「え?なにムキになってんの?無駄だよ。ムキになっても勝てる訳じゃないよ。特に、人一人助けられない人はね…」



冷斗はこの前、魔理沙を助けられなかったような事を言い、修一は我慢の限界を迎えた。



「あんまり調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」



「修一!よせ!」



魔理沙の忠告を無視し、物凄い勢いで冷斗に突っ込んで行く。



「このァ!!」



今の修一は、もはや怒りで動いていた。そして…



「なんだ…あれ…」



魔理沙があり得ないといった感じでつぶやく。今修一は、本気モードに入ったらしく、髪の色が、血のような赤に変化した。これは以前も同じような事を起こす事が出来たのだが、今回は、髪だけでなく、その周りの気迫までが見えるほどだった。それも赤に。本気状態に入ったことにより、すべてを見抜ける状況になった修一は、冷斗の能力を見抜いた。


「うらァァ!!」



修一は、魔法陣で強化したであろう炎を腕にまとい、冷斗に殴りかかる。さすがの冷斗も、この速さは想定外だったようだ。



「何ッ⁉」



ドスッと、みぞおちに拳がヒットする。勢いがついていた事もあり、拳が冷斗を貫いている。



が、



「…なかなかいい拳だな。だが、まだまだだなァ‼三下ァッ‼」



「なッ!」



ガツッと、顔面を殴られる。



「ぐッッ!!」



「修一ッ!!」



魔理沙が叫ぶ



ズザァァァッと、地面を転がる。



それを追いかける冷斗。修一は気づいていない。



修一がうつぶせの状態になった時、冷斗が拳を構える。



ドゴォッ!!



「がふッ!!」



冷斗の拳は、修一の背中を正確に捉えた。冷斗の拳は修一を貫き、地面に直撃している。また、その地面さえもひび割れを起こしている。



「ふっ」



冷斗が修一を貫いた状態で腕をあげる。



「ぐ…あぁァァァッ!!!!」



自分の重みでまたさらに肉が裂けていくのが分かる。普通の人間なら死んでいるが、不老不死は死ねない。逆をいえば、この苦しみは終わらないという事だ。



「ハハハハハッ‼…ザマァねぇなぁ‼」



冷斗が足をスゥッと修一に構える。



「おらァッ!!」



冷斗が叫んだ瞬間、思いきり修一を蹴り飛ばした。



飛んで行った先は、門の前だった。



ドォォォンと、門に直撃し、そのまま下に落ちた。



「ぐッ!!…ぐほァッ…」



門に叩きつけられた修一は、朦朧とする意識の中で、みぞおちの穴から流れる血を眺めていた。



「修一!だからよせと言ったんだ!」



門の前には魔理沙もいる。そんな修一を見た魔理沙はとっさに八卦炉を取り出す。



「…あいつ、よほどの命知らずだな…あの修一が相当頭にきてる。」



「…修一?」



魔理沙がつぶやいた後、修一のみぞおちの傷は瞬く間に、あり得ない早さで回復したかと思うと、背中には蒼い炎でできた、翼が生えていた。まるでフェニックスのような。そして、髪の色も、綺麗な蒼い色へと変化した。そして修一は、服装が変化した。今の修一は、ある人物に限りなく近い雰囲気を出していた。



「妹…紅…?」



魔理沙の言うとおり、服、髪の配色、髪の長さ、顔こそ違うが、修一の見た目は妹紅そのものだった。



「修一…どうしたんだ…」



修一が魔理沙の方へ振り向く。そして、



「修一?それは俺の主人の名前…俺の名前じゃない。」



「俺の主人の名前じゃないって…じゃぁ、修一はどうなったんだよ…ごめん、ちょっと考えさせくれないか…」



魔理沙は憂鬱な感情をこめて、言い放った。



「あぁ、大丈夫。修一は今、心の奥にいるだけ。消えたわけじゃない。ようは、二重人格のような感じと思って。」



「二重…人格…」



魔理沙が少し混乱する。



「今の俺の名前は…」



「名前は…」



「蒼海だ。」



「蒼…海…」



「修一が世話になってる。しかし…あの修一を怒らせる奴なんて、滅多にいないからな…今回は相当キレたんじゃないかな…」



口調的には、修一に近く感じられた。



「お、なんかパワーアップした?かっこよくなってるじゃん。ま、そんな変わるとは思えないけど…さっきより楽しめるといいな。勝負は僕の勝ちだけどね。」



冷斗がつぶやく。



はぁ…と、修一…いや、蒼海がため息をつく。



「いや、ご要望に答えられたらいいんだけど…残念ながらそうはいきそうにないかな。」



蒼海は妙に悔しがる素振りをみせる。



「あっそ。じゃ、いくぜッ!!」



人格が変わったかのように、殴りにかかってくる。



「…小賢しい。」



蒼海の目が鋭くなり、冷斗をキッと睨みつける。



「なっ…ッ!!」



冷斗の動きがスローモーションのようになる。まるで冷斗の周りの時間が遅く動いているような感じだった。




冷斗の拳は蒼海の顔数ミリのところで停止している。



「ちょっと落ち着けって。そんなに動かれると、お前を始末するのに手こずるからさ。」




蒼海は、そんな冷斗に腕をかざし、さらに冷斗を睨みつける。そして…



「ぐァァッ!!」



冷斗が蒼海の放った炎の塊を受け、派手にぶっ飛んでいく。



「…まだ修一は物足りなさそうだな。どんだけキレてんだよ修一は…」



今一度、手を冷斗にかざす。今度は、とても蒼い、蒼炎とでも言うような炎を手のひらに作り出す。



「…じゃぁな。冷斗。」



ドオォォッッ‼というような轟音を出した炎の塊は、冷斗に向かってまっすぐ飛んでいく。



「なっ…ッ!!」



それに気づいた冷斗だが、冷斗は飛ぶ事が出来ない。身動きがとれない。



「クソッ!!」



ドゴォァァァッ!!と、爆発音が響く。



「…蒸発したか。」



「蒸発って…」



魔理沙はツッコミをかけたくなるが、ここで突っ込んではいろいろ台無しだ。



「…ご要望には答えられなかったな。だって、俺が勝っちゃったんだから…」



なんとなくキメてみた蒼海。



「お前それ…かっこいいと思って言ってんのか?」



「え?そんな事ない?かっこいいと思うけど…」



「それは勘違いだ。」



流石の魔理沙もツッコミを抑えられなかった。



「でも…蒼海…強すぎだろ…」



魔理沙は、念のために準備しておいた八卦路をしまう。



「…こんなもんかな。ま、俺もそろそろかな…」



「え?」



魔理沙はその言葉の意味を理解できなかった。蒼海は魔理沙の方を向き、話しかける。



「そろそろ修一が出てくるって事だ。俺は戻る。魔理沙の知ってる修一になるって事だ。あ、ちなみに言っておくけど、俺と修一は、記憶を共用してるから、俺が戻っても今回の事は覚えているよ。」



「…」



ただただ黙り込むしかない魔理沙。そんな時、蒼海の髪は、蒼い髪から、元の黒い髪へと変化していった。服装も、背中の翼もなくなった。その直後、蒼海はゆっくりと、膝から崩れ落ち、前にドサッと倒れた。



「…蒼海…じゃなくて修一…大丈夫か?」



体を揺すりながら声をかける魔理沙。



「…う、」



指がピクッと動いた。どうやら修一は無事なようだ。



「え…あ、今のは…」



修一も、違和感はあったようだ。自分以外の何物かが、この体の中にいる。二重人格のような…といった感覚なのだろう。



「蒼海…もう一人の…俺?」



自分の中にもう一人の自分がいるという事は、正直気持ち悪かった。



「…まぁ、いいか。冷斗は倒したんだよ…な?」



自分が倒したのに、自分が倒していないということが、気持ち悪かった。




「え?ぁ、あぁ。多分だがな。」



戸惑いつつも、それに答える魔理沙。



「まぁ、そんな事より、そろそろ出よう。」



修一がそう言う。魔理沙も、お、おう。と言った感じでついて行く。限りなく長い階段を…