僕の記憶が正しければストーンズのアルバムを初めて買ったのが、この「スティッキー・フィンガーズ」。


このアルバムとの出会いは強烈だった。

先ずいきなり5弦オープンGのキースのささくれ立ったリフの「ブラウン・シュガー」で始まり、続く「スウェイ」の悪魔的でディープなサウンドに圧倒された。ここでのミック・テイラーのスライド・ギターは、この曲の中で実に効果的に鳴り響いている。


三曲目の哀愁溢れるバラード「ワイルド・ホース」は僕の大のお気に入りのナンバー。二人のギタリストによるアコギのストロークがとにかく美しい。


そしてこのアルバムの極めつけのナンバー、「キャント・ユー・ヒア・ミー・ノッキング」。ここでのギターサウンドは、ブラウン・シュガーでのキースのリフと同じささくれた音なのだが、実はこの曲ではキースは一切関わっていない。


切れ味鋭いギターリフと、優雅に泳ぎ回るギターソロはミック・テイラーの独壇場。そこにボビー・キーズのサックスが絶妙に絡みつく展開は只々圧巻としか言いようがない。

あくまで僕の想像だがこの曲はミック・テイラー作曲だと思うのだが。



ワイルドな「キャント・ユー・ヒア・ミー・ノッキング」の後に、激シブの戦前ブルースのカバーをA面ラストに持ってくるあたりも見事としか言い様がない。



アルバムA面だけしか紹介出来なかったがB面のナンバーも素晴らしいの一言。タイトルそのものズバリのお下劣な「ビッチ」から始まって軽快なカントリーナンバーの「デッド・フラワーズ」、古典的スタイルのソウルミュージック「アイ・ガット・ザ・ブルース」ラストの東洋的でミステリアスなメロディの「ムーンライト・マイル」まで非の打ち所がない完璧なる永遠の名盤が、この「スティッキー・フィンガーズ」なのだ。



ストーンズにとってのアメリカ南部の旅は「ベガーズ・バンケット」から始まり、「メインストリートのならず者」で終わりを告げるのだが、このアルバムはそんな旅の途中のストーンズのアーティストとして、最も脂の乗った時期の豊穣なる収穫の記録でもある。