糸と糸がふとつながって | 阿蘇の国のクララ

 

10月14日(木)

午前5時...

 

歩け、

という声がする。

 

頭の中で。

 

...コブ?

 

「クララ、行くよ」

 

「クー...、こんなに早くから?」

 

「そう、山に登るの」

 

その声が聞こえると、

私はじっとしていられなくなる。

 

すぐさま外に出る。

 

(歩け)

 

「...アリス号?」

 

平治(へいじ)号...

くじゅう連山の一つ

平治(ひいじ)岳にちなんでつけられた

山のガイド犬。

遭難者を救ったとされています。

ちなみに雌です。

 

「クー、クララ号だよ♪」

 

午前7時...

長者原ビジターセンター出発。

 

「クー、どの山に登るの?」

 

「あの山を越えた山荘まで。

九州最高所の秘湯があるの」

 

三俣山(みまたやま)...

どこから見ても三つの峰を持つように

見えることから来た山名。

実際は、五つのピークを有する。

 

「...まずは、雨ヶ池まで。

70分の予定よ」

 

「クー!」

 

「クー、そろそろ紅葉の季節だね♪」

 

ひょいひょいと

ガレ場をのぼりながら言いました。

 

「今年は遅れているの」

 

とママは呟きました。

 

山の木々は鬱蒼としていて、

時々シカや

よくわからない鳥が鳴きました。

 

「うれしいなあ」

 

突然ママが笑いました。

 

「...6年振りなの、

このブナを抱きしめるのは」

 

「...6年前、がんになった年に

アリスと登ったのよ」

 

「...あの日も、

この場所で薬を飲んで、

30分休んでから再び登り始めたの」

 

「...きつかったなあ」

 

雨ヶ池

 

今この場に私がいるのは

必然だったような気がします。

 

いろいろなめぐりあわせで、

遠いところにあった

糸と糸がふとつながって、

すうっとここにひきよせられてしまった...

 

そんな感じがしました。

 

心の中で、

ああ、アリスおねえさんと

つながっているんだ、と思いました。

 

「ありがとう」

 

ママは私の手を取ってそう言いました。

 

私はいつでも

(愛されている感じがする)

と照れくさく思いました。

 

「ここまで2時間半の予定が

3時間掛かっちゃった...」

 

空は青くて透明に光っていて、

風は高く吹き渡っていて、

一頭のアサギマダラが

山を越えて行きました。

 

坊がつる

 

(歩け)

 

(歩け)

 

「歩けー!」