翌朝私はいつになく浮かれていた。何故なら昨夜日式クラブで知り合った美しい中国女性とのデートの約束があったからだ。


彼女の名は王春光、無錫出身の師範大学を卒業したての23歳で兄との2人兄妹、母親が肝臓の手術をするお金を工面するために、日式クラブで働いているのだと昨夜おしえてくれたのだった。


初対面のしかも異国の地の男に何処まで真実を話してくれているのか測りかねるところがあったものの、仮に真実では無かったとしても私にとっては別段特に問題では無かった。何故なら私は数日のうちに帰国をするし、二度と会うことも無いであろう女性の生い立ちなどさして重要ではないからだ。


今日一日オフの日に美しい女性ガイド付きで上海観光が楽しめたらそれで十分満足な筈であった。


約束の昼時になって私が宿泊しているホテルのロビーでその女性を待っていると、彼女はタクシーでホテルの玄関までやって来た。


タクシーから降りてきた彼女は昨夜のクラブでの艶やかな衣装とは対照的な白のTシャツにジーンズという至ってラフなスタイルだったのだが、逆にそれが彼女のスタイルの良さをより一層際立たせていた。


まるで女優かモデルの様な女性が私を見つけて美しい笑顔を輝かせながらこちらに近づいてくる。


私はその光景を年甲斐も無くただドキドキして見つめているのが精一杯だったのである。


彼女は大きく潤んだ瞳で私を見つめながら「你好」と言って、その後は日本語で「何処に行きましょうか」と言ってきたので、私は「我想去南京路(南京路に行きたい)」と中国語で答えると、彼女は「分かりました」ととても嬉しそうに頷いた。


それから二人でホテルの玄関の前に停っていたタクシーに乗り込み、南京路へと向かった。


私の横に座った彼女の横顔を見つめると、新疆ウイグル自治区の血が入っているのではと思える程の端正な顔立ちをしている。


私が彼女を見つめている視線を感じたのか、こちらに振り向き少し怪訝そうな顔をして「怎么了(どうしたの?)」と訊いてきたので、私はただ「何でもないよ」と返すのが精一杯であった。


南京路に着くと私達は先ずスターバックスに入ってアイスコーヒーを注文した。


コーヒーを飲みながら彼女は私にこう言ったのだ。「今まで一度も外でお客さんと会った事はありません」


私は彼女を見つめながら小さく頷き「そんな事は分かっているよ、君がそんな女の子じゃない事くらい」と言うと彼女はひどく嬉しそうに私を見つめ返して来たのであった。