「今この時を楽しんどけ。」

「ッ…」

畜生…こうなれば、スペカで対抗する他ない。今役立ちそうなスペルカード…風符、水符、光符、闇符、火符…そうだ、風符なら‼

「風符『ムービングファスト』‼」

スペルカードを宣言し、弾幕を放つ。が、修一の動きは変わらない。

「そのスペルカードはもう見抜いている。お前の動けるスピードに制限を掛ければ、それまでなんじゃないか?」

チッ‼奴はそこまでできるのか‼反則にも程があるぞ‼

能力を使うという方法もあるが、使ったその瞬間、修一は蓬莱人でなくなる。つまり、今よりも容易に死んでしまうという事だ。

「くっそ!!!」

一発一発の弾の隙間を、人一人がギリギリ通れるような、とても除けにくい弾幕を放つ。

だが、冷斗は踊るようにしてそれをよける。

「そんな弾幕で、俺を倒せると思うな。」

そんな…これ以上除けづらい弾幕は、今の実力ではまず無理だ!!!

「次はこっちの番だ。制限『ナローオペレーティングレンジ』」

「スペルカードッ⁉」

奴は、スペルカードまでも使えるようになったのか‼

前方から、青や赤の弾丸の様な形の弾が飛んでくる。

その一つ一つをかわしていく。弾のスピードは速いわけでもなく、除けにくいという事で悩まされる事はなかった。

ふと、肩に何かが当たった。修一は横目で肩の辺りを見るが、何もない。再び、肩に何かが当たる。しかし、何もない。今度は当たる瞬間を目で見ていた。たしかに、何にもぶつかっていないはず。

「うわッ‼」

奇妙な出来事に意識をしてしまい、目の前に迫り来る弾に気がつかなかった。間一髪で気づき、よける事ができたのだが。

先ほど肩に何かが当たった所とは別の方に動きながら、弾をよける。

再び、肩に何かが当たる。先ほどとは逆の肩だ。

よける事に余裕があると確認して、手で肩に触れる。

何もない。

もう一度肩を触ろうとすると、その指先は肩ではなく、何かに当たった。

しかし、触れた感覚だけで、実際には何もない。

「…まさか」

この周辺に…見えない壁があるとすると…

まて、奴は制限を掛ける能力を持っている…なら、見えない壁で動きに限りをつける事は造作もないと思えるが…

「嘘だろ…」

「気づいたか…だがもう遅い。」

まずいな…もしここで一気に弾幕を叩き込まれたら終わり…

「…嫌な予感…」

その予感は的中し、先ほどとは異なる弾幕を、大量に放ってくる。

「嘘だろッ‼」

狭い範囲で、大量の弾幕をよける。経験が薄い修一にとって、これほどまでに不利な事はなかった。

「クソッ‼」

修一も、よける事に精一杯になり、普通ならよけられそうにないような弾幕を、除けていた。しかし、そんな事も長くは持たない。いつかは限界が訪れる。今がまさにその時だった。

「ぐァッ‼」

弾は、普通なら軽く殴られたようなダメージから、出血するレベルまであるらしいのだが、これは桁違いに強く、弾が修一の体を貫いた。

一発でも当たると、隙が生まれる。その隙をついて、他の弾に当たる。そしてまた隙が生まれ、他の弾に当たる…その繰り返しだった。

「ぐッ…」

蓬莱人といえども、痛覚はある。流石にここまでされてしまうと、一度死ぬのは明確だった。

「ふん…案外弱かったな…」

その声を聞き、修一は地面に落ちる。

「く…」

もう、意識がなくなる…そう思った時、冷斗は不気味に微笑み、こう言った。

じゃぁな。と。

それが、最後の記憶だ。



























ふと、目が覚める。

修一は混乱した。状況を全く把握できない。

えーと、ここはどこだ?

修一がその時見た世界は、地面がえぐれ、建物なんて見えず、あちこちではなぎ倒された竹や木などが燃えているだけという、荒野だった。

「なんだこれ…」

昔の事を思い出す。

確か冷斗と戦ったのを最後に…

冷斗?…そうだ、あいつだ‼あいつがこんな事を…‼

「くそったれがッ‼俺があの時…倒せていれば…くッそッ‼」

自分があの時倒せなかった事に、苛立つ。

「修一だけの所為じゃないわ…」

「…え?」

他人の声に、振り向く。

「久しぶりね、修一。」

そこには、あの胡散臭…スキマ妖怪がボロボロの状態で立っていた。

「修一の力で、冷斗たちの進行を止めるのが私の目的だったのだけれど…こうなればもう手遅れね…」

「紫…一体何がどうなってるんだ…?」

「そりゃそうよね…貴方封印されてたもの…わかるわけないわ。」

「…封印?」

確か、あの時冷斗は、能力とは別の方法で、魂を封印するとか、そんな事を言っていたような…そういう事か…

「一体、何年ぐらい封印されていたんだ?」

怒りを込めた目で問う。

「3日よ。」

「3日?冗談はよせって、この被害を3日で?しかも冷斗一人?まず無理だろ。」

年単位、最低でも月単位でないと、これほどの被害は起こらないだろう。

はぁ…とため息をつく紫。

「確かに、3日よ。」

疑わしい話だが、今は信じるしかなかった。

「そんな…そうだ、霊夢達は?」

「霊夢、魔理沙、アリスは今、妖怪の山辺り。美鈴、咲夜、レミリアは魔法の森辺り。私と妹紅、慧音はここ、迷いの竹林で手分けして冷斗達を潰しているわ。」

「そう…だったのか…」

とりあえず、みんなが無事なのなら、よかった…(紫がボロボロなのなら、彼女らもボロボロなのかもしれない…)

「とりあえず、今までの事を話してくれ。」

わかったわ、と相槌をうつ紫。

「3日前の私たちは、修一がいない事に気がつく。どうせ外に帰ったのだろうと思ったけど、そんな事はないだろうとすぐ思った。」

「なんで…」

「居場所がないから。あと、貴方の性格から。」

なるほどな…確かに、帰ったとしても、居場所がない。ただ、性格からというのは、どういう意味だ。まぁそれはおいておこう。

「それで、いろいろおかしいと思った私たちは、修一の事を探し始めた。でも、どこにもいない。修一は本当に帰ったのかと思った。」

「…」

「そんなある日、博麗神社に手紙が届いたの。その差出人は、冷斗だった。」

冷斗…

「まさか冷斗から届くとは思いもしなかったわ。その手紙の内容は、修一の魂を封印した。という事と、俺たち冷斗は、ここ、幻想郷を潰す…という事だった。」

「…」

紫は少し目線を下げる。

「…予告通り、冷斗が幻想郷を潰し始めた。」

「でも、一人でそんな事ができるとは思えないけど。」

紫は修一の言葉を遮るように、しゃべり始める。

「『1人』なら…ね。じゃあ、もしそれが『10人』だったら…どうなるかしら。」

「は?嘘だろ?」

嘘だと思いたかったが、よく考えるとさっき紫は、霊夢達が手分けして、冷斗『達』を潰していると言っていた気もするが…

「そりゃ、私も全力を尽くして、クソ共をぶっ潰してた。でも、全員を倒す事は、体力的にとても無理そうだった。今休めるなら休みたいぐらいよ。そこで私は、修一に頼る事にした…探すのに手間がかかったけど…こんなところに居たのね。」

「…で、俺の何を頼るんだ?」

「能力よ。」

一瞬、何を言ってるのかわからなかった。

「あなたが、時間を巻き戻す能力を創れば、前の幻想郷を取り戻せる…」

「なるほど、なら今すぐに…」

「でもその前に、虫けらを潰さないといけないわ。」

「なんで?」

「邪魔をしてくるはずだからよ。」

なるほど…

「もし冷斗が外の世界に出た時の事を考えると、外の被害も尋常じゃないでしょうし、この幻想郷の存在に勘付かれてしまう可能性も0ではないでしょうから、今この幻想郷と外を遮るのは、常識と非常識の境界でできた壁ではなく、死なないと越えられないような壁にしたわ。」

「なんかよくわかんないけど、とりあえず冷斗は外に出ないと…」

えぇ、と頷く紫。

「とりあえず私達は、今までに6ぐらいは潰したから、あとの4を潰さないといけないわね。」

「わかった。」

4と聞いて、少し安心した。もし後7人程いたとすると、どうにもならなかったと思う。問題は、冷斗を倒しきるまで、かなり長期戦になるかもしれないということだ。

「そうだ修一。」

「なんだ?」

「村のあたりには行かない方がいいわ。」

「村?なんで。」

「あなたがこの件の元凶だと思わされてるからよ。冷斗によって。」

「え?村に人がいるのか?」

「まぁ、いるわ。冷斗はなぜか村人を襲わないのよ。襲うのは私たちのような妖怪などの、特別な存在。きっと、冷斗たちにとって幻想郷を潰すというのは、今の幻想郷のバランスを崩すということなのね…」

「なるほど…」

「とりあえず、冷斗を潰すわよ。今私たちのことをそこの影で見ているあいつを。」

「ッ‼」

紫の指差す方向を見るが、岩や木の他、何もない。

「冷斗、出てきなさい。」

紫が弾幕を岩や木にぶつけ、岩を粉砕し、木を根こそぎへし折る。

すると、そのがれきの中に紛れて、手が見えた。

「っぶねぇ…何するんすか?」

「冷斗…」

「あれ、修一?お前、封印されてんじゃなかった?」

紫が足を前に出し、威厳のある態度で冷斗に答える。

「魂を封印したのなら、魂の入れ物を消せばいいのよ。」

…どういうことだ…魂の…入れ物?

入れ物…内と外がある。

内と外がある…内と外を遮る壁。

内と外を遮る壁…壁を消せば入れ物がなくなる…つまり、封印が解ける…‼って事か?

「まじでやめてくれないっすか?結構めんどくさいんすよ。」

「なら結構。邪魔するだけよ。あんたらクズにこの幻想郷を潰せると思うな‼」

「どっちがクズだか。」

不敵な笑みを見せる冷斗に、紫は拳を硬く握っていた。

「…今からどっちがクズかを証明してやるわ‼」

紫が懐からスペルカードを取り出して構える。

獲物を狙うかのような紫の鋭い目つきは、睨まれた瞬間金縛りにあうような恐ろしさだった。

修一には、そんな紫の目から、少量の涙が見えた気がした。