あれは確か今日みたいに暑い夏の日の夜だった、あの子と出会ったのは。


あの頃の僕はきっとやけっぱちになっていたんだろう。だってあれだけ好きだった、ずっと憧れていたCちゃんに徹頭徹尾完膚なきまでにフラれて夢も希望も無くしていたから。


Cちゃんに捨てられてから僕の住む田舎町にも一人前にディスコなんか出来たりして、僕は寂しさ虚しさその他もろもろの感情に捉われて、それらの感情を紛らわす為に柄にも無くナンパに明け暮れる日々を送っていた。


勿論僕の様なモテない君にたやすく落ちる女の子がいるわけもなく、空振りで帰宅する週末が続いていたそんなある日、いつもの週末の様にディスコに女の子をナンパしに出かけていた僕は、物憂げにテーブル席に腰掛けながらカクテルを飲んでいる女の子が目に留まった。


ぱっと見、夏目雅子の様な大きな瞳をした女の子で僕はその子に自分ではさりげなく、周りから見たら思い切りぎこちなく不自然な動きで近づいて行った。


その子は別に僕を拒む訳でもなく僕たちは世間話をしているうちに、その子も僕と同じ様にロックが好きな事が分かって結構話が弾んだと思う。


それから僕たち二人一緒にチークを踊ったり、お互い酒の酔いも手伝って大胆になってそのままホテルに直行した。


その後は連絡先を交換し合い僕は何度かその女の子のアパートに遊びに行って泊まった事がある。


彼女の部屋にはロックのレコードがあってその日はボブ・マーリーの「レジェンド」というベスト盤をかけてくれたと記憶している。


僕と一緒の布団の中でその子は僕に病院で看護師をしている事や、医師と不倫関係にある事とかをサラッと話して聞かせてくれた。


何故だかボブ・マーリーの女性を思いやる歌が胸に沁みた夜だった。


僕たちはそんな関係をしばらく続けたのだが、ある日僕はその子に連絡するのをやめにした。当然彼女の方からの連絡も無い。それで僕たちの短い関係は終わりを告げた。


身も蓋も無い言い方をすればお互いが寂しさを埋めるための道具として利用していたんだな、きっと。


それでも彼女の勤務している病院から少し離れた場所から、車で迎えに行くと嬉しそうに僕を待っていてくれたあの子の笑顔が今でも忘れられない。