「急がないと…そうだ、風符『ムービングファスト』‼‼」

実感は無いが、今の修一の飛ぶスピードは、音速とほぼ同じスピードだ。スペルカードの補助という事もあるのだが。というか、ほとんどそのおかげなのだが。

「急げ急げ‼マジでやべぇって‼」

音速を超えた事により、修一の周りに傘状の雲みたいなヤツができる。ソニックブームによる衝撃波もあるので、おそらく今の修一には誰も近づけない。

「あれだ‼」

空の上にある空間の歪みと、その周りにある結界を見つけた。

修一はさらに加速する。疲れなど気にしてる暇はない。

「ぃよしっ‼」

結界を越え、冥界にやって来た。あとはこの何千段もある階段を越えるだけだ。

「これはもう階段を登ってられないっての‼」

修一はとにかく焦ってた。

「流石にこれはすぐには着かないか!?」

外部から見る修一は音速を超えているが、本人はいつも通りのスピードという感覚なので、外から見たら数秒感覚で着くと思われる距離でも、本人そのものは、あと何分かで着く距離という感覚なのだ。

「急げ‼」

修一も全速力で飛ぶ。














「はぁ、やっと着いた…ったく、ここの階段はなんでこんなに長いんだよ…飛ぶ気力すら失せるぜ…」

はぁ…あいつも面倒な事を頼むもんだな…と、冷斗は白玉楼の門の前でため息をつく。

「ったくよ…さてと…」

門に手をかけた、まさにその時、

「…ん?何だ?」

後ろから何かが近づいてくる。

「なっ!?」

ドォォオオン‼と、途轍もない破壊音と同時に、衝撃波が冷斗を襲う。

「ぐあっ‼」

後ろから飛んで来た何かと冷斗は、その勢いで門を突破した。

…門は無残に壊れてしまったが。

「がはっ‼」

「よっと…やっぱし冷斗か‼よかった…間に合った…」

飛んで来た何かは、修一だった。

「ななな、何ですか!?今の音!?」

屋敷の後ろから来たのは、妖夢だった。

「あぁ、妖夢‼ごめん、邪魔してる。」

「なんで勝手に入るんですか‼しかも今回はなんか別の人もいますし…あぁッ‼門がッ‼斬りますよ!?」

「今はそれどころじゃないって‼前に話してた冷斗って奴、こいつの事なんだよ‼」

「え?」

妖夢は呆気に取られる。この人が…冷斗?といった感覚だった。

「チッ…お前のせいでバレちまったじゃねぇか…どうしてくれんだよッ‼」

冷斗が叫ぶと同時に、冷斗は宙に浮く。

「やっぱり飛べるのか…ならこっちも‼」

と、修一も宙に浮く。

「お前、なんで飛べるんだ?前まで飛べてなかっただろ。」

「はっ。俺も練習とか努力とか、そういった事をするのは初めてだったな。」

なるほど…と、修一は思う。

「それより、なんでここがわかった。」

冷斗がこちらを睨む。

「新しい能力だ。[自分の為になる情報を多々の方法で入手する程度の能力]だよ。」

「なるほど…小賢しい奴だな、ほんと。てか、名前長えよ…」

深いため息をついたあと、冷斗は拳を構える。

「俺の能力を知ってるか?」

「…たしか、自分の触れた相手を無気力にさせる程度の能力…だったよな。」

「ふん、それまで見抜くか、こいつは。」

「まぁ、自分で調べたって言っても、実感は無いけど。」

イマイチよくわかんない。と、修一はつぶやいた後、拳を構える。

「そんな事はいいんだよ…テメェを殺してやる…目障りなんだよ‼」

「弾幕勝負じゃないのか‼」

「うらァ‼」

冷斗は思ったより速いスピードでこちらに向かってくる。割と距離もあるが、これではすぐに距離を詰められる。

「ちょっ‼」

やべぇ‼と思ったその時、下から妖夢が上昇してきている事に気づく。

「修一さん‼」

「妖夢‼来るな‼」

それでも目の前にまで来た妖夢は、刀の柄に手を添える。

「妖夢、何してる!?」

「いいから、任せてください。」

今もなお、冷斗はこちらに近づいてくる。

「はぁッ‼」

妖夢が刀を抜いた。刀の刀身が見えたのはその一瞬だけだった。気がつくと刀は既に鞘の中に収められていた。

「えと…嘘だろ!?」

なんか冷斗をぶった斬ると思ったのに、何も起こってない‼からぶった‼と、修一は焦りを見せる。

冷斗と衝突すると確信した修一は、妖夢の腕を掴み、下に向かって軽く投げた。

「わっ‼」

「妖夢‼後は任せろ‼」

修一の目の前には、スピードを出してこちらに向かってくる冷斗の姿があった。

「くっ‼」

身構えをする修一。拳を握りしめ、歯をくいしばる。

「ぐッ‼」

ザシュッと鋭い音が鳴った。

「…え?」

それと同時に、修一は目を開ける。目の前には、左腕の肘から血を流している冷斗の姿があった。よくよく見ると、左腕の肘から先がなかった。

「チィッ‼これじゃ戦いにならねぇ…」

「な…なんで…まさか!?」

バッと下を見ると、そこにいるはずの妖夢がいない。

「え、ど、どこに…」

キョロキョロと周りを見渡すが、どこにもいない。

「人符『現世斬』‼」

えぇ!?と、再び冷斗の方へ目を向けると、そこに妖夢はいた。

「何ッ!?」

避けようとする冷斗だが、もう遅かった。

「はッ‼」

掛け声が聞こえたかと思うと、今度は右腕が肩から落ちた。

「ぐっ‼」

痛みを堪える冷斗。これで奴は能力が使えなくなるはずだ。

「妖夢‼ありがとう‼」

修一が妖夢に声をかけると、手に持っていた二本の刀が手からするりと落ち、地面に突き刺さる。

「…妖夢?」



「あー…なんでしょう…もう、やる気が…」

「妖夢‼どうした!」

急にだるくなったのか、地面に落ちる妖夢。まさか…と、冷斗の方を見る。

「俺が庭師に触れたんだよ。見てみろよ、やる気がなくなってるぜ。」

「…お前、腕がないのに、どうして能力が使える?」

「はは、お前、腕を使わないと能力は使えないと思っていたのか?残念。俺は相手に触れる…要は接触すればいいんだよ。」

接触する…と言う事は、腕以外でも、つまり足でも、胴体でも頭でも能力は効くということか‼と修一は理解した。

「…まさか、妖夢がお前の腕を斬ったと同時に…」

「そう。そのタイミングで俺は庭師に触れたんだよ。」

畜生…‼と、地面でごろ寝する妖夢を見る。親父くせぇぞ。

「…くそったれ…今すぐ切り刻んでやりてぇよ…」

その時、修一の髪の一部が赤に変わった。怒りの感情が大きくなったためだ。

「…妖夢、能力借りるぞ。」

《すべてを見抜く程度の能力》が覚醒した修一は、妖夢の《剣術を扱う程度の能力》を真似、創り出した。

「使えるまでだいたい5分か…それまで逃げ続けるか…戦うか…」

妖夢の事を考えると、戦うのが妥当だろう。

スッと地面に降り立ち、突き刺さった刀を抜く。思ったより重かったが、気にしてられない。

「妖夢、刀、借りるぞ。」

返事すらせずに空の一点のみを見ながらため息をつく妖夢。でもその姿勢は親父くせぇって。

…剣を扱うのは初めてだが、今は気にしていられない。

あいつが俺のどこかに触れた瞬間、それまでだ。とにかく、冷斗をぶった斬ればそれで終わる。と、自分で自分に言い聞かせた。

「…冷斗、覚悟しろ。」

二本の刀を持った修一は、その鋭い目で冷斗を睨みつけた。