僕たち二人に起こった事は今でもハッキリと覚えている。


学校の体育館で初めて君を見た時、なんて素敵な女の子なんだろうと息を呑んだ瞬間。


それから君が美しい黒髪を靡かせて僕の目の前を自転車で走り去った事や、喫茶店で待ち合わせをしたあの日、僕の待つ喫茶店の二階に君が階段を登って来た瞬間、君の美しさは神々しさに満ち溢れていた事や、君がオフコースや最近観たばかりの映画「さよなら銀河鉄道999」の話をとても嬉しそうに僕に話してくれた事とか。


あの頃携帯電話も無い時代に、僕たち二人は20歳になった時、駅で待ち合わせをしたのだけど、僕が道に迷って君を何時間も待たせた挙句、きっと君はもういないだろうと諦めながらその駅にやっとの思いで辿り着いた時、君は何も無いその駅の待合室でずっと僕の事を、何時間も待っていてくれていたそんな事全てを。


晩秋のあの日、君と最後に会った日の夜、君が僕の車を見送る姿がバックミラー越しにどんどん小さくなっていくのが見えた。


あれが僕がこの世界で君を見た最後の夜だった。


今から39年前の、君ですら記憶の片隅にも無い僕の中に勝手にしまい込んでいる、ほんの淡い些細な思い出さ。