前日はCちゃんに会える嬉しさで興奮してあまり眠れなかったけど、当日の日曜日には目覚まし時計をセットして、朝の4時には起きてCちゃんの住む街に行く用意をしていたと思う。


それから5時前には出発してCちゃんのいる大阪へと向かった。当時はカーナビなど無く、事前に用意していた地図が唯一の頼りで、初めて行く道ばかりで何も分からなかったけど、高速に繋がる道路や高速道路の乗り口までは比較的順調に行けた。


中国道から近畿道に繋がる吹田ジャンクションも難なく通過してスムーズに近畿道に乗れた。このまま順調に行けばCちゃんと待ち合わせをいているM駅まで随分早く到着出来そうだ。


Cちゃんの住む街の最寄りのインターチェンジを降りた頃は、待ち合わせの時間まで結構時間的ゆとりがあったので僕は一安心していた。ここまで来たらあとちょっとでCちゃんに会える。


ところが高速道路を降りてからが地獄だった。

初めて走行する道と天性の方向音痴も相まって、何処をどう行ったらいいのか全く分からなくなってしまった。


交差点をどっちに行けばいいのか分からないからゆっくり減速して走行していると、猛烈なクラクションの嵐に見舞われ、こっちかなと思う方向に侵入すればそこは一方通行の逆走だったり。


川沿いの二車線の道路を走行していると、前方から二車線に連なって車がやって来るのが見えた時、自分が逆走している事に気づいて焦ってバックして出ようと思ったけど間に合わず、クラクションと罵声を浴びながら萎縮して停車したり、まあ散々な目にあいながらもCちゃんの待つ駅に行く事だけを考えていた。


時間だけが無慈悲に過ぎて行き、ひたすら焦燥感だけを身に纏い、気がつけば待ち合わせの時間を大きく過ぎていた。


それから交番や消防署やガソリンスタンドでM駅への道筋を訊きながら、やっとの思いで辿り着いた時には約束の時間を2時間は優に超えていたと思う。当時は携帯など無くてCちゃんと連絡の取りようも無く、これだけ遅れてしまったらCちゃんはもうきっと待ち合わせの駅には居ないだろうと思った。


僕は諦めの表情を浮かべながら車を駅の前に停めて待合室に歩いて行くと、そこにはブルーのワンピースを着た女の子がぽつんと一人、こちらに背を向けて立っていた。


僕が入って来た事に気づいたその子は、こっちをゆっくりと振り向いた。


ヘアスタイルが学生の頃と変わっていて、あの頃より髪の毛も随分長くなっていたし薄っすらメイクもしていたけど、間違い無くその子はCちゃんその人だった。入った時は薄暗く感じた待合室も、Cちゃんが振り向いた瞬間パッと明るくなった気がした。


Cちゃんと二人きりで会うのは高校三年の二学期、喫茶店で会って以来の事だったし、目の前にいるCちゃんは僕がずっと好きだった女の子で、しかも学生の頃より更に美しい女性になっていたから、僕は正直ドギマギしたのを覚えている。


Cちゃんはホッとした様な表情をしたあと、酷く嬉しそうな顔で僕を見つめると「E君がもう来ないかと思って、今帰ろうとしていたところだったんだよ」て言ったんだ。


「ごめんCちゃん、道に迷ってこんなに遅くなって」僕は嬉しさと申し訳なさと恥ずかしさとか色々な感情が入り混じりながら、ふわふわした不思議な感覚の中でそう言ったのを覚えている。