デヴィッド・ボウイの「レッツ・ダンス」がリリースされた当時世間ではニューウェーブ花盛りで、ボウイはその元祖的存在として扱われていた。


ただ「レッツ・ダンス」以前のボウイはと言えば80年に「スケアリー・モンスターズ」をリリースして以降、舞台や映画やテレビドラマの役者としての活動に勤しんで新作を作る気配が全く無かった。


だから僕がロックを聴きだした頃のボウイのアルバムは、「美しき魂の告白」と言うベスト盤と、テレビドラマ「バール」の戯曲集くらいしかリリースされていなかった。後は映画「キャット・ピープル」の主題歌と、映画「クリスチーネF」にボウイの楽曲が使われていたくらいで、新曲らしい新曲は皆無だったのだ。




そんなおり、83年春に遂に待ち侘びていたボウイ待望のニューアルバム「レッツ・ダンス」がリリースされた。僕が初めてそのアルバムの中の楽曲を聴いたのは渋谷陽一氏のラジオ番組「サウンド・ストリート」から。


当時渋谷陽一氏がこのアルバムをどう評価したのかすっかり忘れてしまったが、そこで聴かれるボウイの新曲は兎に角、輪郭のハッキリとした煌びやかなサウンドと、パワフルで深みのあるダークなボウイのボーカルが素晴らしかった。

 


それから当時はまだ無名だったスティーヴィー・レイ・ヴォーンの切れ味鋭いアグレッシブで艶のあるギターが聴けるのがアルバムを更に魅力的にしていた。


つまりこのアルバムは二人の才能溢れるアーティスト、ボウイとレイ・ヴォーンという一見ミスマッチなコラボを大いに楽しむアルバムだと言えるのではないか。


しかしこのアルバムによって往年のファン離れが加速した事もまた事実であった。


つまり常に変革(チェンジズ)を自らに課してきたボウイが、このアルバムに於いて音楽的革新をする事なく、ひたすら音の質感に拘っただけ(ナイル・ロジャース、プロデュース)のアルバムだったのがその大きな要因だった。