スプリングスティーンの四枚目「闇に吠える街」はなんとも意味深な邦題だ。


街を擬人化している表現で街が闇に向かって吠えていると。そんな訳がある筈も無いのに何故か妙にリアルに迫って来る。


原題を直訳すれば「街外れの暗闇」。邦題とは全く違う意味だと思うがこの邦題は結果的に近からず遠からずで、スプリングスティーンの表現したい事がある程度的を得ている邦題だと思う。


このアルバムについては以前の記事にも書いたが、スプリングスティーンが最もパンクロックに近づいた時のアルバム。ただこのアルバムからはパンクらしさはとんと感じる事は出来ない。サウンド面だけを言えば「ザ・リバー」の方が余程ガレージバンドらしいサウンドを奏でている。


唯一「キャンディーズ・ルーム」からそれを感じる事が出来るくらい。




ただこのアルバム後のダークネス・ツアーではスプリングスティーンは歴代のライブを通して最もアグレッシブにギターを弾き倒し、ワイルドに叫んでいた。


そこで当時のスプリングスティーンがパンクに大いに共鳴していた事が分かるというもの。


つまりあの頃のスプリングスティーンはロンドン・パンクの若者達の様に社会に不満を抱く「怒れる若者」であったのだ。


奴隷の様に働く労働者、ただあてもなくレースに生き甲斐を見つける者、街外れの暗闇で自分が望む物があると信じた者達が迎えるその先には何があるのか。夢と希望かそれとも救い様のない絶望感なのか。


私は人生とはこのアルバムのナンバーである「バッドランド」や「プロミスト・ランド」で描かれる世界の様に必ず救済があると信じている。それが例え生ぬるい認識だとしても。そんな社会的弱者と呼ばれる人々に寄り添うスプリングスティーンのロックンロールと共にそれを信じたいのだ。




* 最後にスプリングスティーンの良き理解者の一人でスプリングスティーンのファンジン「バックストリーツ・マガジン」の創立者でもあるチャールズ・R・クロス氏のご冥福をお祈りします。