女性の活躍で人口減克服 | 考えてみよう

考えてみよう

ダイバーシティ・女性の自律支援に取り組む

クラーク・フューチャー・コンサルタンツのブログです

日本はすでに「人口減少社会」・・・
ではあなたは先進国の人口減少の原因は何だと思いますか?
「21世紀の人口変動の主因は過去と全く違う」そして「『女性の活躍』が人口減を克服する道である」
・・・なぜ女性の活躍が、人口減の克服につながるのでしょうか?
比較経済史がご専門の、静岡文化芸術大学学長 川勝平太氏の論文を紹介します。


■19世紀以前の人口減少の最大の要因とは・・・
日露戦争以前、すなわち19世紀以前の人口減少の最大の原因は、病気、とりわけ疫病でした。

14世紀にヨーロッパで大流行した「黒死病」は、数年間で人口の三分の一を失う悲劇を招きました。

また元朝から明朝に変わった中国でも、疫病が原因で人口が半減しました。
疫病に伴う人口動態は、社会の構造を劇的に変化させます。

当時「疫病に効く」と信じられたコショウ・香辛料を求めて産地へ出かけ、大航海時代の幕開けとなりました。

また疫病対策は、西洋医学・東洋医学の発達を促し、人類は病気に対する免疫性を次第に獲得するようになりました。


■「戦争」が引き起こした20世紀の人口減少
20世紀は「戦争の世紀」「革命の世紀」といわれ、人間の暴力で命を落とす数が激増しました。

現在もイラクでの兵士や市民の死亡報道など、常に世界のどこかで戦争による悲劇が繰り返されています。


■平和期には女性の活躍する機会が増える
現代先進国の人口減少は、疫病や戦争以外の要因です。

川勝氏はそれを「女性の集合意思」と名づけています。

つまり、不特定多数の女性の願望や気持ちが十分発揮できる社会環境にあるかどうかが、人口動態を大きく左右するのです。
日本の歴史的事例を紐解いてみると、モデルが提供されます。
人口が激増するのは男優位の荒々しい時代でした。

鎌倉から江戸初期は戦乱で特徴づけられ、明治維新以後は日清戦争から第二次世界大戦に至る数々の戦争に加え、戦後復興・高度成長と、平穏とは程遠い世相でした。

人口は、鎌倉時代から江戸前期までは五倍、明治維新から1995年には1億2,700万人強と、四倍も激増しました。
一方で女性の集合意思が働きやすい環境が立ち現れた時期の人口は、ほとんと定常状態です。

平安時代の中・後期(900年から1150年までの人口は640万人から680万人)と、江戸時代の中・後期(1700年前後から1870年前後の人口は3,100万人から3,300万人)がそれに該当します。

平安時代の中・長期は女流文学の隆盛時代を迎えています。

女性が自己主張した時代です。

一方の江戸時代の中・長期、女性は男性に劣らない意思を通していました。

「曽根崎心中」からはやった心中には、女性の意思が働いていました。

また離婚も増えており、離縁後、男性は寂しい生活に陥りがちでしたが、女性は再婚などして、たくましく生きたという研究結果が出ています。

幕末の江戸城の無血開城には、勝海舟と西郷隆盛のコンビだけでなく、2008年NHK大河ドラマの主人公である篤姫と、皇女和宮のぺアが貢献したことも、明らかになっています。

平和な時代には女性の活躍の機会が増えるのです。


■今は過渡期、仕事と生活の調和を目指そう
戦後、平和が訪れ、世界第二の経済大国として経済的豊かさを享受する今の日本は、「女性の集合意思」を再び働かせ、男女協働の経済社会を構築できる条件が整っているはずです。

女性の活躍の場は増え、女子の教育熱が高まり、女子の大学進学率(短大を含む)は1990年には男子のそれを上回っています。

当時の若者は現在では40歳近くになり、それ以下の年齢の男女に学歴の差は全くありません。
結婚前の女子学生への講義で少子化に話題が及んだ際、「将来、何人の子どもがほしいか」と尋ねると、「二人」「三人」という答えにほぼ二分され、「一人」と答える女子学生はほとんどいません。
そうした女性の集合意思が尊重される社会をどう実現するか、それこそが少子化克服の道です。

日本の人口減少は、新しい社会像がまだ明確ではないという「過渡期の警鐘」と見るべきではないでしょうか。
ワーク/ライフ・バランスの達成はこうした観点でとらえられるべきです。

仕事と家庭を両立させる環境づくりが遅れているため、女性は結婚や育児を犠牲にして仕事を選び、その結果、出生率が落ちているのです。


かつてJ・J・バッハオーフェンは『母権制』で、三千年ほど前に人類社会は母権制から父権制に変わったと論じました。

女性の社会進出は国連の後押しを受けて地球規模で進んでおり、先進国ではついに父権制が緩みはじめました。

これは人類史上、画期的です。

男性優位の父権制的な価値観は人類史の潮流に逆行するものです。

女性の集合意思を尊重する制度設計をなせば、日本の人口は微増の定常状態に戻るとみておけるのではないでしょうか。


2008年4月17日付『日本経済新聞』 より


川勝平太氏が学長を勤める静岡文化芸術大学HPはこちらをクリック
http://www.suac.ac.jp/index.html
大河ドラマ「篤姫」HPはこちらをクリック

http://www.nhk.or.jp/taiga/