人の感性とは如何にもいい加減なもので、当時あれだけ拒絶反応を起こしていたジュリーのアルバム、というよりこのアルバムによって僕はしばらくジュリーから離れる事になる曰く付きのアルバムがスタンダードのカバー集「A SAINT IN THE NIGHT」。


このアルバム以前は禁欲的なサウンドのCO-CóLO時代の三部作や、その反動なのか往年の様にギラギラに塗り飾ったサウンドの、これまた三部作を立て続けにリリースした後だったので、ムードミュージックの様なカバー曲に走るジュリーと、ロック的な側面をジュリーに求めるジュリーファンの僕との間に、お互いが求める音楽への強烈なる乖離が生じたのだ。


あの頃の僕はと言えばゴリゴリのロックンロールを強く求めていたから、ここでのジュリーの歌うクラシカルでジャージーな曲など到底受け入れられるものではなかったのだ。


その為このアルバムを一度聴いたきり僕は二度と聴く事は無かった。


それから月日が流れCDを整理していた時に奥にしまい込んでいたこのアルバムを発見して、物珍しさも手伝って久々に聴いてみる事にしたのだ。


するとこのアルバムのイントロを聴いた瞬間ハッとして、いつの間にかあまりの美しいメロディと甘いジュリーの歌声に惹き込まれていった。


なんなら数あるジュリーの名作の中でも、かなりの上位に食い込むほどの素晴らしさではないのかとさえ思えて来た。


このアルバムをあれだけ毛嫌いして、ジュリーファンすらやめようかと思った程のあの感情は一体何だったのか。


つまり身も蓋もない事を言って仕舞えば、この世に永遠などという物は無く、時の流れは音楽の好みすらも変えてしまうという事。


僕はそれで良いと思っている。