「はーい、いただきます!」

まず初めにサラダに手を出す。レタスやキャベツがないのが辛いところだが、案外これだけでも美味しく食べられるものだ。

しかしここの野菜は本当に美味しい。ここに来てから野菜がより好きになったほどだ。遺伝子組み換え作物だとか化学肥料だとか、外の世界では便利さを求めすぎた、昔ながらの方法で栽培している野菜でなければ、この味は引き出せないだろう。

修「うん、美味い!」

香「唐揚げもサクサクですよ!」









修「なんていうか、今日は充実したなぁ」

香「魔法の研究も、思わぬところで役に立ったりしますね」

修「そうだな」

思えば、氷の魔法を試していなかったら、かき氷はできていなかっただろう。次は何の魔法を研究しようか……雷とか、光、闇とかかな。光、闇に関しては本当謎すぎる。火や水、風氷雷は想像がつく。光闇って……全然わからない、よし、明日の研究は決定だな。

修「火と光の組み合わせで、花火とかできそうだな……香奈もそう思……わ……」

ふと横を見ると、隣の布団ではすでに寝入った香奈の姿があった。今日は一段とはしゃいでいたからな、疲れていたんだろう。無理もない。

修(……寝るか)

明日は研究漬けかな……









そして次の日、研究したのはいいが、何がなんなのか結局わからず、その日はまた、かき氷を食べたりして過ごした修一達だった。








〈あとがき〉
長らく間を空けての更新です。お久しぶりです。
さて今回は閑話という形になりました。
というのもストーリーの方で、話の進展をどうするか考えていたらこんなに時間が過ぎていて、こいつはまずいということで急遽特別編を作ったという流れです。閑話とか特別編とかは、ストーリーを気にする必要はありませんからね、いや、便利です(おい)

この夏はスイカとかかき氷とか食べたくなりますね。先日、ホームセンターの近くにあるかき氷屋のかき氷をいただいたのですが、本当口の中でスッと溶けて感動しました。余談ですが、みぞれ美味しいですね。来年の夏からのメインはみぞれですね。他にもスイカとか食べたのですが、流石は夏ですね、腐るのが早いです。スイカはなぜかベタベタになっていて、スイカの食感はするっちゃするんですが……謎の酸味がしたりと、不味かったです。
三切ほど食べて初めて異変に気付いた私も私ですがね……

さて、今回はこの辺で。
次回は本編更新できたらと思っています!

次回もお楽しみに。