てててと、阿求が帰ってくる。



「お待たせしました。これが修一さんのお求めの歴史書…というか、妖怪図鑑などが記載されている、『幻想郷縁起』です。」



「あ、やっぱり名前はあるんだ。」



「あなたのお話によると…えー…この辺りだと。」



「えーと…なになに?」



そのページの右端には、何かイラストが添えてある。ってか、上手すぎじゃね?




そして、滑るかのような文字の線を見て思ったのは…



「ごめん、読めない…」



「…まぁそうでしょうね。所詮外の人間ですし、読める訳ないでしょう。では、私が読み上げます。」



…地味に毒を吐きやがった。と思う。



阿求がどんどん読み上げていく。読み終えたあと、自分の中で解釈をしてみた。



ある集落に、妖怪の血を引いた子供がいた。その子供は元気で活発な子供だった。しかし、14歳ほどになった頃、本性をあらわした。



月が綺麗なある夜に、その子供…この時点では妖怪のほうがしっくりくる。そして、その妖怪は一晩で集落を滅ぼした。その話を聞いた妖怪退治で名のある人間…暁 喜助という男がその妖怪と退治した。喜助は死闘の末に力尽き、妖怪は喜助によってその集落の真ん中に封印された。しかし、この封印は500年と持たない。




という内容。だが、父さんの言う話と少し矛盾する。



「えと、喜助さんはその妖怪を倒したんじゃないのか?」



「いえ、封印されています。さすがの名のある人間でも、この妖怪にはかなわなかったようですね。」



「ふぅん…」



まぁ、そのような事があったと言う事は理解できた。だが、それでは俺がその妖怪の血を引く事は出来ないはず。何せ封印されているのだから。じゃぁなぜ父さんは俺の気配を人間として捉えられないのか。…うーん、ますます謎だ。



「…ただ、少し問題がありまして…」



「え?」



「この妖怪の詳細はこれぐらいしか分かっていなくて、その他の事は記されていないんです…名前も、弱点も、倒す方法も、能力も…」



「…ふぅん。でも、封印されているのなら安心じゃないか?」



「それが大変なんですよ…この事件の起こった日からもう…499年ほど経ってるんです…多かれ少なかれ今年中に封印が破られるかもしれないんですよ…ですが、これを村の人に伝えたところでパニックに陥るだけ…あえて伝えていません。ただ、慧音さんには伝えてあります。あ、上白沢 慧音さんを知っていますか?」



「あぁ、塾の講師でしょ?」



「そうです。その人はこの村を守り続けていて、永夜異変のときには村を隠すほどの力を見せています。ただ、効かない妖怪も中にはいたようですが…」



「永夜異変?」



「はい。永夜異変です。この異変は妖怪にとって死活問題でしたからね、すごかったんですよ?」



「へ、へぇ~…あ、話がそれたな。で…封印が破られるかもしれないって…」



「その妖怪は500年近く封印されている訳ですから、封印を破ったとき、今までのストレスが爆発するでしょうし、そうなれば、今度は集落一つを滅ぼすどころじゃすまないかもしれません…」



「幻想郷の…危機?」



「…下手するとそうなります。」



「あの、紫さんなら勝てるんじゃ…」



「いや、分からないです。昔、紫さんを退治しようとした喜助さんと互角の戦いをしたんです。最終的には喜助さんは敗退しましたが…所詮人間ですし、どうして妖怪と戦うとか馬鹿みたいなこと考えたんでしょうね。」



おい毒舌王。それは少し言い過ぎだろ。



「…でも、今の話だったら…」



喜助≦紫<妖怪



「って事になるんじゃ…」



「そう…ですね。ですがこれは、人間をはじめ、鬼や妖怪、天狗などにも被害が及ぶ事ですので、戦力としては、妖怪一人対幻想郷ほぼ全員(非戦闘員である私と人間を除く)となりますので…勝算がゼロという訳ではありません。」



そうか…でも、俺一人だけ逃げるのは、負け犬みたいでプライドが許さない。それに、幻想郷潰れたら俺の行き場がなくなる。こんな夜中に言うことじゃないけど。



「…よし。」



「どうしたんですか?」



「…俺も無力ながらお手伝いさせてもらうよ。」



「え、でもそんな、あなたは外の人間…相手はとても強力な妖怪。もし大怪我でも…いや、死んでしまっては…」



「いや大丈夫、俺の能力なら、いける。」



「…どんな能力なんですか?」



「『他人の能力を真似る程度の能力』と『すべてを見抜く程度の能力』。ちなみに前者の能力で真似る事ができるのは、霊夢、紫、小傘、チルノ、妹紅の能力だ。」



「変な能力ですね…でも、そんな無理していただかなくても…」



「戦力は一つでも多いほうがいいだろ?」



「そこまで言うなら…でも、怪我だけはしないでくださいね?まぁ、しない訳ないでしょうけど。」



「だ、大丈夫、任せて。」



「…ですが 能力の数がたったそれだけというのは…役に立ちますか?」



「そうだな…まぁ手に入れたい能力は紅魔館のメイド長の能力ぐらいだけど…」



「頼んできてはどうですか?」



「あー…まぁ頼めば聞いてくれそうだよな…聞いてみようかな?」



「まぁ頼まないよりかはマシでしょう。」



「だな、決まりだ。」



うん、そうしよう。



「よし、帰るよ。」



「あ、でも…大丈夫ですか?外多分真っ暗ですよ?」



「え?」



障子を開けて外を確認する。…ほんとだ、さっきより真っ暗。



「いや、本当にくらいな…まぁ、これぐらいなら…」



「…大丈夫なんですか?」



「え?まぁ…筆と紙をかしてもらえるかな?」



「え?筆と紙をですか?…いいですけど…」



阿求がすぐ近くの棚から筆と紙を取り出した。



「あ、墨も用意しますね。」



「あぁ…ご丁寧にどうも。」



墨も作ってもらい、いよいよ準備が整った。



「何をするんですか?」



「え?スペカを作るんだ。」



そう、なんか周りが明るくなるスペカ。戦いには使えないかもしれないけど、強力な光なら、目をくらませる事もできる。その間に相手をたたく…



「…よし、出来た。」



「は、早いですね…」



「うん。なんか慣れちゃって…」



愛想笑いをとる。いや、でも本当に作るの早くなったと思う。今回名前はかっこよくしたいな。



「光符『閃耀-序章-』なんて名前はどう思う?」



「いいと思いますよ?」



「ぃよしっ!!」



よし!ネーセンが認められた!どうせ霊夢には毒を吐かれると思うけど…ってか、これに毒を吐くことはないんだな…



「とりあえずこのスペカを使って帰るわ。」



「どんな内容なのかはわかりませんが、わかりました。お気をつけてお帰りください。」



「了解。じゃ、お邪魔しました。」



座ったまま、丁寧にお辞儀をする。



「はい。」



すっと立ち上がり、玄関に向かう。そして、ふと思う。



あれ?空間開けたほうが早くないか?と言う事だ。



ちくしょう…と思いつつ、頭に手を添える。



「…何をしているのですか?」



「え?能力を使うんだ。こっちの方が早いから…」



「そうやって能力を使うんですね。」



「うん、別の方法もあるけどね。」



そして、紫さんの能力を使い、空間に隙間を開ける。



「おやすみなさい。」



すっと穴の中に入って行く。



「はい、おやすみなさい。」



返事をすべて聞いたあたりで隙間を閉じる。そして、博麗神社につなげる。



「あら、お帰り。」



「おう、ただいま。ってあれ?」



何やら霊夢の腕にすがっている見覚えのある妖怪が…



「…小傘か?」



返事でも十分聞こえただろうに、名前を読んだ途端に顔をあげる。やばい、拗ねてるというか、泣いてるというか…中途半端な表情。



「…お帰り。」



「ただいま。いや、その、何があった?」



「…お米売れなかったよ。」



「うっ…」



そういえばそんなことを村の人が話していたな。やばい、罪悪感ってこの事なのかな?



「…ごめんな、もっと深く考えるべきだったよ。」



「うん…でも修一が悪い訳じゃないからね…私も攻めはしないよ。」



「ありがとう…」



謝ったのが効いた。謝るって、他人に対しての謝罪でもあるし、他人の怒った心を穏やかにさせる(場合がある)から、謝罪って結構大事だよね?



なんて思っていると、横でお茶をすすっていた霊夢があくびをして、目に涙が滲んだときに、



「…とりあえず、もう外も暗いんだし、寝ましょ。」



と言った。

まぁ確かに、外も暗いし…今日は寝ようかな?霊夢にまた部屋を借りるか…