良質な映画を観た。

主演の沢田研二の大ファンだという事を差し引いても、実に味わい深い映画だ。


素朴ながら繊細で淡く美しい山菜料理の数々と、それから沢田研二は勿論、周りを固める俳優陣の演技の見事な事。この映画で初めて松たか子が素敵に見えた。




人は一人で生まれて一人で死んでいく。



心筋梗塞で生死を彷徨って死生観が変わった主人公演じるジュリーは、松たか子演じる若い恋人に対して急に突き放す様な態度をとる。病気になる前は松たか子演じる恋人と一緒に住まないかと言っていたくせに。


それはきっと自分の終活に若い恋人を巻き込みたくない彼なりの優しさからだろう。




人は自分が望むものを手に入れて仕舞えば、手に入れた瞬間からその魅力は急速に色褪せていく。あれだけ心の底から求めていたとしても、それは最早魅力の無い凡庸な存在と化す。


全てのもがそうだとは言わないが、そんな事が往々にしてある。


僕はそんな風になるくらいなら、愛する人と恋愛が成就しなくとも、ずっと死ぬまで初めて好きになった時と同じ様に相手を想い続けていたい。


松たか子演じる恋人から他の若い作家と結婚する事を告げられ、話の中で結婚相手の作家である彼の作品はどうかと訊かれた時、ジュリー演じる作家の男はずっと黙ったままだった。


僕はその沈黙が彼なりの彼女に対する愛の証なのだと解釈する。


沈黙は時に多くを語る、そんな映画だった。