マーヴィン・ゲイの音楽に浸っていると、ソウル・ミュージックとは、これ程迄にセクシーで人を幸せな気持ちにしてくれるのかと、思わざるを得ないくらいに心地良い感覚に誘ってくれる。


マーヴィンのアルバムはいつの時代も本当に素敵だが、僕が特に好きな時代はやはりアーティストとして開花した、「ホワッツ・ゴーイン・オン〜愛のゆくえ」以降のアルバム達。


この時代のマーヴィンはボーカリストとしてもソングライターとしても最も脂の乗っていた時期で、彼の七色のボーカルを屈指して、取り分け極めて美しい彼のファルセットが地声に絡み付く瞬間だけでも、マーヴィンの音楽を聴く価値があると言って良いくらい、至上の音楽空間を作り出している。





そんな訳で僕が特に好きなマーヴィンのアルバムから、今回は「ヒア・マイ・ディア 離婚伝説」を取り上げたい。


このアルバムは妻アンナとの離婚によって、払うべき慰謝料を工面する為に制作された動機が不純なアルバムなのだが、その内容はマーヴィンの代表作と言っても良いほど優れた傑作だと思う。


歌詞は極めて個人的な内容に始終していて、ここまで真実を歌い世間に二人の関係性を晒さなくてもいいのではと思えるのだが、きっとそれはジョン・レノンと同じで、自らをヒーリングする為には是が非でもこの様に無様に曝け出さなければならない必然的行動だったのだろう。


音楽的にもマーヴィンの才能が全開したかの様に美しいソウル・ミュージックを紡ぎ出していて、とてもドロドロとした離婚劇を描いたアルバムとは思えない充実した内容となっている。


その後マーヴィンはこれだけの苦悩の末に、やっとの思いで手に入れた愛人であったジャニスとの幸せである筈の結婚生活も長くは続かなかった。