2002年にリリースされたスプリングスティーンの「ザ・ライジング」は、久しぶりにEストレートバンドと作り上げたアルバムで我々ファンを大いに喜ばせてくれた。


何故ならスプリングスティーンと共に数え切れない程の伝説的なライブを生み出し、熱い絆で結ばれていた筈の仲間達であるEストリートバンドのメンバーと袖を分かって久しかったから。



バンドと共にニューアルバムの録音でスタジオ入りするのは1984年にリリースされモンスターヒットを記録した「ボーン・イン・ザ・USA」以来実に18年振り。


それまでも1987年の「トンネル・オブ・ラブ」でもEストリートバンドのメンバーを部分的に起用したり、その時のツアーではいつもの様にバンドと共にライブを行ったが、1992年の2枚同時リリースのアルバムから妻であるパティ・スキャルファとピアノのロイ・ビタン以外とは完全に離れる事となる。


そんなスプリングスティーンにあの当時の私は強烈な不信感を抱いていた。その事については以前にも書いているので省くが、1995年にリリースされたベスト盤の目玉用にと新曲を録音する為にスプリングスティーンとバンドが再会するまで、バンドと共にスタジオ入りする事はなかった。その感動的なシーンは映像にもなっているので興味のある方は是非。


それからスプリングスティーンとバンドは以前より固い絆で結ばれ、ディラン調のフォークアルバムを挟んで、遂にバンドとのフルアルバムをリリースする事になる。それがこの「ザ・ライジング」。





ところがバンドとのニューアルバムを制作する前にあの9・11が起こり、スプリングスティーンは9・11に強く衝撃を受けたアルバムを作ることになる。


何故ならスプリングスティーンというアーティストは、アメリカ社会の闇に蠢く犯罪や腐敗を強烈に嫌悪している人間だから、「ボーン・イン・ザ・USA」に於いて社会から取り残され見捨てられたベトナム帰還兵を描いて問題提起をして見せたのもその一つ。



ただそれは彼のイデオロギーが反米からではなく、より良いアメリカになって欲しいという願いを込めて、誰よりもアメリカを愛している人間なんだという証。


そんなスプリングスティーンは心を震わせる感動的な歌詞と曲と演奏によってこのアルバムを作り上げた。このアルバムでは短絡的にテロを憎んだりするのではなく、それによって家族を失った人々や失われた愛について寄り添い語りかけている。


いつの時代でも、どんな場所でも普遍的に鳴り響く様に。