「産科医不足」という記事をあちこちで見るようになりました。
そんな中、病院内で助産師が医師の代わりに分娩を取り扱う「院内助産所」が広がりはじめています。
今回はパパママを支える医療現場での取り組みを、考えてみたいと思います。
■アットホームな安心感
静岡県浜松市にある聖隷三方原病院。ここには2009年3月に開設した院内助産所「たんぽぽ」があります。畳6畳の部屋には窓から光が差し込み、暖かい空気が流れています。分娩台ではなく布団が1枚。楽な姿勢で出産できるように、大型のビーズクッションや手すりなどもあります。
助産所には医師はいません。代わりに助産師経験10年以上の4人が常駐。検診後、助産所での外来、出産に至る全体のプランをたて、継続的にかかわります。出産時には助産師1人が常時介助。陣痛が来なくても薬を極力使わず、一緒に散歩したり、入浴やアロマテラピーを活用したりと、ベテランの経験を活かしたサポートをしてくれます。
■利用者も満足
利用者の評判も上々です。
3人目の出産だったAさんは、以前病棟で出産した際、陣痛室の仕切りがカーテンだけで、子どもの騒ぐ声が迷惑にならないか気になったそうです。「たんぽぽ」を利用し、「個室なので周囲を気にせず済んだ。助産師は皆女性で、医師より悩みを相談しやすかった」と話します。
初めて出産したBさんは、「分娩台は冷たいイメージで怖い。助産所は家族も集まり、温かい雰囲気」と満足していました。
2人目の出産であったCさんは、「病棟で産んだ際は『痛くなったらナースコールを』と言われたが、タイミングが分からず困った。助産師が近くにいてくれ、家のようにリラックスしてお産ができた」との感想を述べています。
■助産所は産科医不足を補えるのか
院内助産所は、医師不足対策の一環として、国も設置を後押ししています。
滋賀県や鹿児島のとある病院では、数人いた産科医が1人になり、お産を断っていました。2008年4月に助産師4人体制で助産所をスタートし、態勢作りを急いでいます。
一方で助産所で医師の関与が少ないことについての、慎重意見もあります。先の「たんぽぽ」では、妊娠20週までに医師がリスクを判定、問題がないと判断された妊婦のみ、利用可能となっています。また2007年に院内助産所「なごみお産」を開設した福岡県福岡市の浜の町病院では、医師と助産師が協議し、分娩時の細かい規定を作成。助産所での出産希望者でも、症状によっては医師が扱う通常分娩に切り替えることにしました。
出産にはリスクが伴うだけに、「助産師には相当の経験が必要」との声も多くあります。厚生労働省では、院内助産所の安全な運営のためのガイドラインをまとめ、指針を示す方針です。また日本助産師会では、2007年から助産師外来・院内助産師の講習会を開始しています。
「日本経済新聞」2009年6月14日付朝刊より
■「子どもを安心して産める環境の整備」が必要
「産科医が不足しているから助産所をつくろう」というのは、サービス提供側の論理です。本来は「子どもを安心して産める環境を整備するためにはどうすれば良いか」という観点から、対応が検討されるべきです。
産科医が不足している大きな要因である「過酷な労働環境」を改善しなければ、問題の根本は解決しません。
パパママが「子どもを安心して産める」と思えることが、未来を担う子どもを産み育てる家族を増やすことにつながりますよね。
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